真夜中の緊急会議
「諸君。今日は集まってくれて感謝する」
「総帥自ら招集されるとは珍しいですな。やはり、帝国の件で我々の力が必要になりましたかな?」
「帝国の問題は既に解決した。サンドラたちを送り届けて帰ってきたばかりだ」
「は?い、いやいや、前回の会議からまだ十日も経ってませんよ?」
「グダグダされて巻き込まれてはかなわんだろう?面倒だからキレイさっぱり解決してきた。みんなも安心してほしい」
「いやいやいや、冗談きついですぜ……」
「それを証明できるナニかがあるなら話は別ですが……」
「ジョゼ。君ならこの短剣の意味がわかるか?」
「短剣?ふむ、拝見しましょう…………っ、これはウィンストン家の!!そ、総帥。この剣をどうやって!?」
「さすがは組合の長だ。向こうでバルト将軍と縁があり、それを預かってきた。その短剣なら販路の開拓にも役立つとは思わないか?」
「そそそれはもうっ!我らが総帥はさすがでございますなぁ?ワハハハハ!」
「……うげ」
彼らを利用するためにどう説得しようかと悩んでいたが、なんとかなりそうな気がしてきた。
現在、“淫らな妖精”の地下で真夜中の緊急会議を開いている。本当なら彼らに補填して終わりの予定だったが、そうもいかない問題が発生してしまった。このまま放置すると国が消滅する。
逃亡してサヨナラするのも一つの手だが、このイベントから逃げるプレイングを運営がどう判断するのかわからない。プレイ放棄とみなされてもそのままなら問題ないが、永久にBANされたり、現実でドアをノックされたりしたらどうするよ……。
だってさぁ、こんなゲームを作るような連中だよ?お前は用済みだとか言われて連行されたりしない?
とりあえず、幹部たちにはスカム男爵関連の問題に対応してもらおうと考えている。過去の映像を見る限り、扉はマリーネ並みの実力者を用意しての持久戦。または、廃人に土下座してオナシャスするしか俺には思いつかない。
別に責任を感じているわけじゃないんだが、俺がキャラメイクとイベントスキップにこだわらなければ、もっと早く対処できた問題だったのだろう。アサガオちゃんがシナリオ誘導を頑張っていたことをようやく理解したよ。勘の悪いプレイヤーですまん。
邪悪な笑みを浮かべ、新魔術を開発しているアサガオちゃんに心の中で謝っておいた。
「今日集まってもらったのは他でもない。我々を舐め腐った王都のゴミクズを処分してもらいたい」
「……へぇ?」
「久々にまともな仕事ですね」
スキンヘッドで巨体のロフと、ロン毛で男前なチェザーレの口元が弧を描いている。荒事は彼らの本業。俺が出す報酬次第で請け負ってくれる思っているんだが……どうだろうな。
一方、メッサリアは静かに佇んでおり、ジョゼは短剣に夢中で話を聞いていなかった。
「メッサリア」
「こちらですわ」
「君たちにはこのリストにある人物の処分を依頼したい。まず、スカム男爵の息子はチェザーレ、君が適任だろう。なるべく顔面を徹底的に潰せ」
「身元がわからないようにですね」
「違う、メッサリアの子が仕事中に殴られた。目には目を、などと温いことは言わん。モノを切り落としてケツにぶち込んで男爵家の庭を飾ってやれ」
「りょ、了解しました……」
「ん?すまない。少し興奮してしまった」
ヒートアップすると無意識に“威圧”が発動してしまう。日頃から気をつけないといかんな。
「ヴィンス公爵が飛ばしてきたハエ共は――ロフ、君に頼みたい。だが、こちらの連中は普通に店を利用して金を落としたそうだ」
「じゃあ生かして帰しやすかい?」
「彼らの処遇は君への報酬の一部として考えている。生かしたまま搾り取ってもいいし、処分するだけでも構わない」
「い、いや~さすがにそいつは危険すぎやしませんか?後ろにいるのは悪名高いヴィンス公爵ですぜ」
