命の価値
君子危うきに近寄らず。
お腐りあそばせた界隈に足を踏み入れると住人と化してしまうとは聞いたが、アリジゴクじゃないんだから……やはり性癖を歪めるコンテンツは危険だ。
あらためてクロード君の関連項目を調べてみると、やはりというか更新されていた。
それも詳しいなんてレベルではなく、行動全てが完璧に記されている。一緒にいたのかお前は?と言いたくなるほど主観的で無意味な注釈が多く見受けられ、書いた奴がクロード君を崇拝しているかのような印象を――ん?
崇拝……まさかログを確認している担当がクロード君に感情移入でもしたとか?んなアホな。
可能性があるとすればアサガオちゃんに中身がいて、その人が書いたとかならまぁ納得はできる。あいつとはかなり打ち解けたから。
こっぱずかしい思いをしながら読み進めていたのだが、関連するリンク先にカサンドラの項目が増えていた。
「おぉ、カサンドラの分も作られたのか」
ノータイムでポチった俺は深く後悔した。そこはポエムと煩悩を敷き詰めたような地獄だったのだ。私に光をくれた旦那様とか、子供は絶対に二人は欲しいだの、長男はアレクだなんだと…………アレクだとぉッ?
長男はアレク、長女はアレクシア……え、お前が産むつもりだったの?私の覚悟がなんとかってのはそういう意味だったのか。いや、わかるわけねーだろ……。
そもそも侯爵とか公爵家のご令嬢になにをさせてんだよ?設定考えた奴は貴族について学び直せ。
うんざりしてページを閉じようとしたとき、新規関連項目のリンク先にクライスの文字が見える。でもそっと閉じた。時には見ない勇気も必要なのだ。
「おいーっす」
「うるさいです」
「アサの字、朝メシ食うぞ。アサだけに、なんつって」
「ボクのごしゅはてんにめされたです。おやすみです」
「起きろ。今日はゆっくりして遊ぶぞ」
「あさのごしゅはうっとーしーです」
「アサだけに?」
「おやすみです」
「起きろ。起きて遊ぶぞ」
なんて清々しい朝だろうか。今日はとても気分がいいので、死ぬほど嫌われるベストスリーにランクインするであろう朝一のウザ絡みを慣行してみた。アサガオちゃんがめっさ嫌がってる。人ん家のペットと同じ反応だな。
今日の予定は作らないつもりだったのだが、クロード君にはもう一つの懸念事項が残っている。そう、悪の組織(笑)だ。が、その前に朝飯にしよう。
「うまいだろ?」
「あい」
「ちょっとお客さん、煙いんですけどなにをなさっているのですか!?」
借りている部屋で岩塩ステーキをお見舞いしていたら怒られた。当たり前なのに怒られてから気づいた。アホみたいに気が抜けているな。
「ごしゅ。どうしてムシケラどもをしょぶんしないです」
「組織の連中のことか?奴らを消したら面倒が増えそうだし」
「どうしてです?」
「この考え方が正しいとは思ってないけど、奴らの元でしか仕事にありつけない人間がいるんだ」
「???」
「親を知らず、環境によって教育を受けられない子供がいる。読み書きを自力で学ぶことはできても、それを活かす職にありつける者はほんの一握りだ。身綺麗でないと雇ってもらえないことは多いが、その身支度を整える資金さえ手に入らない人が大半だよ。結局は行き場のない悪循環にはまってしまう」
「…………」
「やってることはただの犯罪。だが、それを奪われた彼らは次になにをする?もしかしたら、以前よりも凶悪犯罪が増えて、治安の悪化を招くかもしれない」
「げんじょーいじがせーかいです?」
「わからない。今も作らせたおクスリで天国と地獄を味わっている人もいるはずだ。その元凶たる俺に語る資格はないよ」
実際そうなった事例があるらしいからなぁ。どこかの国でエッチな本を規制したら性犯罪が爆増したとか、死ぬほど気持ちわかるもん。俺だってプラカード持って国会に突撃するわ。
「でもそうだな……こっちの面倒事もある程度は片付けた方がいいか」
「!」
「アサガオちゃん。君が思っているようなお片付けじゃないから」
「ごしゅはいじわるです」
「おたくの大陸保護システムに深刻なエラーが発生してますよ?……っと。さぁどう答えるんだ先生」
