第94話 栗毛聖女、わらび餅を食べる。
「で? なんで教会からなの? エスケロープで脱出したんじゃないの?」
「あの後、部屋から出ようと思ったんだけどさ……」
アユちゃんとプリアちゃんもお団子を注文して4人で並んで座って、私たち前衛が死に戻りした《《その後》》についての話を私は促します。ちなみに〝エスケロープ〟は帰還用アイテムで戦闘状態ではない場合、ダンジョンから脱出できる効果があります。
「なんと! 宝物庫を出ようとするとボスモンスターが現れたの!」
「プリアちゃん、それは流石に嘘だよ。それが本当ならボスモンスターがボス部屋から出てきたってことになっちゃう」
強いモンスターの出現はあったと思いますけど、大げさに言っている二人の見間違いじゃないかなっと思いました。
「ラピスちゃん! 思い出して! 看板にはボス部屋に〝ご自由にお入りください〟って書いてあったよ!」
「……文字遊びって怖いね。逆に考えると〝ボス部屋から自由に出ていくよ〟ってこと?」
言われてみれば、可能性が確かにあることを感じました。
「プリアちゃんだけでも逃がそうって思ってね、私がバブルで牽制したんだ。その時に出てきたモンスター名は〝【害蟲】 村蜘蛛・強〟だったんだよ」
「え? 【厄災】みたいに他のモンスターも付くの?」
「うん! そうみたい! だから間違いなくボスだと思う!」
張り巡らされた蜘蛛の糸に気が付かず、そのまま二人は村蜘蛛・強の餌食になったらしいです。
「それにしてもプリアちゃんのそれって何?」
「わらび餅だよ! あれ!? もしかして知らない!?」
プリアちゃんはそのプリプリした少し透けている餅を、まぶしてあるきな粉と一緒においしそうに食べます。
「一口ちょーだい?」
「うん! いいよ!」
「う~ん! ひんやりしてておいしぃ~!」
アユちゃんが真っ先に一口もらって美味しそうに食べたので、私とミナツちゃんもそれに倣って口にします。
「これはお餅……というよりは、ゼリーといった触感ですね」
「うん、すっごく瑞々しいね。なんかスライム食べてるみたい」
しょうもないことを言ったりして笑っているとミコさんが呆れた顔をして帰ってきました。
「お主たち……、腹に溜まらぬとはいえ明日からも餅料理を食べるのじゃぞ? イヤになってもわっちはしらんからのぅ」
私を含めてみんなの手が止まり、『あっ』と声が揃います。その後、ミコさんにもアユちゃんたち後衛の全滅を知らせると少し考えこみました。
「……もしかしたらじゃが、そのボスモンスターとやらにも・強表記があったということは通常のダンジョンボスとは別物と考えた方がよいじゃろう」
「普通に考えたらそうだよね。動く案山子・強からのダメージも大きかったし」
ミコさんの意見に私も同意します。モンスターの強さが未知数でレベルを上げるという選択を本来はとるべきですが、私たちはあのダンジョンでの手応え的に適正レベル以上で攻略に挑んでいたように感じました。
「……もしかして人数? 案山子が7匹、円盤丸3匹、指揮案山子1匹、そして村蜘蛛1匹でちょうどフルパーティじゃない?」
「7足す3足す1足す1は……、うん。12でパーティ上限人数と同じだね」
「じゃが憶測じゃ。それにMSOではラピスの人脈があったがこっちではどうじゃ、アレスたちに声をかけていたグランサバス王国での舞踏会でも3人不足しておったじゃろ」
固定パーティでクリアしてきたため、私たちの交友の狭さが再び浮き彫りとなります。
「あの、確かラピスちゃんって〝名もなきエンブレム〟を手に入れていませんでした?」
「それってギルド作るためのアイテムだよね?」
「うん。持ってるよ。それにアユちゃんの認識で合ってるよ」
私は〝名もなきエンブレム〟を取り出してみんなに見せます。それは小さな盾のような形をしており、真っ白な鉄のような素材の中央では剣と杖が交差している意匠が施されていました。
「なんともファンタジーを全面に推した意匠面じゃな」
「拳と弓がないエンブレムを引くとかラピスちゃんらしいね」
実はギルド結成手前まで一人で少し触ってみたのです。どうやらドロップ時の意匠のままで変更不可のようで、決められるのはギルド名とエンブレムへの着色だけでした。
「って、なんでアユちゃんがエンブレムの仕様を知ってるの!?」
「あはは……、なんでって、セピアさんが懐色のギルドマスターしてるって聞いて、このゲームを始めたころにギルドシステムについて調べたからかな」
「アユはそういうヤツじゃよ。好奇心を抑えられんのじゃ」
どうやらずいぶん前から知っていたようです。それよりもミコさんのアユちゃんの理解度に少し嫉妬しちゃいそうになりました。その感情を抑えてミナツちゃんにその流れでどうして《《ギルド》》が出てきたのか私は尋ねます。
「えっと、パーティ人数の話してたよね?」
「ええ、ですからギルドを結成していつでも手伝ってくれる方を、いえ、相互扶助の関係を新しく築ける方を勧誘していくのです。今後も同じような状況になることも考えられますし、ヒューイさんもガイさんもリアルがお忙しいのでしょ?」
そう言われるとギルドでパーティを組みやすくするのは理にかなっているような気がしてきました。
「いや、なんでラピスちゃんとプリアちゃんが驚いてるのさ……」
「ほら! 私たちもあっちではエミルさんたちと固定パーティばっかだったし!」
「あっ、それとエミルさんが狩場で誰彼構わず声かけて即席フルパーティにしてたから私たちってそういうギルドの使い方してないんだ……」
コミュ力お化けのエミルさんの話をすると、ミナツさんは《《さすがお姉さまです》》と意識がどこかへ飛んで行ってしまいました。




