二回目の入浴
ステラがパンを捏ね終えるまでエンフェルトと食堂を見て回った。
乱雑に置かれていた麻袋がなんとなく整理されている。
「なんだか綺麗になってるね」
「優のおかげで余裕が出来たからね。
ステラあたりがやったんじゃないかな」
「食べ物はあとこれだけ?」
「いや、倉庫にもっと沢山あるよ」
此処にある物資は一部だけらしい。
城には聖域とは別の地下室があって、
干し肉や穀物が山積みになっているそうだ。
「お待たせしました!
じゃ、一緒に晩御飯を作りましょ!」
「うん!何すればいい?」
「一緒にパスタを茹でて、盛り付けてくれますか?」
「わかった!」
大鍋に水を並々入れ、大量のパスタを入れる。
ステラが目分量で塩を入れ、僕が混ぜた。
茹で上がったパスタのお湯を切り、油と和える。
それに干し肉を薄く切った物を混ぜて出来上がりだ。
「ほんとは一人分ずつ作った方が美味しいんですけどね」
「次はそうする?」
「流石に薪が勿体ないからね~。
薪の余裕はいっぱいあるんだけど、無駄が嫌いなんですよ。
でも優の分だけならそうしてもいいかも?」
「ううん。なら僕も一緒が良い」
途中でエンフェルトが皆を呼びに行ってくれた。
また一列に並び、一人前のパスタと新しい水を渡す。
全員が集まると賑やかで、この空気感が好きだ。
そして最後に僕のパスタにエンフェルトが野草を乗せてくれた。
「僕も野草無くてもいいよ?」
「ダメ。野菜の代わりに少しでも食べなくちゃ」
そうして少し早い晩御飯が始まった。
基本的には暗くなる前に何から何まで終わらせて、
暗くなってからは部屋で静かに過ごす人が多いみたい。
「ステラは夜、何してるの?」
「乙女の夜が気になりますか?」
「気になる」
「優は素直ですね…。
ん~、余裕がなかったときはただボーっとしてただけ。
寝ても覚めても苦しくて、何もする余裕がなかったの。
…でも、昨日は優のおかげで久しぶりに、
ほんとうに久しぶりにぐっすりと眠れたんだよ」
ステラの言葉に、皆が頷いてる。
エンフェルトは静かに、黙々と食事を続けていた。
「今日は久しぶりに本でも読んでみようかなって」
「僕も読みたい!」
「読んであげようか?
今日はお姉ちゃんの部屋に泊りに来る?」
「寝るのはエンフェルトと一緒が良い」
「ちょっと団長!何手懐けてるんですかずるいですよ!」
「食事中だ。静かにしろステラ」
「あ!団長今喜んでるでしょ!口が笑ってますもん!」
「わかったからそう騒ぐんじゃない。
少しだけ優を連れて行っていいから寝る前に帰しに来い」
「え?ほんとですか?
とりあえず今日はそれで納得してあげます!」
という訳で、夜はステラの部屋にお邪魔することになった。
寝るのは昨日約束したから、エンフェルトと一緒がいい。
そうして食事が終わる。
食器は自分で使った物を各自が洗うようだ。
その為の水を用意して、僕もちゃんと洗った。
「あ、そうだエンフェルト」
「なに?」
「今日、お風呂どうする?」
僕の言葉に皆の動きが止まり、しんと静まり返る。
エンフェルトは皆を見渡して、大きなため息を一つ。
「本当は昨日入ったから数日はいいかなと思ってた。
でも、皆も期待してるようだね…」
「僕も入りたい!」
「優が入りたいなら、今日も入ろうか」
エンフェルトの答えに歓声が沸いた。
さっそく水を張るべく、浴室に移動する。
皆も気になるのか、一緒になって付いてきた。
「優。昨日みたいに一気に水を出したら今後一生お風呂無しね」
「一生!?頑張る…」
何処まで本気かわからないけど、エンフェルトの顔は大真面目だった。
皆の顔まで強張って、固唾を呑んでいる。
昨日は集中して力を入れすぎた。
今度はなるべく優しく、小川を流れる水をイメージした。
「…よし。優、もういいよ」
「…ふぅー…。緊張した」
「言う事を聞いてくれてありがとう。いい子だね。
後は皆に任せて、沸くのを待とう」
「どれくらいで沸くかな?」
「一時間以上は掛かるね。ミリー。沸いたら教えてくれ」
「はっ!団長達は何処にいます?」
「私の部屋だ。あまり急がなくていい」
「了解です!」
後は皆に任せて部屋で休むことにした。
エンフェルトは大量に水を出すといつも心配する。
手足を触り、身体に違和感が無いかを入念に調べる。
「エンフェルトはまだ心配なの?」
「当たり前だよ。優に何かあったら大変なんだから」
「水が飲めなくなるから?」
「違うよ。水が出なくなっても優が無事ならそれでいい」
実際、水が出なくなったら大変だし、
エンフェルトも他のお姉ちゃん達もがっかりすると思う。
でも、嘘でもそう言ってくれると嬉しかった。
待ってる間にエンフェルトと一緒にベッドで眠ってしまった。
ミリーと呼ばれたお姉ちゃんが起こしに来てくれた。
でも部屋には入らず、扉の外から声を掛けてくれただけ。
起き上がると辺りは既に真っ暗だった。
「夜になっちゃったね」
「今ランタンをつけるから待って」
「暗くても見えるの?」
「見えないけど、何処に何があるか覚えてるからね」
ランタンの明かりを頼りに浴場まで歩く。
暗くなる前に歯を磨こうと思ったのに、失敗だ。
今日はステラにも付いてきてもらおうかと考えたけど、
おばけが怖いのかと笑われそうでちょっと悩む。
浴室は想像以上に明るかった。
半数以上がランタンを持ち込み、全体がオレンジ色に見える。
薄暗いは薄暗いけど、良い雰囲気だ。
皆、また僕を待っていてくれたみたい。
「さあ、入ろうか」
「うん!」
軽く身体を流し、お湯に浸かる。
それを待ってから皆も身体を流し始めた。
ただ、昨日より音が静かだ。
はしゃいだ様子もなくて、落ち着いている。
「ふぅ。やはりお風呂は気持ちが良いね」
「…ねぇ、エンフェルト…」
「どうしたの優。そんな小声で…」
「…今日、皆静かだね…」
「ふふ、昨日の皆は正気じゃなかったからね。
冷静になっただけだよ」
「…ほんと?」
「水が勿体ないから普通なら静かに入るよ。これが普通」
その会話が聞こえていたのか、辺りを見ると数名が手を振ってくれた。
僕が眠ってて待たせたから怒ってるのかと思ったけど、違うみたい。
ホッとしてると誰かが近づいてきた。
「薄暗くていい雰囲気だから皆リラックスしてるんですよ」
「ステラだ」
「ランタンの明かりだけでお風呂に入るの、いいですね団長」
「ああ。悪くないね」
「優は裸が見られなくて残念だね?」
「僕はどっちでもいいけど、毎日入りたい」
「良い事言うね~。私も毎日入りたいな…。ね、団長…」
今度はステラの言葉にエンフェルトは否定も肯定もしなかった。
エンフェルトだってお風呂は大好きって言ってたのに。
でもそれを聞いちゃいけないような気がして、結局聞けなかった。
…。




