第97話 栗毛聖女、推しを語られる。
「って、フワマリンネだぁ~!!!」
「うむ。一度訪れた町へはこやつで移動できるでな」
「……え? 私だけ? 知らないのって私だけなの? フワマリンネってなんなの?」
二人をパーティに引き入れて、ミコさんはフィールドに出て開けた場所まで行くとさっそくフワマリンネを呼び出します。マリアさんは興奮し、周りのプレイヤーたちも口々に「あっ、フワマリンネ」と口にしています。そんな中、マヤさんだけがフワマリンネを全く知らなかったようで困惑していました。
「これが動画配信者の力っすか」
「……マヤさんが知らないだけで【厄災】関連の情報はみんな知ってると思うよ」
最初にアレスさんたちと出会った時にハナさんが情報検索してましたし、それなりにゲームを進めたプレイヤーならフワマリンネを知っていてもおかしくないはずなんですよね。
「……あーしは攻略情報とは調べるのは苦手なんでね」
そういうプレイスタイルって変ですかね? とマヤさんが恥ずかしそうに聞いてきたので私は「いいと思うよ」と返しました。マヤさんから良い人オーラが滲み出ていて、私は彼女を絶対に勧誘すると決意しました。そして、二人も一緒にギルドに誘いたいという話は、メールを通してミコさんに伝えました。
[ギルドマスターになるお主がそうしたいのなら問題ないじゃろ。ただ、もう少し固定パーティで行動してみて人を知ってからの方が良いと思うがのぅ]
フワマリンネに移動速度増加をかけての少しだけスピード感のある空の旅でカソッタ村へと移動していますが、これで三人が入ってくれたら10人に一気に近づくので私の気持ちも弾みます。
「そういえば、アレスさんたちからの返事はきたの?」
「うむ。やはりというべきか、アレスが自身でギルドを立ち上げたいとのことじゃ」
「じゃあ、ハナさんやガイさん、ヒューイくんもそっちに入りそうだね」
アレスさんは勇者の称号持ちですし、あの四人のパーティもアレスさんが作ったのでやはりギルドもそうなるかと納得し、仕方がないとすぐに諦めがつきました。
「ところでマリアよ、お主はハナのファンじゃったな。一緒に冒険したいとは思わんのか?」
それの気持ちも遠のくような質問をミコさんがしてきて、そういえばマリアさんってハナさんがギルドに入ってくれなかったら……、それにマリアさんに付いてきたマヤさんも……という考えも沸きだします。
「う~ん、そりゃしたいとは思うけど私はあくまで観客がいいんだよね~」
「え? そうなの?」
私はてっきりハナさんと冒険することを望むと思っていただけに意外で驚きました。
「ねぇ、ラピスちゃん。あなたの大好きな俳優さんと出会えるチャンスが来たら嬉しい?」
「……私はTVとか見ないのでそういう話はわかりませんけど、嬉しいと思います」
「あっ、そうなんだ。ごめんごめん。じゃあ、そのまま想像してて」
マリアさんは軽く謝りながらも話を続けます。
「そうだよね、嬉しいよね。けどさ、同じ舞台で演技をしないかと言われたらどうする?」
「……断ると思います。私には荷が重いので」
「でしょ! そういうものなのよ。ハナさんは推しではあるんだけど、私は動画を見て応援しているのがいいの!」
ふと脳裏に奈津美ちゃんがエミルさんについて語っていた時の場面がダブつきました。
「あっ、わかったかもしれない。友達も同じようなことを言っていたので」
「そう。その子とはいい話ができそうね」
マリアさんとミナツちゃん、二人が出会う未来が約束されたような気がしました。
「それはそうと、マヤっちの推しは?」
「は? 突然なんすか? そもそも推しってなんすか? ……待ってください。そのマヤっちってなんすか?」
一人で景色を楽しんでいたマヤさんが話をいきなり振られて挙動不審に陥ってしまいました。
「なんじゃ、推しも知らんのか。―――わっちも知らん! マリアよ、推しとやらをこやつに教えた方が面白いものを見られそうじゃぞ」
あの感じは絶対にミコさん知ってますね。マヤさんに絡むと楽しそうって思惑が透けて見えます。
「こほん。推しとは何か。ということだけど、それを語る定義がないのよ。そう、例えば好きとか、頑張れって応援したくような人やキャラクター、それらに対する行動や気持ちを指すと私は思うんだけどね―――」
そして長い長い推し談義が終わるころにはカソッタ村へと到着していました。
「LOVEとLIKEの違いのような、LOVEの中でに属するけど、好きだけど見返りを求めないような関係みたいな? 私個人の意見だし、推しの定義は難しいわ……、人それぞれに推しを自分の中で定義して応援する。それが推しってことよ!」
強引に締めくくったマリアさんの話をミコさんやマヤさんと顔を見合わせて、心を一つにしてこう返します。
「ごめんなさい、わかりません」「で、推しって何?」「わからんのじゃ」
「こんなに語ったのになんでよー!」
マリアさんの叫びが畑を駆けます。それがなんだかハナさんぽくて、私は笑って、それを話すとマリアさんは嬉しそうに笑ってくれました。
「それじゃ、遅くなったがサンダー氏が待っておる。行くとしようぞ」
「あ、そうえいば、マヤっちの推しは結局誰なの?」
「……最強の元・呪術師」
ミコさん、私、マリアさん、マヤさんで並んで歩いていたところ、私とマリアさんの間に移動してきたマヤさんは私とマリアさんだけに聞こえるような音量で呟きました。
「そっか。マヤっちにもちゃんといるじゃん、 推 し 」
そのマリアさんの表情はなんとも満足気で、反面マヤさんはテレ顔で、ミコさんはなんのことじゃ?と不思議がっていて、ミコさんが心配するほど悪くないパーティかなと私は思いました。
「すまん。待たせたのぅ」
「構いません。本当にこのカソッタ村って人いませんね。たまにくる人もみんな素通りしていきます」
「じゃが、この村でのクエストは全制覇をする気じゃろ?」
「はい。そのつもりですし、だからこそ貴方方がとりあえず彼を次の町へ送り届けてからパーティを組んで一緒にやらないかという話に乗ったんです」
さて、クエスト埋めとか私たちと気が合いそうな空気を感じたサンダーさんはどんな人なんでしょうね。私はサンダーさんにもパーティ申請を出して承認してもらい、五人でのカソッタ村攻略を始めるのでした。




