第93話 栗毛聖女、宝物庫に入る。
ボス部屋の前で見つけた看板に従って《《右に伸びた通路》》へと私たちは進みました。
「って、宝物庫近っ!」
少し直進して角を曲がると、目の前に宝物庫らしき深い赤色で塗られた如何にもな扉が現れました。
「これってさすがに罠だよね」
「じゃろうな。じゃが……」
ミコさんが何を言いたいのか私には、いえ、ゲームをプレイしている全員がわかりました。
「ミコさん、いこうよ!」
「それしかないよね!」
「ここで引き返す選択肢なんかありませんわ」
ダンジョンに求めているのは何でしょうか。ボスを倒すこと? 間違ってないですけど少し違うと思います。腕試しとして満足感を得ることが目的の人もいますけど、大半のプレイヤーは経験値の他に、ボスモンスターが落とすレアアイテム、もしくは宝箱やレアモンスターからの希少アイテムを狙ってダンジョンに挑むのです。
「だよね! みんな、お宝はすぐそこだよ!」
「あっ! ラピスちゃんずるいよ!」
「ふふん! はやいもの勝ちだよ?」
―――ギィィィィィッ!
私は一番に駆け出します。後ろからみんなも走り出したのが足音でわかりましたけど、ここの扉は私が開けたいなと思って遠慮なしに宝物庫の扉を開け放ちました。
「―――なんか思ってたのと違う! ファンタジーだね!」
私は資格や多角形の大部屋に宝箱が置かれているのを想像していました。少なくとも、私が経験してきたダンジョンでは基本的にそうでした。硬直する私の後ろからきたプリアちゃんも当然同じ反応でした。
「これはなんとも奇怪な部屋じゃな」
「奥の方が部屋の横幅や高さが狭くなってるし三角錐なのかな?」
『『『『かかってこいやぁー!』』』』
先細りしていく部屋の奥に佇む通路を完全に塞いだ〝動く案山子〟の群れ、しかも銀色のバケツを逆さに被り、手には箒とお鍋の蓋。そんな少しだけ違う案山子が前列4匹、隠れて見辛いですが隙間を埋めるようにいるので恐らく後列3匹いて、計7匹が配置されていました。
「ちょっと! 《《私たちまで》》視線が案山子に固定されたんだけど」
「数の暴力じゃな……。あれだけいたら後衛まで強制的にターゲット固定状態になるのじゃろう」
「ごめんね! 薬草娘廃業します!」
「えぇ!?」
私たちは動く案山子からの挑発を受けて戦闘が始まった瞬間からパーティ内で混乱に陥りました。多勢に無勢、回復役のプリアちゃんまで含めてが挑発効果の対象にされたせいで《《ヒールの対象に私たち前衛が取れなくなった》》ようです。
「さすがにわっちでも避けきれぬ。プリアの回復抜きでラピスとミナツの三人でアレを突破できぬぞ」
「私の新スキル、お披露目しちゃうよー! これ、範囲攻撃で聖属性付与できないからラピスちゃんたちはすぐに突撃してね。―――水の礫よ視界を埋め尽くせ、―――舞え、水飛沫っ! 散弾水ッ!」
大粒の雨が横殴りで視界全体を埋め尽くし、範囲攻撃ということで動く案山子・強の全てに対して着弾します。発動を確認してすぐに動き出していた私たちは……。
『『『サンダンスイッ』』』
「なんじゃとっ!?」
アユちゃんの放った魔法が円盤反射丸・強3匹によって、三倍にして撃ち返された攻撃を受けて大幅にHPを削られます。
「ヒールッ!」
ピーーーッ!
