第86話 花子、こたつから配信する。
私は年末配信を行うためにこたつに入ってマイクなどのセッティングをし、準備万端で配信開始のボタンを押した。〝REC〟のマークが画面に表示されたのを確認してから私は画面を見ながら話しだす。
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〚 ❀ Flower の 今日の冒険 ❀ 〛
「みんなー、来てくれてありがとう~! はじめましての方~、Flowerです、よろしくね。今日はなんとレイドボスのモンスターとの戦闘だよ! めちゃくちゃ激しい戦いだから楽しみにしていってね~。それじゃ緩〜く始めるね」
今日の配信機材は明日、新年を迎えるということで一新したものになっている。本当は元旦にお披露目したかったけど、三が日は店もやっていないから大晦日でちょっと早いのは仕方がない。旧機材は引き取りで割引を受けているので手元にないし。
「今日からはちょっと高性能になったマイクと、複数カメラによる立体的な映像で配信していくよー。って、言っても私も初めて使うからまずはいつもと同じ1カメラで……、みかんでも撮ってみましょうか」
私は動画を切り替えようとして、《《年末最後に放送事故を起こした》》。
『ちょっと、カメラ! リアルのFlowerさん映ってるよ~!』
『うわぁ……。普通のOLさんっぽい感じ』
『こたつに入ってるのがFlowerさんらしいよね』
「みんな、今日も凄い冷えるね〜。私は今年も色々あったね。ふぅ~、やっぱり冬と言えば蜜柑だよね~、ってはぁ!? ちょ、停止停止っ! あれ? どうやって切るんだろ……ってとりあえず、カメラずらせば」
必死で三つのカメラを壁に向けて、冷静になって配信停止ボタンを押そう……として思い止まる。
「もうここまで見られてしまったんならネタにしてしまってもいいかな?」
『独り言もマイクで拾われてるよ~』
『無駄に高性能すぎる機材に振り回されるFlower氏w』
「さて、放送事故を盛大にかましてしまいましたが気を取り直して配信を……」
私は心機一転、新たな気持ちで顔出し動画配信者として歩むことを決めた。
「あれ? ちょ……用意してた動画どこいったの!?」
『音声だけ聞こえてるよー』
『映像はFlowerさんの部屋のままだけどなw』
ヤバイ……。テンパってしまって操作方法とかまったく思い出せないんだけど、もうこのままいくしかない。
「みんな~。おこたでぬくぬくFlowerだよ!? 今日は改めて来てくれてありがとー!」
用意した動画は使えない。切れない音声だけが下手に流れているせいで次回以降に坩堝蜜竜戦の動画は使うこともできないと思う。色々と完全にやらかした……けど、私はめげない! 明るくこの配信を終える! フォロワーのみんなのために!
「もう事故ちゃったし改めて自己紹介といこっか。《《じこ》》だけに!」
『もうひどすぎるwww』
『まぁ、Flowerさんらしいっちゃらしいよね』
体を張って笑いを取るってこういうことなんだ……。私は、今、確かにリスナーさんとの繋がり実感している。
「それでさ~。レベル上げも大変だったわけよ~。わかる? ずっと移動速度増加っていうスキルだけを何人かとタイミングを合わせて使い続ける精神的疲労感とか」
もう、私は顔出ししたのを存分に生かしてハニードラッゴでのレベル上げとかの苦労話などを織り交ぜて、まったりと微かに聞こえる|ロイヤルゼリードラッゴ《坩堝蜜竜》戦をBGMに動画配信を続けます。
「あ、ごめんね。少しだけ席をはずすね。すぐ戻ってくるから!」
悪いことが起こる時は重なるもので、寒さのせいか食べ過ぎた蜜柑のせいか。お手洗いへと行っている間にさらなる放送事故が発生していました。
『ちょっと、あれ。Flowerさんが座っていた座椅子、めっちゃくちゃ可愛くない!? 花柄でフリルいっぱいついてる座椅子とかあるんだ~』
『言葉を選ばないなら少女趣味……』
『まぁ、Flowerさんらしいっちゃらしい』
『それなっw』