“現地に来ていただけましたらすぐにでも修正が可能です。まずは登録から始めましょう”
おーおー好き勝手言いなさる。
今日のお天気は灼熱地獄の可能性が高いのでやめときますね(笑)……っと。くたばれポンコツがッ。
「というわけで、今日は歓楽街の女王のところにお邪魔することにした」
「あのおばさんです?」
「アサガオちゃんのおばさん判定は厳しくない?孤児院の件で一番被害を被ったのが女王なんだ。だから早めに補填することで心証をよくしとこうかと思って」
「またヘコヘコするです?」
「そうだな。でも、どちらかと言えば脅しに近いかもしれない」
「あんないするです」
「急にやる気出したぞこいつ」
血と暴力を好む妖精の案内によって女王の縄張りへとやってきた。泊っている宿からわずか五分の距離である。
“淫らな妖精”の若い受付嬢に、女王ことメッサリアとの連絡を頼んだら見下されて興奮した。どうやら、クロード君は彼女らに相当嫌われているらしい。
たっぷりと一時間ほど待たされたが、受付嬢が付きっきりで見下してくるから退屈はしない。
「お待たせしました総帥。いつ戻りましたの?」
「ちょうど昨日帰ってきたばかりだ。突然の訪問を謝罪しよう」
「フフ、かまいませんわ。ディアナ、あたしにもお茶を」
「はいお母様」
「娘さんだったのか?」
「えぇ、従業員は全てあたしの娘ですわ」
「なるほど」
「お母様になんて口の利き方を……」
「やめなさい!」
「いや、気にするなメッサリア。君たちには迷惑をかけたからな」
「総帥、決してこの子に悪気は――」
「あなたは最低のクズよ」
「ば、やめなさいって言ってるでしょ!」
「ふむ。いい目だ」
「ッ!?」
なんかめっさ恨まれてる。クロード君さぁ、この子になにしたん?本当にロクでもないクソガキだったのね……。
「言いたいことはなんでも言うといい。決して君を逆恨みしないと誓おう」
「舐めないでよ。命を貪るようなあなたの言葉なんて誰が信じると思うの?」
「命を貪る……ねぇ?」
「な、なによ……なにが言いたいわけ」
思わぬ展開になったけど、メッサリアに釘を刺すいい機会になるかもしれない。もういっそのこと悪行に全振りしてサウスポイントのドンでも目指すか?毒を食らわば皿までも、の精神で。
「まさか、全ての命は尊いもの。なんて思ってないよな?」
「……そんなの当たり前じゃない。それがわからないあなたが異常なの」
「なら現実を教えてやろう……ふん」
「な、なにを――」
おもむろにローブを脱ぎ棄てて上半身を晒してやった。なにしてんのコイツ?みたいな顔がたまらんな。
……そんな顔しなくても言いたいことはわかる。まぁ落ち着け、今説明するから。
「ここを見ろ。俺の乳輪だ」
「……あんた頭おかしいんじゃないの?」
「焦るな小娘。ここだ、ここをよく見ろ」
「なんなのよ…………あ、毛が生えてる」
「そうだ。こいつは俺の乳輪に一本だけ生えてきて自己主張している。自分も生きているぞと言わんばかりにな」
「だからなんなのよ……」
「似ているとは思わないか?親に望まれなかった子供たちに。こいつもそうだ、俺はこの毛を望んでもいないのに生えてきた。だから――」
プチっと抜かれた乳輪の毛が地面へと落ちてゆく。メッサリアも嫌そうに地面を凝視している。
「こいつの命に意味はあったのだろうか?無駄に生まれ、無駄に散っていくこの命になんの意味がある?」
「……生まれてきた命は、必ず役目があって生まれてくるの!」
「ほう?じゃあこいつの役目はなんだ?なんのために生まれてきた?」
「ち、乳首を守るためよ!」
「あんな防御力でなにを守れるんだ?守備範囲をよく見ろ小娘が」
「ッ、じゃあ伸びればいいじゃない。それか仲間を増やせばきっと守れる!」
「仲間を増やす……だと……?」
「ふふん。そんなこともわかんなかったんだ?やっぱり子供ね」
乳首がジャングルになった姿を想像をして吐き気がしてきた。思わずメッサリアと目が合い、同時に顔をしかめる。彼女もジャングルを想像したらしい。
ん?俺はなにしにきたんだっけ?




