第88話 栗毛聖女、新年を迎える。
いつもより早い時間に目覚ましが鳴り、私は目を覚ましました。
「よかった。ちゃんと起きられた」
夜の寒さで冷え込んだ室内で、暖かなベットの誘惑を振り払って起き上がり少しだけ体を意識して動かします。
「よしっ! この感じなら二度寝はしないね」
脳と体が覚醒したことを確認し、念のために何重にもセットした目覚まし時計を次々と解除していき、顔を洗ってから着替えをするためにクローゼットを開けるます。
「……こうしてみると服、いっぱい増えたかな」
新たな気持ちで開けたクローゼッロにはかけられた洋服が並び、その多くは今年になってから買ったものでした。春夏秋冬の季節を迎えるごとに増えていって、今では服を詰めないと新たにかけれないほどになっていました。
「来年からは季節ごとに服の出し入れしないとだね」
春になったら冬服を仕舞うのを忘れないように言葉に出して決意表明をします。
「たしか……、あっ、そうだ。ジャスターさんがそんなことをずっと言ってたんだ。〝言葉にしたからにはしっかりやれよ〟って」
なぜかリアルでもみんなに支えられているような、そんな感覚にふと陥りました。
「私、みんなに本当に感謝しないとだね」
今日、初詣のために選んだ洋服は落ち着いたニットの白いセーターにアクセントに赤い花柄が入った淡い青色のスカート、その上から黄白色のコートを羽織り大人コーデに仕上げました。
「茉実ちゃんと奈津美ちゃんが一緒に選んでくれた服だもん。私に似合って当然かな」
鏡の中の私は、自分で言うのもあれですけど美少女そのものでした。それを確認して冷蔵庫に入れたご飯を食べに行こうとすると、ダイニングで物音がしていたでもしかしてと思いながら扉を開けます。
「やっぱり。お父さん、おはよう」
「おはよう、ラピス。ご飯の用意はできているからゆっくり食べていきなさい」
トースターで焼いたパンと紅茶が暖かい状態で用意されており、私が顔を洗った後に着替えの時間を考えて、できたてを食べれらるように用意してくれていたんだなっと感じ、胸が熱くなりました。
「あけましておめでとう。お父さん、いつもありがとう」
「あけましておめでとう、ラピス。その言葉だけで嬉しいよ」
そう言って、二人でご飯を食べながら正月番組を見て時間を過ごします。
「そろそろ時間だし、もう行くね」
「待ちなさい」
私が食器を片付けて出ていこうとすると呼び止められました。
「後ろを向いてごらん」
「こう?」
ッス―――
「うん。凄く似合ってる。春奈そっくりだ」
頭に手をやると何かに当たり、しばらくしてそれが簪だと気づきました。
「え? これ……」
「いいから。お友達が待ってるんだろ? 楽しんでおいで」
初詣の話を昨日知ったお父さんが簪なんて用意しているわけありません。ならこれはお母さんの簪だと私にもわかりました。
「―――うん! 楽しんでくるね! お土産、買ってくるから! いってきます!」
「いってらっしゃい。気を付けていくんだぞ」
もうそんな子どもじゃないよ~、なんて返しながら玄関を出ます。少しだけ歩いたところで思ったよりも寒くて手袋を取り出してはめます。
「さむい〜っ! 今日は一段と冷え込んでるかな? だけど⋯⋯」
朝の空気はとても澄んでいて、年の初めという特別な日の演出だと思えばそれも楽しくて、待ち合わせの場所へと気持ちを弾ませながら向かいました。
「末っ───」
私が二人を見つけて声をかけようとすると駆け寄ってきた茉実ちゃんにお口チャックのモーションを含めて静止させられました。
「お正月に最初に会ったらなんていうんだったかな〜?」
わざとらしい独り言、それで察して奈津美ちゃんを見ると頷いて「せ〜〜〜の」って茉実ちゃんの掛け声がかかり、私たちは息を揃えて挨拶します。
「「「あけましておめでとう〜!」」」
「「「あはははっ!」」」
「ちょ、ラピスちゃんっ?! 泣くほどのことじゃないでしょ」
「笑いすぎて涙が出るなんてラピスちゃん面白い〜!」
「それよりもその簪、凄く似合ってますね」
「うん。ラピスちゃんの髪色によく合ってると思うっ!」
たったそれだけのことだけど、去年の今頃はこんな友達ができるなんて思ってもいなくて、とても嬉しいくて涙が少し出ちゃいました。絶対に二人とも笑いすぎじゃないって気付いていると思うのに⋯⋯優しすぎです。
「これから行く神社って学業成就で有名なんだってー」
「私たちまだ高1なんだけど⋯⋯」
「狐島さん、これまで全くお祈りに来なかった人が合格祈願に行きなりきて神様が願い事を叶えて下さるとお思いですか?」
何でもミコさんに社会人について色々と聞いていたそうで、何か頼み事をするなら信頼を勝ち取らないとならないとかで神様に対しても同じだとか話を聞いたそうです。
「まあ、学生の頃から頑張る気がある人が高1の時からお参りに行くからご利益があるって意味合いもあるらしいけどね」
「本当の意味で神頼みはしてないわけだ〜」
「狐島さんも頑張ってね。私も教師って目標も見つけたから。夢に向かって頑張るから」
奈津美さんは恵美さんに本当に憧れているんですね。私も学校に通えただけで満足せずに将来を考えていかないと⋯⋯。
「「「しっかりと勉強ができますように」」」
私たちは願い事を揃えて神様に祈りました。元旦の初詣は本当に楽しくて、新しい年の初めを祝うってこういうことなんだって思い知らされるような活気と、皆が静かに願う参拝の空気、友達と出店で買い食いをしたりで目が回るくらい怒涛の時間がそれから一気に過ぎていきました。
「ただいま〜」
「おかえりなさい。楽しかったかい?」
お父さんに「うん」と答えて、御守りを渡します。
「学業成就の神社だけど、ご利益は同じだろうから。はい、これ。健康御守りだけど身に付けてね。───いつもありがとう」
家に帰り、お父さんに御守りを渡して自室に戻ってきました。一息ついて簪を抜くと二人の私を可愛い可愛いとずっと言ってた顔が思い出してにやけてしまいます。
「二人ともちゃんと気付いてくれた。似合ってるって言ってくれた。それも何回も何回も」
私の紅碧色の髪は、日の光で色合いが大きく変わるのですが、どんな色にも負けないリンゴ飴のような輝く澄んだ赤色を放つ宝石をベースに作られた簪は私を彩り続けてくれました。
「あ、早くログインしないと」
私は楽しかったしまだ大丈夫だと思うのですけど、人混みで疲れたからってことで私たちはゲームの中でまた集まって正月イベントを楽しむことにしました。
「その前に簪! お父さんに返さないとだ。―――お父さん~!」
私はそれを誤魔化すために二回目のただいまを言ってからGFOにログインしました。