「みんな、またせてごめんねぇええええええええ!?」
私は画面に残ってるフォロワーたちのコメントログを読んで、またやらかしたと気づいた。急な方向転換、当然のように部屋など映す気はなかったので私の趣味全開で部屋中が彩られた状態で動画配信をしていたのだ。
「まぁ、ゲームやってる女なんてこんなもんだよ~? ファンタジー大好き! 少女趣味全開! みたいな?」
『ぃゃ、私も女だけど流石にFlowerさんくらいの年齢になってそれはちょっととは思いますが、趣味は人それぞれですもんね』
『だそうです。弁明は?』
「はい。……すみません。一纏めにしちゃダメでした。ごめんなさい、反省してます」
どうして私はフォロワーさんに謝っているのだろうか。いえ、私が悪いのもわかるんですけど、なんか理不尽を感じました。
【リバウンドォオオオオオオオッ!】
静寂に包まれた配信中のBGM、坩堝蜜竜戦での私の叫びが私の心を抉ります。だって、この後は……。
【……何やってんの?】
【馬鹿やってないで働いてください】
『ちょw Flowerさんゲーム内でも謝ってるんだけどw』
『このタイミングでこんなシーンを仕込んでるとはFlowerさんヤバイわ~w』
『え? まさか最初の放送事故から全てが計算されて?』
『Flowerさんだしそれはないと思うね。けど、間違いなくこの人は《《もってる》》よ』
好き勝手なコメントが流れますがスパチャも少なからずあり、私の今後への投資や笑わせてもらったお礼だといった嬉しいコメントも一緒に受け取りました。
「そっか……、そうだよね。私、《《もってる》》よね?! 実はね。この月影オンラインってゲームで有名なプレイヤーたちとのレイドバトルの動画なんだよね。まぁ、有名っていっても私はしらないんだけどさ」
そう。私はアレスたちに、そしてラピスちゃんたちに支えられて今の配信ができている。間違いなく恵まれているんだ。
「それでね。栗毛聖女って呼ばれてる子が凄いんだよ。もうあの子のやってる操作テクニックに名前が付くくらい。そんな子たちとゲームで遊んでるの。どう? すっごいでしょ。羨ましいでしょ」
もう私は止まらない。いくらでも仲間たちのいいところも面白いところも、みんなとの思い出も語りつくせない。ずっと話続けられる。
「ねぇ、もしかしてこれが《《ゾーン》》ってやつ?」
『絶対違うw』
『それでもFlowerさんにしかできない配信だと思うけどね』
『うん。間違いなく、今のFlowerはいつもの癒し系とは少し違う、トップ配信者の空気を纏ってるよ。まぁ、いつかやらかすのがFlowerさんだから楽しみではあるけどw』
そっか。好きなことを配信するってこういうことなんだ。年末の大晦日、私の中で何かが変わった気がした。それは間違いなくみんなに出会ったから起きた変化だ。
「ネトゲってすごいよね。人との繋がりが確かにあってさ、それがきっかけで変わることもあるんだもん」
私はもうすぐ戦闘が終わるのを音声だけの動画から察して、フォロワーと繋がる名案を思い付きました。
「それじゃ、もうすぐ音声だけだったけどレイドボス戦も決着だから、私がカウントするからみんなも〝移動速度増加〟って一緒に叫んでね。5、4っ」
『ちょ、なんか始まったんだけど』
『みんなやろーぜ! 絶対楽しいからさ』
私はカウントダウンを始めます。……3・2・1。そして、
「『『『『移動速度増加ッ!』』』』」
《《画面から聞こえてくる》》みんなの〝移動速度増加〟に重なった。それは、私たちが【厄災】化した坩堝蜜竜戦の最後にスイカニッパーにかけた移動速度増加であり、フォロワーのみんなと一緒に戦っていたみんなが私の中で一つに重なった瞬間だった。
『ちょw 何が起きたん!?』
『まさかの移動速度増加スキルで戦闘が終わったんだが』
『映像をくれぇえええええ!!!』
『うわっ。顔出しされてるとFlowerさんがいたずら成功したみたいな顔してるのが見えるんだな』
にっしっしっし。混乱しているフォロワーさんのコメントをみながら《《してやったり顔》》で私は配信を続けます。
