不安な時間
ステラはこういう事が起こると、いつも一人で待っていたそうだ。
戦闘に参加できない心苦しさと、
万が一にも誰も帰ってこない不安に、
いつも押しつぶされそうになるとそう言った。
「…本当は、私、役に立たないの…」
「…絶対、そんな事ない…」
「…ふふ、今日は優が居てくれて、本当によかったよ…」
ステラは自分の涙を拭った後、僕の涙も拭ってくれた。
その後、二人して女神像にお祈りを捧げる。
エンフェルトがしていたように、両手を合わせて、必死に祈った。
どれだけの時間が経過したんだろう。
実際は数分だったのかもしれないが、
それが何時間にも思える程、長く感じた。
遠くの方で物音がした。
誰かが帰ってきたんだと思って、大聖堂の扉に向かう。
しかし、ステラにそれを阻まれて、
強制的に、僕が召喚された地下への入り口に運ばれる。
「まだダメ!もし魔獣だったら、私と一緒に地下に行くの。
団長と、そういう約束になってるから」
「…エンフェルトと…?」
「優さえ無事なら、皆安心できるからって」
「…わかった…」
「…辛いよね、よくわかる。
でも、団長や、皆の願いだから」
緊張したのは、一瞬だった。
すぐにエンフェルトの声が聞こえたからだ。
張りつめてる声だったけど、
生きてる事がわかって、とにかく涙が出てきた。
少し待つと、大聖堂の扉が開いた。
そこにはエンフェルトが立っていて、
ボロボロになった篭手を、バツの悪そうな顔で持っていた。
「ごめんね、篭手、ボロボロにしちゃったんだ…」
「…そんなのいい!…エンフェルトが無事なら、なんでもいい…」
「…ありがとう。
…でも、これのおかげで怪我しなかったよ」
それが本当なら、篭手を渡せてよかった。
また感情が溢れて、話せないくらい泣き出してしまう。
それをエンフェルトが、優しく慰めてくれた。
「団長、今どういう状況ですか?」
「ステラ、お前ひどい顔してるぞ。また泣いてたのか?」
「そんな事はいいんです!」
「全員無事だよ。
誰も怪我してないけど、まだイザベルには何も聞けてない」
二人の話を聞いてると、イザベルと呼ばれた人も助かったみたい。
ただものすごく疲弊していて、話せる状態じゃないそうだ。
それと、魔獣は倒せなかったようだ。
エンフェルトが注意を引いて、イザベルから引き剥がし、
その隙に助け出したそうだ。
「武器がなかったから、倒すのは無理だった。
しばらく城の周りをウロウロしてたけど、遠くに逃げた。
一応、全方位を見張ってもらってる」
「珍しいですね、この辺りまで…」
「獲物が居るなら、城の近くまで来る事もあるんだな」
ずっとエンフェルトにしがみ付いていた。
エンフェルトはステラと話しながらも、
背中を撫で続けてくれている。
「私、イザベルの様子を見に行ってきますね」
「今は気を失ってるよ」
「それでも、顔くらい見たいですから」
ステラは立ち上がり、大聖堂を出て行った。
エンフェルトは二人きりになると、
僕に強く、抱き着いてきた。
「皆がすぐ来てくれたから助かったよ。
優のおかげだね」
「僕、何もできなかった…」
「そんな事ないよ。皆を呼んでくれたでしょ?
それに、優が居てくれるから頑張れた」
そう言われると、気持ちが少し楽になった。
それから、まだ明るいけどお風呂の準備に行く。
皆疲れてるだろうからと、エンフェルトの提案だった。
「私達で沸かせてみようか」
「…僕もいいの?」
「準備した後に教えて、皆を驚かそう」
「…うん!」
水をお風呂いっぱいに溜めた。
薪部屋に移動して、エンフェルトと一緒に火を入れる。
これから二時間くらいはずっと燃やすそうだ。
「そんなに掛かるんだ」
「飽きたら遊んできても良いよ」
「…エンフェルトと一緒に居る」
「そう?そう言ってくれると嬉しいよ。
あんまり火に顔を近づけないでね」
火の中に定期的に薪を放り込む。
それに火が移っていくのは、なかなか見ごたえがあった。
それとちょくちょく水温を確認したくなり、
何度も浴室と薪部屋を往復した。
一時間ほどが経ち、水がお湯と言ってもいい温度まで上がった。
すると、脱衣所の方からステラの声が聞こえた。
「こんなところに居た!
もう、かなり探したんだよ?団長も一緒?」
「皆の為に、一緒にお風呂沸かしてる」
「団長は本当に優に甘いね~。ほんとはダメなんだよ?
でも、皆もきっと喜ぶね」
ステラを連れて薪部屋に行く。
どうやら、イザベルが意識を取り戻したのは良いものの、
かなり脅え、狼狽しているようだった。
「なんだか、正気じゃない感じです。
誰かが見張ってないと、何をするか…」
「今は誰が居る?」
「一応、ミリーが対応中です。
…団長、行ってあげてくれませんか?此処は私がやっときます」
「わかった。優はどうする?ステラと続きする?」
「優も行ってあげて。イザベルにお水、あげて欲しいんだ」
ステラをその場に残して、イザベルの元に向かう事にした。
イザベルの部屋の前では、数人が心配そうに聞き耳を立てている。
それをエンフェルトが心配いらないと伝え、各々、各自の部屋に帰っていく。
エンフェルトが扉を叩くと、中からミリーの声が聞こえて扉が開いた。
僕を見つけると、ミリーは少し困った顔で笑う。
「…結構アレな状態ですけど、優にも見せますか?」
「大丈夫だよ。優だって頼りになる」
「そうですね。それじゃ優、イザベルを宜しくね。
…人が多いと怖がるので、私は外に居ます」
ミリーと交代で部屋の中に入った。
部屋の中は色んな物が散乱していて、暴れた様子もある。
初めて近くで見たイザベルは、
部屋の隅で、頭を抱えて震えていた。
…。




