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共犯者


 そうこうしてるうちにイザベルが身体を洗い終えた。

 ステラは湯船に戻ってきたけど、

 イザベルは足を入れるのを躊躇しているようだった。



 「…まだ飲めるほど綺麗なのに、本当に入っていいんですか?」

 「いいに決まってるだろう?私達だって入ってるじゃないか。

  だが、優の前で風呂のお湯を飲んでくれるなよ?」

 「…正直、さっき水を貰っていなかったら飲んでますね」



 それは冗談だったのかもしれない。

 イザベルはそう言いながら初めて笑い、その後、両手で顔を隠して泣いていた。

 

 ステラとミリーが介抱しながら、イザベルを湯船の中へと導いた。

 初めて此処のお風呂に入った時、皆も泣いていた情景が頭に浮かぶ。



 「やっぱり、お風呂に入ると皆泣くんだね」

 「私は泣かなかったでしょ?」

 「でもエンフェルトはその後、部屋で…」

 「それは、内緒の約束でしょ」



 人差し指で口を押さえられた。

 そう言えば泣いた話はしないようにって、

 エンフェルトとステラに言われたんだった。



 「それより、エンフェルトは元気になった?

  疲れてるなら、まだ離れてた方がいい?」

 「もう大丈夫だから傍に居てよ。

  久しぶりに戦ったから、目を閉じて、反省してただけ」

 「反省?」

 「もっと上手くすれば、せめて片方の篭手だけでも無事だったかなって」

 「篭手はもう気にしなくていい。

  それより、本当に怪我しなかった?」

 「確認してみる?」



 エンフェルトは水面から腕を出して、僕に差し出した。

 それに触りながら、入念に怪我が無いかを確認する。

 細くて白いその腕には、傷一つなかった。



 「綺麗だった」

 「でしょ?私、こう見えて強いんだよ」

 「この中で一番?」

 「剣なら私かな?弓の命中精度とかになると、ミリーかな?」



 誰が強いとか、何が得意だとか、

 そんな話を聞いていると、いつの間にかエンフェルトが僕の背中に回って、

 耳を塞ぐように手で覆ってきた。



 「優、ちょっとだけイザベルと内緒の話をするから、耳を塞ぐね」

 「わかった」



 そう返事をすると、耳の中に指を入れられて、

 自分の心臓の音しか聞こえなくなった。



 「さてイザベル。お前、これからどうする気だ?」

 「…。」

 「…王都に戻る気なら、折を見て届けてやろう」

 「死体でなら、ですか?」

 「…わかるか?」

 「この子の為ですよね。万が一にも情報が漏れないように。

  その点はご安心ください。

  王都に戻る気は、欠片もないですから」



 内緒の話はすぐ終わったのか、耳から手が離れた。

 その後の話を聞いていると、

 イザベルは住んでた場所を追い出された感じだった。



 「聖女様は、教会に信徒が集まるのが嫌だったようです。

  それで、私は反乱を企てた首謀者のように扱われて、

  皆の私を見る目が、だんだんと変わっていって、

  …未遂ですけど、襲われそうになったりして…」

 「襲われたの?怪我、しなかった?」

 「…心配してくれてありがとう。

  大丈夫、なんとか無事でいられたから」

 「災難だったな。それで、イザベルがこの城を目指した理由は?」

 「仕方なく荒野に逃げました。

  でも、王都を出れば長くは生きられない。

  だから、最後の旅になるなら…、

  大聖堂を一目でいいから、もう一度、見たくて…」



 それっきり、イザベルは黙ってしまった。

 今までの旅路を思い出しているのか、

 両手を合わせて、その場で祈りを捧げているようだった。



 「そのまま聞け。

  我々の仲間になるなら、此処で暮らしてもいい」

 「…。」

 「しかし、よく聞いて考えろ。

  我々の仲間になるという事は、我々と同じ罪を被る共犯者になるという事だ。

  清く死ぬか、堕ちて生きるかを選べ。

  まぁ、具体的に我々が犯した罪を言うとだな…」



 エンフェルトがそれを口にした瞬間、周囲がざわついた。

 特に近くに居たミリーが慌て始め、

 さっきのエンフェルトを真似て、僕の耳を塞ごうとしてくる。



 「…団長。優に聞かれたら私達…」

 「優は全部知ってるよ」

 「…え?」

 「私が既に話した。

  私達が貴重な召喚石を勝手に使い、さらに前の転生者を殺し、

  この城を不法に占拠して、金品を売りさばいてる犯罪者だと知っている」



 驚いてるミリーと目が合った。

 僕が頷くと、ホッとしてるのか悲しんでるのか、

 複雑な表情をしていた。

 

 それを聞いた周囲も、より一層ざわめいた。

 すると、そのうち一人がゆっくりと僕に近づき、手を差し出してきた。

 意図がわからずに困っていると、

 エンフェルトが怖くないなら触ってあげてと、そう言ってきた。


 当然、その手に触れた。

 触れると手を掴まれて、ゆっくりとした動きで、

 まるで僕が逃げないのを確認するように、時間を掛けて抱き締められた。


 それを皮切りに、次から次へと僕の周りに人が集まってくる。



 「優が盗られてしまった。あれでは当分帰ってこなそうだ」

 「エンフェルト様、あれは…?」

 「ああ、皆、引け目があって優に触れるのを躊躇っていたんだろう。

  穢れている手で、何も知らない優に触れるのが怖かった。

  でも受け入れてくれるなら、ずっと触れたかった。

  …で、答えは出たか?」

 「…。…あの子が全てを受け入れているなら、私も…」



 お風呂の中で、しばらく揉みくちゃにされた。

 多分、ほぼ全員に抱き締められてきた。

 その中にはミリーも居て、人一倍強い抱擁だった。



 「…エンフェルト~ただいま~…」

 「お疲れ様。なんだか大変だったね?」

 「急にどうしたんだろうね?」

 「さぁ、どうしてかな。

  そうだ、イザベルも一緒に暮らす事になったよ」

 「そうなんだ!よろしく!

  …僕もイザベルって呼んでいい?」

 「もちろんいいですよ。優様」



 様と呼ばれるのには慣れないから、呼び捨てでいいと伝えた。

 けど、イザベルは皆に様と付けて呼びたいらしい。


 お風呂に漬かったまま、お城での過ごし方をイザベルに僕が教えた。

 朝と晩に食事がある事と、水は好きなだけ飲めることにすごく驚いていた。


…。

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