「ちょっと私のミスで映像はないけど、フォロワーのみんなともレイドボス戦を共有できたみたいで楽しかったよ! 今日の配信にきてくれてありがとー!!!」
あ、そうだ大晦日だった。年越し蕎麦食べないと。
「みんなー!? 今日は大晦日だよー!!! 私は年越し蕎麦を食べるけど、うどんも美味しいよね! 蕎麦、うどん戦争なんて言い合いしてないでラーメンでも寿司でもウナギでもなんでも好き食べてに寛いで年を越そうよ! それじゃ、おやすみなさいー! よいお年を!!!」
やりきった……。ハプニングだらけだったけどやりきった。アドリブだらけで必死だったけど、それでも私、配信をやりきったんだ……。
「はぁ。つかれたぁ~~~。おなかも空いたしさっそく蕎麦でも……」
『今日の配信すごかったよー! 感動した!』
『なんかめっちゃ面白かった。いつものまったりもいいけど、こういうのも人間味を感じられていいな』
『最後のアレ、すっげー笑ったw ネトゲって楽しんだなw 俺もネトゲやろうかな』
席を立とうとしたら目に入った、皆の配信が終わった後から送られてきたコメント、感想が私の中に染み渡る。
「みんな……、本当にありがとう」
『配信きり忘れてますよ。やっぱりFlowerさんはFlowerさんですねw』
私は無言で配信を切り、念のために配信機材、パソコンなど全ての電源を落とした。そして蕎麦を食べながら一年を振り返る。
「それにしても楽しい一年だったな。私の常識も、世界も、Flowerとしての知名度もすっごい変わった一年だった……っと、思い出に更けるよりも新しい思い出かな」
どうせアレスあたりは大晦日だろうがログインしてるだろうし、私が一緒にいてあげないと寂しいかなっと思ってログインする。
「やぁ、今年ももう終わりだけどやり残したことは?」
「ない。どうせアレスのことだから動画配信みて笑ってたんでしょ」
なんだかんだいいながら、この人は私の動画配信を毎回見てくれて、絶対に感想をくれる。
「最高に笑ったし、すっごくいい配信だったと思うよ。もっと有名になった日には伝説の大晦日と伝えられるような配信だった」
「ちょっと言い過ぎ。アレスの言葉って表裏なさ過ぎて……なんていうか、照れるから」
二人で適当に大晦日の雰囲気の町を歩く。くだらないジョークグッズが売られ、使われ、華やかな町を楽しみながら……。
「それに、Flowerのすっごい楽しそうな顔を今年の最後に見れて最高に幸せかなw」
「……ああああああああっ!!!」
そうだ。この人にリアル顔バレしたんだった! マジ死にたい……。
「いや、そこ落ち込まれても困るんだが。すっごい可愛くて素敵だと思った。俺に見られたのを気にするなら連絡先を教えてくれたら俺も画像送るよ?」
変に紳士で、真面目で、優しくて……。この人のこういうところが私は好きだ。
「んっ。ちょっとチャットで送るから待ってて」
「はいはい。って、マジかよ」
「悪い? 別に私が女でも、配信みて態度を変えてこなかったしアレスなら大丈夫だって思っただけだから。気にしないで」
こういう時にはぶっきらぼうで、素直になれない私が、私は嫌いだ。
「ありがとっ! すぐ戻るから一度落ちるな!」
なんでそんなに紳士的なのにたまに無邪気なの? いつかそう聞いたら、花子も無邪気で可愛いよって返された。そんな未来が見えた気がした。
「もうすぐ0時だね」
「だな。カウントダウンでもするか? さっきみたいに」
私は頷きカウントを始めるために時計を見てまだ60秒あることを確認する。
「動画、いつも見てくれてありがとう……。それにパーティに誘ってくれてありがとう。あぁもうっ、私らしくないね! アレスッ!!! よいお年を! 5!」
「その方が! 4っ! ハナらしくていいな。3っ! よいお年を」
「2っ!」
「「1っ!」」
ボーンッ! ボーンッ! ボーンッ!
時計塔の鐘が鳴り響く。新たな一年、またこの人と冒険をする。動画を配信していっぱい感想をもらう。そんな決意をして時計の針は0時00分00秒を刻んだ。




