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第92話 栗毛聖女、麦ダンジョンの中ボスと戦う。

『かかってこ―――、ぐふっ!』


 私の矢がお腹に刺さったことで〝動く案山子〟の遭遇時に発動する強制ターゲティング(挑発効果)が無効化され、ミコさんがスムーズに後ろ側に回り込みます。


「ナイスじゃ! ―――刺突・推飛ッ!」

「じゃあ、そのまま倒れてね。泥沼(クァグマイアー)ッ!」


 ミコさんはノックバックを利用して案山子の群生地からモンスターを叩き出します。


「ありがとうございます。では、―――火炎斬ッ!」


 流れるような連携で〝動く案山子〟を撃破していきます。ちなみに私はずっと弓を装備して矢で通常攻撃をしていました。


「それにしてもあの時のお二人のやり取り、まさかこの戦法ができるか試していたなんて……」


 ミコさんとアユちゃんの茶番に見えなかったやり取りのことでミナツさんは感動していました。私が思うに恐らくは偶然の産物でしょうけど、それをうまく使っていくのはこの二人の強みですね。


 カーンッ! カーンッ! カーンッ!


 私はだんだんと弓の扱いに慣れてきて、遭遇した円盤反射丸へと片っ端から矢を撃ち込んでいきます。


「ラピスちゃん! 楽しそうだね!」

「うん。凄く楽しいよ! 新しいことができるようになるとテンション上がるよね!   ―――あっ!」


『カラカラカラ』


 気持ちいいくらいに命中して調子に乗っていたところを矢が外れて、私はアクティブスキル(起動発動スキル)であることを思い出し、持続時間に気を付けていこうと気を引き締めるのでした。



――――――



「ラピスちゃん、無理に紙の鳥(ペーバード)は狙わなくてもよいのですよ? アユさんが頑張りますから」

「そうだよ~、適材適所! 代わりに動く案山子(ウゴクカカシ)はお願いね」

「……うん、そうだね。二人ともありがとう。今はそれに集中するよ。弓も普通に使えるようになってきたし、当て難いモンスターにも当てられるようにもっと練習するね」


 それからダンジョンをさらに潜っていったのですが、ペラペラの紙の鳥(ペーバード)に私は攻撃を当てることができないまま何度かの扉を潜り抜けて、周囲の明かりが一気に弱くなって雰囲気の違うマップにたどり着きました。


「明らかにさきほどまでと違うのぅ……」

「なんか急におどろおどろしくなったね」


 飴やクッキーといったお菓子が籠に入れられて、通路の左右に等間隔に置かれたロウソクを飾るように置かれており、ところどころに古い箒やカボチャの置物が置かれていました。


「これって……」

「「「ハロウィンだっ!」」」


 私とアユちゃんと、プリアちゃんはハモったことに笑って、ミナツさんとミコさんは微笑ましい子どもを見るような感じで私たちを見ていました。


「と、いうことはじゃな」

「この階層には恐らくアレがモチーフのモンスターが出てきますわよね」


 私たち三人もハロウィンといえばアレという認識で警戒しながら通路を進みます。


「……きましたわね」


 カボチャの頭が光っているため遠くからでもそれが確認でき、徐々に近づくにつれてモンスターの全体像が露わになります。


『うぉおおおおおおおぁ!』


「って、これは少し違わない!?」

「あははっ! これじゃジャック・オランウータンだね!」

「プリアちゃん上手いっ!」


 奥から現れたのは褐色の体毛に覆われたオラウータン。しかし、その頭にはカボチャの被り物と異彩を放っていました。


「ラピス、破魔矢を頼むのじゃ」

「わかった。遊びはナシの全力だね。―――気功法・集中妙技(しゅうちゅうみょうぎ)ッ! やぁ!」

「───付与呪術・反転金縛(はんてんかなしばり)ッ!」


 私はDEXを強化し素早く破魔矢を放ちます。残念ながら通常攻撃でですが、それは真っ直ぐに飛んでいき、ミコさんの呪術師スキルによる特殊麻痺が付与された状態でジャック・オランウータンのお腹に直撃しました。


「南瓜森の人《ジャック・オランウータン》、まんまですわね……」

「だよね~」 「うん」 「じゃな」 「そうだね!」


 戦闘が始まりモンスター名が表示されてミナツさんが呟き、全員が同意します。


『うがぁあああああああああっ!』


「ウォーターブロック(水塊)ッ! ちょっと! 拘束時間短すぎじゃない!?」

「なぬっ! 咆哮で動けぬ!」

「私もダメみたい!」


 麻痺は1秒持ったかどうかで解けてしまい、私とミコさんは近づきすぎたためか咆哮によるスタン(気絶)状態による行動不能に陥りました。


「ならっ! ―――神秘の輪舞《ミステリアス・ロンド》ッ! わたくしは中衛に回って踊りますわ!」

「―――移動速度増加(スピードインクリーズ)ッ! アユちゃん、ミコさんに!」

「おっけー! 移動速度増加ッ!」


 ミナツさんのダンススキルによって状態異常が解除され、二人の移動速度増加を受けて腕を振り上げて攻撃モーションに入っていたジャック・オランウータンの攻撃をギリギリで回避します。


「ミナツちゃん、そのまま頼める?」

「任されましたわ。貴女と踊ったあの時からは上達してましてよ」

「うん、それは知ってるかな。坩堝蜜竜の時はありがとね」


 私は振り返らずにお礼を言ってジャック・オランウータンへと殴り掛かります。


「では―――、春の祝福舞(ハピネス・スプリング)ッ! 状態異常と見たらすぐに神秘の輪舞(ミステリアス・ロンド)に切り替えますので先ほどと同じ動きでお願いいたしますわ」

「やるじゃん! ウォーターブロック(水塊)ッ!」

「────正拳突きっ、えいっ、えいっ、正拳突きッ!」

「っふ、っふん! やぁ! ───刺突・一点ッ!」


『うがぁああ〜⋯⋯』 バタンッ


 ジャック・オランウータンとの戦闘はミナツさんの機転が功を奏して、私とミコさんはいつも通りの動きで大技も回避しながら攻撃を行え、そのまま押し切って倒しました。


「どうでもいいけどさ、南瓜(カボチャ)と西瓜(スイカ)ってどっちが強いのかな」

「私は西瓜蟹鋏鳥(スイカニッパー)の方が強いと思うよ。なにより比べるまでもなく可愛いし」

「……えっと、そういう話でしたの?」


 どうやらジャック・オランウータンはボス部屋の前の門番的な中ボスの立ち位置にいたようで、他のモンスターに遭遇することなく、くだらない話をしながらでもボス部屋にたどり着きました。


【 ↑ ボス部屋《ご自由にお入りください》 】


「なんとも律儀なダンジョンボスじゃのう……」

「ちょっと待って! それは罠だよ! こっちも看板があるし!」


 プリアちゃんの指さす先を見ると、確かに立て看板があるのようで、私たちは近づいて内容を確認しました。


【 → 宝物庫《危険》 】


「普通、宝物庫とか書く!? しかもボス部屋には危険って書いてないのに〝危険〟って何!?」


 アユちゃんのツッコミがダンジョンの最奥にある分かれ道でこだましたのでした。

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