「ヴィンス公爵家はアグネア王国の歴史から消える。これは決定事項だ」
「うぇっ!?」
「実は、奴が引き起こした事件はこれだけじゃない。現在進行形で国家存亡の危機を招く大ポカをやらかしたドクズだ。もしも詳しい話を聞きたければ全て話すが、どうする?災厄の扉に関する話だ」
「ま、待ってください。俺は遠慮します!それを聞いたら引き返せなくなりそうだ……」
「チェザーレは勘がいいな。聞くと答えていたら、サウスポイントを守ろうとした英霊になっていたかもしれない」
「それ全部答えちまってるじゃねぇですか……え、マジで?」
二人が目を合わせようとしなくなった。俺はジッと二人を見つめ、五分ほど経過したところでメッサリアから止められた。戦力を確保したかったんだがな……まぁしゃーない、話を進めるか。
ジョゼはニッコニコで短剣を磨いている。
「報酬については、ここに積んである金貨でどうだろう?もちろん交渉にも応じるつもりだ」
「これはまた、豪気ですね」
「ほんとにいいんですかい?あとで返せとか言わんでくださいよ」
「交渉成立だ。と、ここまで言えば察しているだろうが、今後の身の振り方を考えた方がいい。身近な者と遠くへ逃げるなり、足を洗って普通に働くのも一つの手だ」
「……総帥はどうされますの?」
「俺はやるべきことをやるだけだ。幸いにもまだ猶予はある。諸君は依頼を終わらせ次第好きにするといい」
「なぁ総帥、あんた死ぬ気ですかい?」
「災厄の扉は、無数の悪魔を召喚して国を滅ぼすと本で読んだ記憶がある。総帥、あなたはまだ若い。関わらないことをおすすめしますよ」
「そうよ。死んだら終わりなのよ?」
さすがに今回ばかりは俺も死ぬ。問題はリスポーンの場所がどこに設定されているのかがわからないことなんだよなぁ……復活してもすぐに参戦できればいいが、無駄にリアリティを重視するこのゲームではどうなることやら。おそらくだが、なんらかの死亡ペナルティもあるとみている。
準備不足に実力不足。もしもリリースからプレイしてらっしゃる廃人様がいましたら、是非サウスポイントへお越しください。いい具合の高難易度クエストをお見せしますよ。
「俺たちは個人の利益を優先することを念頭に集まった集団だ。組織化によって無意味な対立を緩和し、保身と利益の向上という名の天秤を掲げてきた。それがようやく形になってきたというのに、理不尽がぶち壊そうとしてくるのだから癪にさわるだろう?」
……そういう目的で集まった集団だったの?
いや、俺の口から勝手にセリフが出てくるんだが……本物のクロード君が俺の中で生きて――いや、同化してる?思考や体に変化はないが、クロード君の意志を強く感じる。不快ではないが、妙な感覚だ。
「俺たちには一つだけ共通点があった。誰からも必要とされなかったことだ。だからこうして居場所を作ったのに、作った本人が逃げてどうするのだ?俺はまだ子供かもしれないが、諸君を守る立場にある。もし、全てが終わっても町が残っていたら戻ってくるといい。席もそのままにしておくつもりだ」
「…………総帥」
「ふざけんな。確かに俺らはクズかもしれねぇが、ガキに全部押し付けるほど腐っちゃいねぇんだよ」
「総帥からみれば頼りないかもしれませんが、これでも名の通った傭兵なんですがね……そこまで足手まといにはなりませんよ」
「そうですとも!早く帝国で新規開拓するんですよ総帥!」
「てめぇは話を聞いとけや……」
急に熱い男気を見せてくるけど、お前ら全員犯罪者だからね?まともなフリされると腹立つわ。
「スカムとヴィンスの件は任せた。誰をコケにしたのか、たっぷりと思い知らせてやれ」
「了解」
「わかりやした」
これで最低限の仕事はしてくれるだろう。どれ、俺もちょっとだけ頑張るか……。




