第89話 栗毛聖女、餅つきをする。
元旦から正月クエストが始まり、イベント『新年の始まりにお餅を食べよう』がスタートしました。フワマル……によく似た空飛ぶ餅型のモンスター、モチマルを倒すことでドロップするアイテム〝もち米〟を集めて〝お餅〟と交換するイベントに私たちは参加しています。
「えいっ、正拳突きっ、えいっ、正拳突きっ、えいっ、正拳突きッ!」
「ラピスちゃん、その動き方って懐かしいね~」
アユちゃんが私の動き方に気付いてしみじみしています。
「そうですの? いつものラピスさんに見えますけど……」
「それにしても楽しそうだね!」
「あはは、まぁ。アレを知ってるのは私くらいでいいかなー。ごめんね、ちょっと教えられないかな」
私のやっていることはこのゲームを始めたての頃、フマワリに対して行っていたものとまったく同じで、私自身も懐かしさを感じながらも楽しくイベントを遊んでいます。
「アユちゃんアユちゃん。あの頃とはキレが違うでしょ?」
「うんっ。もう笑わないし、笑えない。立派な正拳突きだと思うよ」
『もちぃ~~~……』
なぜ私がそんな攻撃をしているかというと、モチマルが打撃耐性を持っているのに打撃攻撃を行うほど固くなっていき、〝上質な餅〟という希少ドロップアイテムを落としやすくなるからです。モチマルはカチカチになり最期にはひび割れてドロップアイテムを残して消えました。
『もっちぃ! もっちっちっ!』
「それにしてもイベントで打撃耐性ってよく考えられてるよね~」
「うん、私もそう思うかな。だって固定1ダメージって初心者でも参加しやすいし、新年最初のイベントで《《みんなが参加できる》》って素敵な運営だよね」
すぐさま近くにいた次のモチマルと戦闘を開始しますが、モチマルの必死の攻撃は最初のうちは柔らかく、どんなプレイヤーにも1ダメージしか与えられないようで、会話しながらでも余裕で受けられます。
「餅をつくように、打撃を与えるほど徐々に固くなって、少しだけ受けるダメージも増えるとかってところが私は好きですね」
素手でも与えられるダメージは変わらず、初心者から熟練者までが同じダメージ効率でアイテム集めが行える。ナツミさんが言うように戦ってるうちに変化もある。―――ちゃんとプレイヤー全員がイベントを楽しめる。そんな使われ方をしている打撃耐性に感動を覚えながら私はモチマルを殴ります。
「斬撃で倒すと〝もち米〟確定、打撃だと時間はかかるがレアドロップ発生率アップとはのぅ、フワマルの時をわっちも思い出すのじゃ。っふ! ―――正拳突きッ!」
「あー。言われてみればそうだったね。【厄災】フワマリンネに挑む時、ミコさん刺突属性でパンパンッって凄い勢いで倒してたけどレアドロップで苦戦してたもんね」
アユちゃんとミコさんのしている〝フワマルの宝玉〟の話もずっと昔に感じて、みんなで色々と冒険した一年が懐かしくて、……今はこうして思い出話となっていることに新年を迎え、年を重ねて私たちもあの頃から変わったんだなっと実感します。
「ねぇ、それにしても〝上質な餅〟って何に交換してもらえるのかな?」
「〝お餅〟は破魔矢とかお守りとかだよね! ってことは〝金の破魔矢〟とか!?」
「なるほどのぅ。ご利益も凄そうじゃな」
もうすぐイベントが終わり、イベントアイテムの交換が始まるのに告知がないのです。少なくない期待感を持って私たちは〝上質な餅〟を時間の許す限り集めました。
――――――
「「「終わったーーー!!!」」」
「お疲れ様でした。なかなかに疲れましたが、蜜竜退治よりは楽でしたわね」
「……さすがにわっちもアレはもうやりとうないのじゃ」
私たちは〝上質な餅〟を一人50個、計250個という決して少なくない個数目標を定めて、なんとか期間中に集めきりました。
「誰じゃ、最初にそんな目標を立てたのは……」
「ミコさんだよ!?」「かな?」「だよ!」「ですわ!」
最初、〝上質な餅〟が連続してドロップしたためミコさんが確定ドロップと勘違いして言い出したような気がします。私は少し記憶に自信がありませんでしたけど、みんなの反応を見るにミコさんが言い出したことで間違いなさそうでした。
――――――
ポンッ
[皆さまお疲れ様でした。ただいま、1月5日5時00分を持ちましてモチマルはフィールドから姿を消します。12時00分より各町の広場にて餅焼きNPCが2月5日まで配置されます。〝上質な餅〟をNPCに渡していただくことで各種ステータス上昇効果が受けられます。〝お餅〟を渡された場合でも上昇量は少ないですが同様の効果が得られます]
翌日、全員への一斉メールにて〝上質な餅〟の用途についての詳細が伝えられました。
「なんじゃと……」
「ぁー、元気だしてよ。ちょっと昨日は言い過ぎたからさ」
ミコさんをアユちゃんが慰めていますが、あれだけ頑張って集めたアイテムがまさかのバフ効果を得られるだけとは思いもしなかったので無理もありません。
「けど楽しかったよね! ナツミちゃんはどうだった!?」
「わたくしも楽しかったですわ。ずっと戦闘というのはレベル上げというゲームという概念に縛られていましたけど、こういうイベントも悪くないですわね」
「あーーー! なんか〝サギノウン〟とか【厄災】だとかで忘れてたけど、MSOでのあの地下室のイベントやってないよ!?」
アユちゃんがしまった―って感じで叫んでいますけど、なんかわざとらしいです。きっとミコさんに気を使っているんだなとわかり私は笑っちゃいました。
「大丈夫だよ。もうあと半年もすれば七夕だし、その時には忘れずにクリアしにいこうね。それまではこっちのイベント色々と遊ぼうよ」
「―――そうじゃな。イベントなんていくらでも発生するのがネトゲじゃ。それこそプレイヤーが企画したイベントもあるじゃろう」
「だね! 最初のイベントは終わっちゃったけど! 今年一年は始まったばかりだよ! 遊び倒そうね!」
「そうですわ。わたくしを《《また》》楽しませてくれるのでしょ? アユさん」
みんな笑って、結局はいつも通りって感じで最初のイベントは終わりを迎えました。ミナツさんが含みを持たせて言ったせいでアユちゃんと《《また》》言い合いしてますね。
「それじゃ、みんな。今年も遊び尽くそうね!」
と、やった後に扱いに困るアイテムが〝上質な餅〟から出てきたのでした。




