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落ち着く場所

 イザベルの生活も、それは厳しいものだった。

 教会には国王からの支援で、食べ物と少量の水も配られていた。

 心優しいイザベルは、それを信徒と分け合った。


 だけど、その行いが裏目に出てしまう。

 日に日に食料を求めるだけの人々が増え続け、

 昔からの信徒に不満が募り、

 さらに、それが聖女の目に留まってしまった。



 「…私がもう少し、上手く立ち回れればよかったんですけど…」

 「イザベルは優しすぎるな。

  人は追い込まれると自分の事しか考えられなくなる。

  お前が悪いわけじゃない。

  人は、本来そういう生き物なんだろう」

 「でもエンフェルト様は上手くやっていらっしゃるじゃないですか」

 「たまたま運がよかっただけだ。

  あの日、優が来てくれなったら…誰も生きてやしないさ」

 「…エンフェルト、そろそろ熱くなってきた」

 「ごめんごめん。長湯になってしまったね」



 お風呂を上がるのは、いつも僕とエンフェルトが一番早い。

 エンフェルトがまだ浸かりたかったらどうしようかと思う時もあるけど、

 いつも一緒に上がってくれる。


 今日はイザベルも一緒に上がった。

 そして、僕達に話があると言うので、

 せっかくだから大聖堂に案内して、そこで聞くことにした。



 「もう一度、此処を訪れる事が出来るなんて…」

 「祈っていくか?話なら後でもいい」

 「いえ、まずは優様にこれを」



 イザベルはお風呂の中でもロザリオを首から下げていた。

 それを丁重に外して、僕の首に掛けてくれた。



 「私が此処まで無傷で来れたのは、そのロザリオのおかげ。

  昔、この聖域で見つかった不思議な金属で作られたと言われています」

 「ロザリオのおかげ?つまり、それが魔獣除けになっていたと?」

 「気休め程度だと思ってください。

  攻撃はされませんでしたけど、追い払う事はできなかったのですから」

 「これが有るのと無いのではかなり違うから助かるよ。

  だがいいのか?大事な物なんだろう?」

 「諸々のお礼にしては安いくらいです。

  この生涯で、二度と身体を清められるとは思いませんでした。

  それに、そのロザリオさえ無ければ、私はもう単独で王都には戻れません」

 「…イザベル。お前の誠意は確かに受け取った。

  大聖堂は自由にしていいし、シスターがやりたければやってもいい」

 「感謝します。少し、考えます」

 「そうか。直に食事の準備も始まるだろう。

  食事ができるまで此処に居るか?最初の部屋で休むなら案内するが」

 「…此処に、居させてください…」



 イザベルは女神像に向かって膝を付き、両手を組んで祈り始めた。

 そっとしておこうとエンフェルトに促され、大聖堂を後にする。


 二人きりになると気が抜けたのか、眠くなって欠伸が出た。

 それをエンフェルトに見られて、部屋に戻ってベットに連れ込まれる。

 なんだか色々あったけど、この場所にエンフェルトと戻ってこれてよかった。



 「この場所が一番落ち着く」

 「ほんと?でも皆にもギュッとされてたでしょ?誰が一番よかった?」

 「エンフェルト」

 「…ふふ、そう言ってくれて嬉しいよ」

 「…ちょっとだけ、寝てもいい?」

 「もちろんいいよ。

  食事ができたら、起こしてあげる」



 温もりに包まれて、徐々に微睡んでいく。

 今一緒に寝てるのが、もしかしたらエンフェルトじゃなくなる。

 その可能性に気が付いた時、今更ながら恐怖がやってくる。


 寝る前にそんなことを考えていたから、

 エンフェルトが、僕の前から居なくなる夢を見てしまった。



 「…エンフェルト…?」

 「どうしたの?まだ寝てていいよ」

 「…エンフェルト"は"、居なくならないでね…?」

 「約束するよ。だから優も、私を一人にしないでね」

 「…うん…約束する…」



 もし今度、エンフェルトが戦いに行く事があったなら、