『かかってきなさいっ!』
「え、ちょっと。止まれなっ―――」
「わたくしもですわ!」
強制ターゲティングが解除されたプリアちゃんの回復魔法を受けて立て直しのために私はいったん戻ろうとしますが、時すでに遅し。さらに奥に控えていた動く指揮案山子・強によってモンスターの群れへと強制移動を強いられます。
『『『『よっしゃぁー! オラオラオラオラオラッ!』』』』
―――結果、私を含めた前衛の3人は戦闘不能へと陥り、蘇生可能時間がすぎるまで〝動く案山子・強〟と、天井にぶら下がっている〝円盤反射丸・強〟、そして奥で小さな笛を口に咥えた〝動く指揮案山子・強〟を眺め続けているのでした。
――――――
「やられちゃったね」
「あれは確かに《《危険》》ですわね」
「ボスモンスターより強いという可能性すらあり得るのぅ」
私たちは先にノドカナ村に戻り、教会で蘇生してもらって所持金の一部をお布施し、村の入り口が見える茶屋のベンチに腰掛けて口々に反省点を言い合います。
「案山子のあの数であの密度じゃ。今のままでは撃破は無理じゃろうな」
「名前の後ろに〝・強〟と付いていましたわよね? 恐らくは強化個体、それもダンジョンレベル以上で挑んだわたくしたちが一方的にやられるほどのですわ」
二人の言う通り、恐らくは私たちのレベルが足りていない可能性があります。
「あの部屋の形って天井が奥の方は自然と低くなってたし、低い天井からぶら下がった円盤反射丸は動く案山子で隠れちゃうからアユちゃんみたいに範囲攻撃をしてきたプレイヤーへの初見殺しも兼ねてたんだね」
完全にしてやられた感がありますが、敵モンスターの配置やバランス、作戦が完璧だったのも追加しておきます。
「ダンジョンから脱出して戻るなら時間もかかると思うからお団子、先に食べちゃおっか。ミコさんはどのお団子にする?」
「すまぬがわっちは先に〝御守り〟を補充してくるゆえ、先に食べててよいぞ」
どうやらミコさんは詳しく覚えているうちに情報を共有したかったようで、それがすんだらすぐさまに消耗品の補充へと行ってしまいました。
「ラピスちゃん、そういうところはちゃっかりしていらっしゃるのですね。では、わたくしも……」
「あははっ。ミナツさんもだと思うよ」
そういえばミナツさんと二人きりになったことってゲームでもリアルでもなかったですね。
「そのミナツさんと二人になるのって初めてかも?」
「そうですわね。《《ラピス ちゃん》》」
ミナツさんからの圧が、圧が凄いです……。私は覚悟を決めて切り替えることにしますが、それでも一つだけ腑に落ちないことがあるのです。
「《《ミナツちゃん》》。喋り方ってどうしてそんなに固いの?」
「あぁ、これですの? わたくし、ネットゲームというものは初めてですので、失礼のないようにと思いこのような話し方をしているのですわ。特にミコさんのように目上の方も普通にプレイされているのでしょ?」
「そうだね。私もナマーや礼節は気を付けてるし、あのアユちゃんも《《ミコさん》》って呼んでいるからね。けど……私たちにまでそうしなくてもいいんじゃないかな?」
少し間が空いてポツリポツリとミナツちゃんが話し始めます。
「……一度始めたことを簡単にはやめられませんわ。ラピスちゃんたちと会う前にパーティーを組んだ方も大勢いらっしゃいますし、もしも……その方々ともし再会したらどんな顔をしていいのかからないのですもの」
あぁ、これって私も同じでした。きっとミナツさんは、いえ、奈津美さんはこの先も同じように悩むんでしょうね。だから私は友達として、そして人生の先輩として彼女の悩みを解決してあげなければいけないと思いました。
「えっとね、ミナツちゃん。その使い分けができて私は初めて大人になれると思うんだ。例えば担任の先生とか」
身近な人で言えば担任の森永先生です。ある意味で私の人生における先生でもありますが、先生はネットとリアルは全然違いますし、失礼ながら青春熱血教師のあれでいて、きちんと社会人として教師と生徒、そして保護者が他の先生方との接し方を上手く切り替えています。
「それに私も。……不登校だったでしょ? 最初はすごく怖かったよ。アユちゃんともミナツちゃんとも友達じゃなかったし、それでも私の過去を知っている人がいる中で変わった私がやっていけるのか不安だったから」
「あっ……。ごめんなさい」
「だいじょうぶ、きにしないで。……それでね、私ってそれこそ先生たちに救われてネットゲーム内では変われたんだ。けどね、先生が言ったんだよ。〝体面を気にしろ。ラピス、お前がしっかりしていれば誰もお前を蔑ろにはしない。そんなやつはもうすぐ社会に出るのに自覚がない馬鹿だ。―――それにネットと同じように心から話せる人を大切にしろよ。じゃなけりゃすぐに潰れちまうぞ〟って」
ほんと、先生には感謝してもしきれません。その森永先生を先生にしたのもエミルさんらしいので、あのお二人が今の私を作っていると言ってもいいのですけど、そういうと〝お前の頑張りだ〟って怒られそうなので胸に秘めていますが。
「先生がそんなことを……。だから、さ。もうちょっとミナツちゃんも楽にして遊ぼうよ! もっとありのまま叫んだりさ、その方が楽しいよ!」
「ふふっ、ラピスさんは大人ですわね。―――《《アユちゃんやプリアちゃん》》のようにはいきませんけど、《《頑張ってみるね》》。あ、そのみたらし団子一口もらってだいじょうぶ?」
「いいけど、そのかわり三色のよもぎと交換だよ?」
「ええ。ではそれで」
二人でお団子を食べてお茶を飲みながらゲーム内で同じ時間を過ごします。少しだけど、私たちの距離が近づいた気がしました。
「あっ! みんな! お待たせ!」
「いや~、あれには参った参った。さすがにごめんね。って、ミコさんは?」
しばらくするとアユちゃんとプリアちゃんが《《教会の方から》》やってきました。
「おかえりなさい。で、どうして教会からなんです?」
「ん? ミナツの喋り方少し変わった?」
「《《アユちゃん》》には教えません」
頑張ってる奈津美ちゃんを私は微笑ましく見ながら、一緒に遊べてよかったと心から思ったのでした。




