第87話 修二、恵美と年を越す。
俺は年越しの参拝のために恵美と有名な神社へと初詣へと来ていた。
「こんなくそ寒いのによく並べるな」
「何言ってるのよ。この雰囲気がいいんじゃない? 元旦に行くのもいいけど、夜の12時を神社で迎えて、参拝をする。これも普段はしない初詣の醍醐味だと思うのよね」
そして、寒空の下で既に2時間は列に並んで待機をしている。ちなみに現在時刻は11時30分で、この列が動き出すまで30分もある。《《動き出すまで》》がだ。それから人が流れ出すので実際に参拝できるのは深夜1時くらいになるだろうか。
「それに、可愛い彼女と一緒に並んでるだけでも幸せだなとか言えないの?」
「それは一時間くらい前に言った気がするんだが?」
ちょっと寒くて雑な返事になってしまって悪いとも思いながら、やっぱり寒くて会話するのも少し億劫になる。
「もうっ! しょうがないね~、これなら少しは暖かいでしょ?」
そういって恵美は自分のマフラーを俺に巻き付けた。
「それだとエミが寒いだろ。さすがに返すよ」
「いいの。こうすれば問題ないからっ! えいっ」
そういって恵美は俺の腕を首に持っていき、抱きしめるような態勢になるようにセーターのふかふかを俺の腕ごと巻き付けた。小柄な彼女はちょうどいい位置に収まりご機嫌だ。
「どう? 恥ずかしくて暖かくなってきたでしょ」
「……ですね~。恵美さん、これはマフラーを忘れた俺への罰ゲームでしょうか」
「どうかな? 私へのご褒美かもよ? 夏休みに海へついて行ってあげたじゃない。高校生っていってもあなた一人じゃ目の届かないところも出てくるかもってことで」
ラピスたちを海へ連れて行った時、彼女も教員免許を持っているため学年主任の北里先生を説得し、上へと話を通してもらい監督者の一人として一緒に来てもらったのだ。
「高校生ってやつは、高校生の男女まとめて海へって意味の心配もあったんだが……、エミに目を奪われてるヤツらもいたからな。まぁ、何も起きなくて良かったよ。本当に助かった、ありがとう」
「シュウ君の頼みだからね~。どうせ〝俺以外の教師も同伴すると生徒が存分に楽しめない〟とか考えて私に頼んできたんでしょ? 気にしなくていいのに。私もラピスちゃんとアユちゃんにも会いたかったし」
そういって楽しそうにしているエミを少しだけ強く抱きしめる。
「あの子、ずいぶんと成長してただろ」
「うん。見違えた! 電話で話したと思うけど、こないだまでまた一緒に遊んでたんだよ~。今度はいっぱい友達連れてさ、こっちの世界にきてたんだよね」
「あっ、そういえば……」
それを聞いてちょうど今、ハナというプレイヤーが〚 ❀ Flower の 今日の冒険 ❀ 〛という配信でエミルやラピスたちと戦った坩堝蜜竜戦の配信をやってることを思い出し、持っているデバイスを操作して動画の視聴を始めた。
「私と居るのに他の女の声が聞こえる。一体キミは何を見て―――って、これハナさんじゃない」
「ミコさんからゲーム内で連絡があってな、ラピスたちの向こうでの動画を配信するらしいから見てほしいって送られて来たんだよ」
「ぁー。まぁ、あの戦いは確かにサーバーで語り継がれる伝説になるんじゃない? ちょっと常識外れ感がおかしかったし、ミコさんがシュウ君に見せたい気持ちもわかるかも」
動画を見始めた俺たちは違和感にすぐに気付いた。
「なんでハナさんが顔出ししてずっと画面にいるんだ?」
「BMG化してるけど、これあの時の戦いでの音声だけ流れてるよ」
「放送事故だね」
「放送事故だな」
二人で笑いあう、そして可愛そうなので動画を閉じた。お互いに今年に起こった出来事などを話していると、ラピスの話題がやたらと多いことにも驚いた。
「そういえば宮木がエミに憧れて教師を目指すらしいぞ」
「えっと、宮木さんってミナツちゃんのことだよね? さすがにちょっと私を神格化しすぎじゃないかな? 少し心配だし、本当にやりたいことはないかシュウ君、ちゃんと夢や進路について話し合ってあげてね」
「俺が教師を目指した時はそんな心配してくれなかったのに……」
「あれはキミの一目惚れでしょ。どうせ言っても聞かなかっただろうし、―――それに嬉しかったからいいのよ」
最期の小さな声で呟いた言葉は密着しているせいかしっかりと、確かに俺の耳へと届いた。それにしての宮木か……。普段は優秀で非の打ち所のない生徒なんだが、教師を本気で目指すにしろ、他の道を進むにしろちゃんとあいつの進路について親身になってやらないとな。ギリギリになってからじゃ遅いし。そんなことを考えている徐々に周りも騒がしくなってきたので時計を見ると今年も残り5分ほどだった。
「それにしてもあの子が中心の一年でちょっと妬けちゃうかな」
「けどエミも心配してただろ? 大丈夫、ラピスはあれでしっかり学生してるよ」
俺たちからしたら大切な仲間で、妹みたいな存在だった。あの子が社会復帰できるように色々と教えてきた。それが報われた一年だった。
「ねぇ、参拝終わったらオサゲ横丁でうどん食べようよ! あの溜まり醤油ベースの濃いタレの! やっぱりせっかく来たんだからご当地グルメだよね~」
「はいはい。俺もさすがにへら減ったわ。あ、紅福饅頭も買って帰りに食べるか」
「いいね! あっ、そろそろだよね!」
誰かハリピっぽい男が音頭をとってカウントダウンが始まる。
「うわ……、マジかよ」
「そういいながらシュウ君、楽しそうな顔してる」
「60を数えるってバカっぽくてそれもいいなって思っただけ」
俺はこういうノリが嫌いじゃない。昔は体育祭や文化祭で騒ぐのが嫌いだった。だけど、高校を卒業して分かった。それが自然と出来るのは学生のうちだけだって。大学でも騒ぐ奴はいる。だけど、見ていてもわかる。心を一つにした団結感はそこにはない。ただ、そいつのやることを面白がっているだけだ。
「なんかこの感じさ、ネトゲに似てるよね。まったく見知らぬ人とその瞬間を楽しむ感じとか」
「そうだな。こういう誰彼構わず巻き込んで、《《みんなで楽しもうとするやつは嫌いじゃない》》」
エミは俺の気持ちをなんとなく察してるんだろう。そんな高校生までの行事嫌いのやつがそんなことを言うことに。だからこそ、学生時代を大切にしろと、生徒に熱くなってしまう俺がいることに。そして、今もこうして騒げる愛すべきバカを好ましく思っていることに。
「―――32っ!」
「あははっ! シュウ君、そこから乗っかるんだ」
「いいだろ別に。 25っ!」
「24っ!」
二人して大きな声でカウントを始めると、初めは冷めてバカなヤツが騒いでいるとしか思っていなさそうな連中たちも一人、二人とカウントが進むごとに声を出していき、10を迎えるころには皆が笑顔になっていた。
「「「「「0っ!!!」」」」」
「「「「「あけましておめでとぅううううう!」」」」」
その場に居合わせた名前もしらない人たちが叫ぶ数字だけが神社の境内に響き渡る。ただそれだけのことが楽しくて、ただただ楽しくて……。寒いのは苦手で、エミのためにとだけ思ってやってきた深夜の参拝だったけど、俺も心からすっごく楽しい思い出になった。




