第90話 栗毛聖女、餅を焼く。
『さぁ、〝上質な餅〟の調理法を選んでくれ』
私たちはナミノからさらに北上してトロピバードの巣のある熱帯林を抜け、トロピドラゴンと戦った場所のさらに先にある長閑な田舎にあるノドカナ村にやってきました。
「イベントのために各村に|ノンプレイヤーキャラクター《NPC》を配置といっても……、これは雑すぎるじゃろ」
「だよね~。出てきたのは〝選択肢〟って、VRゲームならもうちょっとなんとかならなかったのかな」
「あははは……。後ろの電子レンジに入れて雑煮ができるとかファンタジーだよね」
まさかの選択肢のみ! これには私も笑うしかありませんでした。しかも、電子レンジでお雑煮、きなこ餅、おしるこ、磯辺焼き、揚げ餅と、入れるだけでなんでも出来ちゃうので雑だな~っと皆で呆れながらも笑っています。
「まぁ、意図がわからんでもないがのぅ……。料理ができるまでの時間を最短にして同時にバフをかけれるようにしたのじゃろうな……。かもしぬだけじゃが」
「なるほど。これはステータス強化の効果が得られる時間を限界まで利用したい人のための仕様、と言われてみれば確かに人によってはアリですわね」
ミナツさんは納得していますが絶対そこまで考えていない気がしますし、なんだったらミナツさんを見てミコさんが小さく笑ってます。
「とりあえず頼んでみようよ! 私はおしるこ! 知力上昇効果! あとは、お雑煮で体力を補強かな!」
『最高のお雑煮とおしるこ作ってやるよ!』
「じゃあ、私もプリアちゃんと同じでっと」
「一人50個集めたけどすぐなくなっちゃいそうだね」
二人が2種類のバフを選んだのを見て、一ヶ月ほどの期間で毎日バフを得ようとすると少し足りないけどそこは調整すればいいかなっと思いながら私も揚げ餅と磯辺焼きで筋力とAGIを上げようと選択肢んで〝上質な餅〟をNPCに渡します。
『おや? まあいいか』
「よくないよ!?」
さきほどまでと反応が違い、ついツッコミを入れましたけどNPCはなんのその。そのまま電子レンジに〝上質な餅〟は入れました。そして数秒後……。
『なんてこった! 〝上質な餅〟の中から〝名もなきのエンブレム〟が見つかったぞ! これはキミに返そう』
私に渡された《《それ》》はギルドを作るために必要なアイテムで、このゲームではまだギルドの立ち上げられている数が少なく、市場に滅多に出てこない高価な品でした。
「なんてこった! ラピスちゃんの〝上質な餅〟が消えちゃった!」
「これっ! 煽るでないわ! ちゃんと料理は出来ておる。バフ時間がもったいないゆえ、狩りが終わってから考える。それでよかろう」
「ミコさんもなかなか濃いですわね……」
――――――
「───"天穹・始導"ッ!」
「───付与呪術・反転金縛ッ!」
私とミコさんのコンボは健在で、特に1月中はどこの町でもお守りや破魔矢が買えるようになっているため、お金に糸目を付けなければこのノドカナ村周辺でも余裕を持って狩りができました。
「私のっ! 出番がっ! ないっ! ちょっと節約して普通に戦ってほしいかな! ヒールさせてほしいかな!」
「プリアさんの言う通りですわ。料理効果も実感できないまま終わりそうでわたくしも退屈でしてよ」
「ごめんね、二人とももうすぐ着くから時間優先してるんだ。我慢してもらえると助かるかな」
私はミコさんと他のみんなのログインを待つ間に調べておいたとっておきの場所へと最速で向かうことを優先して謝りました。
「ラピスちゃ~ん。私も何があるか知らないんだけど?」
「アユちゃんの好きそうな場所だよ。あっ!」
田畑に実っている麦のような作物は次第に私たちの背丈を越え、次第にトンネルを形成していきます。
「到着~! ここが私とミコさんが聞いたノドカナ村にある《《ダンジョン》》だよ!」
麦のトンネルが突如として現れた門で先に進めなくなりました。ここからダンジョンとなり迷路になっているらしいのです。私たちはバフの効果時間を1時間以上残して目的のダンジョンへとやってきたのでした。
「道中の強さから、たぶん私たちの今のレベルでステータス上昇状態ならボスまでいけると思う」
「ちなみにダンジョン内の情報は?」
「もちろん知らないよ。だってもったいないでしょ?」
私たちがこの案を思い付いたのはノドカナ村への移動の最中でした。
――――――
「あ、トロピバードだ。お久しぶり! 放水 ッ! ホーリーアドオンッ!」
『アッ! アッポォ~~~……』
「え? トロピバードってこんなに弱かったっけ」
「アユちゃん、私たちレベルを蜜竜で上げたからそう感じるだけだよ」
飛行タイプのモンスターは攻撃の当て辛さの代わりにHPが低い傾向がありますが、それでもアユちゃんの放水一発で倒せるとは思ってもいませんでした。
「アユちゃんがINT極振りってのもあるけど、そろそろ次の町へ行こっか」
―――そんなこんなで北上してはみたものの……。正直レベルを上げ過ぎた感が否めず、余裕すぎる戦いが続いてしまっていたのです。
――――――
「で、ミコさんとみんなが来る前に話しててね。もうちょっと北上しないと私たちの適正狩場にならないんじゃないかって。だけど、ちょうどその時に村人からこのダンジョンを教えてもらったから初見で、準備なしで、みんなで突破してみてみたいなってことで内緒にしてたの」
私はネタばらしをして、ステータス上昇効果のお試しと合わせての計画だったことを説明します。
「ラピスさんって、意外とおちゃめというかなんというか……」
「栗毛の聖女様はたまにあるよ? ミナツもすぐ慣れると思う」
「その言い方、いつものミナツさんじゃないけど私にもわかるよ? ア~ユ~ちゃ~ん~!」
私が追いかけると逃げるようにアユちゃんが門を開いてダンジョンの中へと入っていきます。私たちも続いて入り、こうしてダンジョン一発攻略を目指し始めました。




