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「なるほど。しかし、肝心の仲間を得られなければ夢物語だがな」
「毛なんていくらでも生えてくるじゃない。髪の毛とかウザいくらい伸びるし」
「メッサリア、この子にはちゃんと指導した方がいい。いつかオッサンに刺される」
「えぇ、本当に気をつけますわ」
「え、お母様?」
世の中のオッサンたちは悩んでいるんだ。寂しさが増す頭部をさすりながら、失った毛根を復活させられないかと。
政治。宗教。カツラ。昔はそこに野球も混ざっていた社会のタブー。大人はこれらの話題を可能な限り避けようとする。全ては円滑な人間関係のために。
「あの、総帥はどうしてこちらにいらしたの?」
「あ、そうだった。小娘と乳輪の話をしてる場合じゃないんだ」
「それはあんたが勝手に――」
「そこまでにしなさいディアナ」
「ご、ごめんなさい……」
「なかなか有意義な議論だったぞ小娘。また乳輪について語り合おう」
「おことわりよ!!」
若い受付嬢が大股で去って行く。
しかしまぁ、よくぞあそこまでクロード君に啖呵を切れるもんだと感心するわ。命知らずってのは治らないから、例に漏れずあの子も早死にするかもしれないな。指摘してやるつもりもないが。
「すまないメッサリア。戯れが過ぎた」
「いえ。要件はなんですの?」
「孤児院の件で出した損害の補填をな。従業員の数は足りているのか?」
「当面はなんとかなりますわね。ただ、王都の貴族に二人ほどダメにされましたわ。行為中に顔を殴られたみたいで……」
「店の子を殴った?」
「そ、そう……すい……ッ!」
「あ、あぁすまない」
慌てて威圧を解除しつつ反省する。無意識レベルで発動するから困った技能さんだよ。
「その二人は大丈夫なのか?」
「命には別状ありませんわ。でも男性を怖がるようになってしまって……店の二枚看板でしたのに……」
「今すぐそいつの名前と、ついでに問題のある客のリストをよこせ」
「え?」
「店の看板を潰されたんだぞ?俺が庇護する店の看板を二枚もだ。生きて帰すわけないだろう」
「ヒ!?」
ニチャァと笑って見せたらドン引きされた。興奮する。
昨日も考えてみたんだが、善人面してもクロード君の過去は消えない。僕は改心したんですぅ~などと妄言を吐いて犠牲者が納得すると思うか?否、クズはクズらしく矜持を持って無様に死ぬべきだ。
このままクロード君ボディでプレイするのであれば、中途半端な生き方じゃつまらないだろう。威風堂々と罪を重ね、最後は命をもって贖い、惨たらしく散る。憂いのない有終の美を飾るのだ。
アサガオちゃんも俺とそっくりな顔でニチャァと嗤う。フ、よかろう。最後まで共に参られぃ。
「ところで、君と幹部の仲は良好か?」
「仲、ですか?特に良くも悪くないですわね」
「例えば、万が一に備えてチェザーレを護衛に置くと言ったら迷惑だろうか?」
「護衛としては優秀ですが、確実に足元を見てくると思いますよ」
「契約は俺がするから問題ない。残るは君の気持ち次第だ」
「総帥はなにをなさるおつもりですか?」
「ただのゴミ掃除だ。すぐに終わる」
「…………怖い人ね」
「この界隈を仕切る君がそれを言うのか?お互い様だろう」
「ごかいてーのじゅんびしてくるです」
使わないし使わせない。黙って戻って寝てなさい。
「娘を暴行したのはスカム男爵の長男でしたわ。でも、そうするように手を回したのはアウタールフ家を狙うヴィンス公爵です。最近は下々から手を伸ばそうとしているそうですわ」
「…………随分と詳しいな」
「もみあげが聞いてもいないのに教えてくるので」
性欲旺盛なジョゼは、メッサリアもあわよくばと狙っているようだ。四十代後半のクセに元気があって大変よろしい。いや、ジョゼのことなんてどうでもいい。必要なのはアウタールフ家とヴィンス公爵とやらの情報だ。先生、オナシャスッ。
メッサリアの手前、流し見程度にさらっと確認してみた。それを簡潔にまとめると――
アウタールフ公爵は獣人国の姫を妻にした。その妻には特別な力があり、娘にもその力が受け継がれた。それを知ったヴィンス公爵と王家は娘が欲しくなったそうだ。
王家とヴィンス公爵は息子の縁談を軸にアピールを続けたが梨の礫。そこで彼らはアウタールフ家を罠に嵌める計画を立てた。
「アウタールフ公爵夫妻について知っていることは?」
「いえ、噂程度くらいしか……それこそ、災厄の扉が開いて行方不明だとか、その程度ですわ」
例の扉は大陸全土が一丸となって対処すべき事象である。と、いうのが世間の常識だ。そして帝国だけは扉の発生場所と時間を予測できるらしく、その情報だけは前もって各国に伝えられていた。
だが、アグネア王家とヴィンス公爵はそれを利用した。扉が開く情報を秘匿したのだ。下手をすれば、国そのものが無くなるかもしれないのに。
扉が開いたのは今から約一か月前、アウタールフ領の東で発生した。ちょうど獣人国との国境にほど近い場所だ。
アウタールフ公爵は人格者であり、部下と共にその身を盾にしながら扉の怪物と戦った。だが力及ばず、もう後がないという状況で妻が合流し、彼女の特殊な力によって扉を強引に抑えつけることに成功。
ただし、それには代償を伴った。妻の力――特殊な結界術を維持するために現場を離れることができなくなった。その伴侶であるアウタールフ公爵も例外ではなく、夫妻は今も邸に戻れないままだ。
扉の情報を秘匿した王家の罪を問う者はいない。普通であれば、王家の怠慢を訴えてもおかしくないのに、彼らは口を噤んでいる。それはなぜか?
「アウタールフ公爵の弟については?」
「今は母方の性を継いでコランダム子爵ですわね。平民にも優しいお方だとか」
「優しい、ねぇ……」
「子爵がこの件に関わっているのですか?」
「ヴィンス公爵とグルだ」
「…………なんてこと」
現在のアウタールフ公爵家を動かしているのは弟であるコランダム子爵だった。こいつはとんでもない野郎で、兄の娘をヴィンス公爵に売るつもりらしい。その娘はコランダムの妻に虐待を受けており、ひたすら両親の無事だけを祈っているという。どこまでも胸糞の悪い話だった。
一方、ヴィンス公爵はコランダムの報告を信じた。扉の怪物は夫妻と共倒れになり、娘だけが残る最上の結果であったと。しかしそれは大きな間違いで、扉は結界術で抑えているだけであり、夫妻の命が尽きればサウスポイントや王都も壊滅する。奴らはそれに気づいてすらいない。
最後に娘さんの顛末を見たが、悪意に晒された少女の未来に幸せはなかった。
「予定変更だメッサリア。夜に緊急会議を開くから地下を開けておいてくれ」
「え、えぇわかりましたわ」
「色々とすまないな。俺も準備をしてくる」
「総帥、それよりも服を着てください」
軽く借りを返すだけの予定がこんなことになるとは……アサガオちゃんが登録を急がせたのはこれが理由だったのか。
扉が開いたのは約一月前、俺がプレイを始めた時期と被っている。つまり――このイベントはクロードボディならクリアできる難易度です。アグネア王国がどうなるかはあなた次第ですが(笑)。という運営からの挑戦状だったのかもしれない。
まったく、今日からゆっくりと観光しようと思った矢先にこの仕打ち。難易度設定が無茶苦茶すぎるわ……。




