第98話 栗毛聖女、自己紹介をする。
カソッタ村でクエストを受けれるだけ受けて私たちはフィールドへと出ました。
「そういえば自己紹介を忘れていましたね。僕はサンダー、天運世嵐物語では魔法使いの職でプレイしてきて、新しくリリースしたこのGFOにコンバートしてきました。攻撃属性は水と雷です。よろしくお願いします」
黒髪にシルクハットのような帽子を被ったマジシャン風の魔法使い、サンダーさんから自己紹介が始まりました。雷という属性はこのゲーム内の基本属性にはなく、どうやら風属性判定を受けるらしいですが、通常の風属性魔法とは違って威力重視の魔法が多いとのことでした。狩りを始める前に職と名前の自己紹介をしてくれるのはありがたく、私も彼に倣って続きます。
「ご丁寧にありがとうございます。私はラピス、月影オンラインで聖職者の上位職、聖女からコンバートしてきましたが、転職して今は武道家をしています。よろしくおねがいします」
そんな私の挨拶を聞いてミコさんが固いのぅと言っていますが、礼儀には礼儀をだよとちゃんと言い返しておきました。
「あの、ラピスさんいいっすか?」
「はい。あと、私のことはラピスでもなんでも呼びやすいようにで構いませんよ」
「じゃあ、ラピィで。元・聖女で武道家ってどんな戦い方をするのか想像できないっすけど、さっきみたいに武道家として認識しておけばいいっすか?」
サンダーさんと同じように自己紹介しましたけど、確かにさっきの道中だと私って聖女でしたけど武道家として前衛で戦てるイメージしか持たれていないですもんね。
「そうですね。聖女スキルは聖女のジョブでないと使えませんから。修道女のスキルは使えるんですけど効果時間は短いので当てにはしないでください」
「そうっすか。じゃあ、普通に前衛として考えておくっす」
私の説明にマヤさんは納得し、マリアさんも頷いています。私のことを知っていましたし、年末に配信された動画で坩堝蜜竜戦を流したはずなので、私が聖女スキルを使わないことにマリアさんも疑問に思っていて、この回答で納得しているのかなと思いました。
「では、次はわっちじゃな。わっちは小倉 ミコ、呼びはミコでよいぞ。桃源燈信オンラインでの呪術師からコンバートしておる武道家じゃ。ラピス同様に前衛として考えてくれてよい。マリアとマヤは見ておるが、ラピスとの合わせ技で呪術は使うが、マヤも呪術師であるならそこは臨機応変といきたいものよ」
ミコさんの自己紹介は先に上手く私への質問事項となったことを盛り込んだお手本のようなものでした。これが大人か……と、少しだけ改善してわかりやすく説明しているミコさんが大人に見え、さり気なくマヤさんの自己紹介も簡略化できるようにしてあげていることに驚きました。
「……あーしは南雲 マヤ、呼び方は……なんでもいいっす。マヤっちとか呼ぶ馴れ馴れしい聖職者もいるわけだし気にしないっす。―――ミコと同じゲームからコンバートした呪術師で、今は魔法使いっす。属性は火属性一本っすね」
可愛らしいクマさんのヘアピンで留めたショートの赤髪を触りながら、ローブ姿のマヤさんはサクッと自己紹介と終えてバトンをマリアさんに渡します。
「私はマリアで~す。修道女で補助魔法系統にほとんどスキルポイントを振ってるから支援魔法が得意だけど、ヒールの回復力は低めなので気を付けてもらえると助かるかも? あ、このゲームが初めてのVRMMORPGなのであまりゲーム内については詳しくはないんですよね。Flowerさんっていう配信者さんの動画を見て楽しそうだなって始めた初心者なので、至らぬ点がございましたら遠慮なく申してくださいね~」
最後のマリアさんは白のブラウスにピンクのロングスカートを履いたビジュアル重視のラフな服装の聖職者で、キャラクター自体は金髪ロングのザ・聖職者といった感じと装備の趣味に全振りしていることからベテランかと思っていたらなんと初心者さんでした。
「お主……、その防具はもしや……」
「ふふふ。お気づきになりましたか? 効果の何もないただの《《趣味装備》》ですよ。初心者がそんな高価な装備を持っているわけないじゃないですかぁ~」
十分に驚愕する事実なのですが、その後に爆弾発言が続いて私を含めた全員が固まりました。
「だって攻撃を受けなければ関係ないですし。―――ちゃんと守ってくださいね?」
「ぃゃ、まぁ確かにそうじゃが……。うぬ……、知ってしまうとやり辛いのぅ⋯⋯」
凄腕ゲーマーの極致、裸プレイ。当たらなければどうということはない。を地で行くプレイスタイルで遊ぶ初心者さん。言っていることはもっともで、ここまで来れているのですから腕は確かなのでしょうね。
「いまさらだし、さっきの移動は問題なかったんだから大丈夫だよ。それに、回復量が低くてもヒールは一応私も使えるからさ」
皆が足を踏み出せるように、私も少しだけフォローできると伝えます。
「私は聖女だったんだよ。大丈夫、万が一の時にはマリアさんが攻撃を受けないように指示を出すから安心して」
そう、私は聖女。今は称号だけですけど、確かにそう呼ばれていたのです。当然、攻撃を受けないような聖職者の位置取りも熟知しています。私の言葉を聞いて少しだけ安心感を覚えたミコさんが復活します。
「濃いメンツになったのぅ……、何はともあれお互いにできることは分かった。ではよろしく頼むのじゃ」
「そうですね。手始めに〝動く案山子 15匹討伐〟のクエストから始めましょうか」
マリアさんへの心配はその初心者とは思えない動きで払拭され、私たちは最初のクエストを無事にクリアしたのでした。




