危機
あれからも時々だけど、ステラも一緒に寝るようになった。
僕は嬉しかったけど、
エンフェルトはなんだか微妙な反応だった。
「団長、今日も一緒に寝てもいいですか?」
「ダメだ」
「なんでですか!」
「話してばかりで、なかなか寝ないからだ。
夜更かしして、優が寝不足になったらどうする」
「早く寝ますから!それに、今日は団長に優を渡しますから!」
「まったく…。優、今日もステラが一緒でいい?」
「いいよ」
「やった!それじゃ、夜にお邪魔しますね!」
ステラが夜に来る日も、寝る前にステラの部屋で本を読んで貰う。
せっかくならエンフェルトも聞こうよと誘ったけど、
本は自分で読みたいらしい。
「それじゃ、僕は仕事に行ってくるね」
「はーい。私も片付けてからパンを作らなくっちゃ」
「僕も手伝うよ!」
「ありがと!
でも、今日はお手伝いがいっぱいいるから、団長と遊んでおいで」
「そう?わかった」
朝食を食べ終わると、僕は"仕事"をしに中庭に向かう。
最近、皆をよく見てるとひとりひとりに役割がある事に気が付いた。
だから、僕も仕事がしたいと言ったら、
エンフェルトが僕を庭師に任命してくれた。
僕が水を撒き始めて、今日で何日経ったかな。
ちらほらとだけど、元気な植物が増えてきた気がする。
「もうすぐ皆のパスタにも野草が乗りそうだね」
「ほんと?エンフェルトも嬉しい?」
「嬉しいよ。やっぱり、彩がある方が美味しそうに見えるからね」
そう言われて俄然やる気が出てきた。
いつもよりちょっと多めに水を撒き、中庭を後にする。
この後の予定は一旦部屋に戻って休憩だ。
僕は水をいくら出しても疲れた事はない。
けど、エンフェルトがどうしても様子が見たいと毎回強く頼んでくる。
軽く休憩したら夕方にお風呂に水を入れるまで自由時間だ。
適当に城の中を探索する日もあれば、
今日みたいに最初からエンフェルトと二人の部屋に行って、外を眺める日もあった。
「望遠鏡、そんなに気に入ってくれた?」
「うん!貰った物の中で一番気に入ってる」
「ふふ、そう言ってくれると私も嬉しいよ」
城の一番高い場所から外を覗く。
この前見た時から何も変化はないけど、面白くてやめられない。
ただ、今日は何か違和感を感じる。
じっと見てると、遠くの方で何かが動くのが見えた。
「あれ、何か動いてる」
「魔獣かな?魔獣は聖域を嫌うから、城から見える所に居るのは珍しいね」
「ねぇ、エンフェルト。…誰か、追いかけられてる…」
魔獣から逃げるように、此方に近づいてくる人が居た。
それを口にした途端、望遠鏡を取り上げられる。
不思議に思ってエンフェルトの顔を見ると、
なんとも寂しそうな顔で、何も言えなかった。
「誰かが襲われるところなんて、優は見ないで」
「…助けられない?」
「下手に助けて、優の存在がバレるのが怖い。
それに、他人を助けてる余裕が、私達には無い。
…でも、顔くらい、覚えておいてあげようかな」
そう言って、エンフェルトは望遠鏡を覗いた。
その瞬間、僕でもわかるほどの動揺を見せた。
「どうしたの?」
「…イザベルだ。どうして、あんなところに…」
「知ってる人?」
「…王都で、シスターをしているはずなんだ…」
「助けようよ、エンフェルト」
「でも、優…」
「僕も手伝うから!」
すぐさま部屋に置いてある兜と篭手を身に着ける。
やっぱり、無理にでも剣も貰っておけばよかった。
それからエンフェルトの手を取って、出口へと引っ張る。
「優、待って」
「待たない。急ごうよ」
「…優のおかげで、覚悟が決まった。
だから、優にお願いがあるの」
「なに?」
「一人で階段を降りて、誰かを見つけて、城の入り口を開けさせて。
転ばないように、急がなくていい」
「…エンフェルトは?」
「窓から飛び降りる。
それと、ステラを探して、予定通りに行動しろって伝えて」
エンフェルトは窓から顔を出して、辺りを確認した後、
本当に身体を乗り出して飛び降りようとした。
「エンフェルト待って!せめて、これ持ってって!」
「…ありがと」
慌ててたから兜は渡しそびれたけど、篭手は渡せた。
お礼を口にしたエンフェルトは、本当に窓から消えていった。
無事に降りられたか確認しようと思ったけど、
どうしてか、怖くて見られなかった。
静まり返った部屋で頼まれた事を思い出し、ようやく我に返る。
前がよく見えるように兜を脱ぎ捨て、階段を降りる。
不安から涙が溢れてきた。
僕がお願いしたから、エンフェルトの身に危険が迫っている。
そんなプレッシャーに襲われる。
早く、早く誰かを見つけないと。
「…だ、誰かー!…グスッ…助けてー!」
階段を降りてから、必死で叫びながら走った。
幸い、すぐに複数人が僕を見つけてくれて、
騒ぎを聞きつけたステラもきてくれた。
「優!どうしたの!」
「ステラ、エンフェルトを助けて!」
「団長?何処!?」
「今外に居て、入り口を開けてって…」
ステラは周りの人に目配せをした。
すると、一斉に同じ方向に走っていく。
慌てて皆に付いて行こうとしたけど、
ステラは僕を抱えて、大聖堂に向かった。
「優は此処に居るの。此処が一番安全だから」
「僕もエンフェルトを助けに行く」
「絶対ダメ。邪魔になるから」
「…でも…だって…」
はっきり邪魔になると言われると、やっぱりショックを感じた。
実際に何ができるかもわからないけど、
何でもいいから、エンフェルトの為に何かしたかった。
「ごめんね。邪魔だなんて言って。
…でも、私も同じだから、我慢して…」
「…ステラ?」
「…私、戦闘の適正がないから、訓練、受けられないんだ。
本当は私も行きたいけど、足、引っ張っちゃいけないから…」
ステラは泣きながら僕を抱き締めてくれたけど、
その身体は震えていた。
…。