 僕も絶対に一緒に付いて行こうとそう決めた。


 食事が出来たと、ミリーに起こしてもらった。

 食堂に行く前に大聖堂にイザベルを呼びに行く。

 かなり時間が経っているのにも関わらず、膝を付いてお祈りを続けていた。



 「ずっとああしてたのかな?」

 「久しぶりだから、色々話したい事があったんだろうね」

 「誰と?神様?」

 「優は神様はいると思う?」

 「うん。いると思う」



 この世界に来た前、誰かの声を聞いた。

 僕のお願いを聞いてくれたあの声は、神様だったんだろうか。

 それを確かめる手段はないけど、

 両手を組んで、女神像に向かってお礼を伝えておいた。



 「なかなか様になってるね。何をお祈りしたの?」

 「エンフェルト達と会わせてくれて、ありがとうって」

 「それはもう私が伝えておいたよ。でも、ありがとう」



 その後、イザベルに声を掛けても反応はなく、

 エンフェルトが肩に触れる事でやっと僕達に気が付いた。


 食堂ではステラと数人が人数分のパスタを用意していた。

 僕も慌てて、皆のコップに水を注いで回る。

 一応、飲み水用として食堂の大きな樽には水を注いであるのだけど、

 なんとなく、食事の時は新しい水を注いであげたかった。


 不思議な事に、野草が乗ったパスタが二つあった。

 いつもは僕だけだったから、誰が食べるんだろうと考える。

 戦ったエンフェルトの分かもと思ったけど、

 やっぱり、イザベルの分なんだろうなと思った。



 「イザベルはそこに座れ」

 「本当に私まで食事を貰っていいのですか?それに、こんなに…」

 「野草が乗るのは今日だけだ。

  優が中庭で育ててくれてるけど、もう少し時間が掛かる」

 「…本当になんと、お礼を言っていいのか…」

 「礼なら優にしろ。

  どれもこれも、優の水があるから出来る事だ」

 「…優様、有難う御座い…」

 「それはもういいよ!」



 途中から予想してたので、今度は動き出す前に止める事ができた。

 お礼はもういいと説得し、落ち着いたイザベルは、

 両手を組んで、祈りの言葉を"僕に向かって"口にした。



 「貴方の慈愛に感謝し、この食事をいただきます」

 「うん?優に向かって祈ってるのか?」

 「此処に居る皆様を救っているのは、紛れもなく優様です。

  なので、食事の祈りを捧げるのは優様に」

 「良い心掛けだな。

  でもあまり仰々しくすると、優の居心地が悪くなってしまう」

 「そうですね。次から配慮します」



 食事が済んで、今日もお腹いっぱいになった。

 各々で後片付けをして、今日も本を読んで貰うべく、

 一時的にエンフェルトと離れてステラと一緒に部屋に行く。


 部屋に入ると、ステラが初めて部屋の扉に鍵を掛けた。



 「鍵?」

 「優を独占してる気分を上げる為にね。

  今日、お風呂でモテモテだったね?」

 「皆、どうしたんだろうね」

 「私も、怖くないよね?」

 「怖くないよ。当たり前でしょ」

 「…一応、聞いておこうと思ってさ。

  優と一緒に居ると、普通の女の子みたいに思える」



 その意味が僕にはよくわからなかった。

 その後のステラはいつも通り元気で、本の続きを読んでくれた。


 読み終わると、いつものようにエンフェルトの部屋の前まで送ってくれた。

 僕を引き渡す時、ステラの顔がいつもより寂しそうで、

 ステラは何も言ってないのに手を引いて室内に連れ込んだ。



 「今日、ステラも一緒で良い?」

 「優がそうしたいならいいよ」

 「…いいんですか?団長が優を独占したいなら私…」

 「優の好意に甘えろ。ただし、抱き着いて寝るのは私だ」

 「…半分こしましょうよ!」

 「元気が出たなら部屋に戻れ」

 「嫌です!もうその気なんですから!」



 布団の中で、僕の取り合いが始まった。 

 最後は三人で寄り添いあって、少し暑いくらいだった。

 でも、とても安心できる温かさだ。


…。

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