第84話 勇太、坩堝蜜竜戦の動画を見る。
俺はとある動画を再生している。それは〝Flower〟という動画投稿者がレイドバトル参加者に向けてこの動画をこのまま使っていいか。と公開した坩堝蜜竜戦で、Flower視点からの戦闘の様子が映し出されていた。彼女たちは月影オンラインへとラピスと共にやってきたプレイヤーで、|GOD・F・オンライン《GFO》でのメインシナリオである【厄災】の謎を追っている。
「いや……、なんだこれ……。ほんと、なんだこれ……」
まず最初に、〝紅月兎〟と俺が遭遇できた時点で【厄災】モンスターの判定がリセットされたのはわかった。しかし、よりによってレイドボスと戦っている最中に対象が変更されるのが想定外だ。
「つか、この聖女たちすげーな。どうしてあの突進に対して〝断絶の盾〟が間に合うんだよ」
坩堝蜜竜、その突進が最大の脅威でターゲットにされたプレイヤーへのホーミング性能もあり必中、直撃で食らった場合は後衛のHPなど一瞬で吹き飛ぶ威力がある。あるのだが、それを全てターゲットを見極めて確実に防いでいた。……【厄災】変化によるクールタイムリセットで予想外の突進すらも。
「あれとか事前情報一切なしだろ。打ち合わせはスキルを使う順番だけっぽいし、それであの対応力。これがMSOを続けてきたプレイヤーの操作技術か」
培われた経験は裏切らない。もしも〝たかがゲーム〟だのいうヤツがいたとしたら、全プレイヤーが怒るだろう。じゃあお前にできるのかと。VRゲームをなめんじゃねーよと。
「まぁ、やってる人間にしかわからないだろうがな」
通常のゲームなら操作者の手の動きなどが映し出された瞬間、そのゲームに無知な人間でもすげーっ!となる。それは指先などの素早い動きが現実で自分が真似できないとリアルにわかるからだ。しかし、VRゲームは違う。キャラクターが動いているだけなら自分にもできると錯覚してしまう。
「〝天海の噴火竜〟とか俺は話しか聞いたことがないような領域のモンスターだが、ラピスたちは戦闘の経験があるってことか。やっぱすげーな、追いつける気がしねぇ……」
特に、高難度ダンジョンと呼ばれる場所になるとレベルは実装時での最大レベルまで上げるのは当たり前、その上で各モンスターやギミックへの対策、状況判断能力やプレイヤー間の連携などをミスなくやってようやく倒せるレベルで狩りに行ける。
「……っと、いけねぇ。俺もその領域までいかねーとな。なんたって《《仲間が待ってる》》んだからな。……まったく、重いもんをプレゼントしやがって」
こないだのクリスマスに栗毛の聖女から送られた卵はまだ孵らない。ペットの卵は所有プレイヤーがペットにスキルを使用することでスキルを習得でき、その習得できる数が卵のレア度で変化する。銀の箱から出てきたというこの卵はレア度3。一般的には中級と呼ばれるランク帯のモンスターが生まれるが……。
「ぜってー、習得してるのは聖女スキルとかヤバイのばっかだろ。わかってんだよ……まだ子どものくせしてあの世話焼き聖女は」
とか考えていると普通に【厄災】と戦い出した。【厄災】戦を想定して初心者へ習得させた魔法がホーリーアドオンなのだが、このパーティーには二人もいたようで効率的にダメージを稼いでいた。
「いやいや……、あの二人、《《初心者の動きじゃないだろ》》。発動中の魔法が着弾する前にターゲティングして属性付与を発動しないといけねーからタイミングがめちゃくちゃ難しいスキルのはずなんだけどな……」
ミナツはまだわかる。スキルが成功し続けているのは驚嘆に値するが、それだけに集中しているようで動きがぎこちない。だが、それをいとも簡単に行い、あまつさえ自身で攻撃魔法も織り交ぜてそれにも付与をしているアユというプレイヤーには驚愕した。
「あきらかに使い慣れてやがる……」
そして、彼女が水属性特化の魔法使いだったのを思い出して一つの原因が思い当たった。
「つまり、そういうことか? フワマリンネでナミノへ渡ったんなら水魔法が効かねーからずっとこの魔法を使い続けていたと? あほかっ!」
冷静に考えてほしい。魔法使いという職業で覚えられる火・水・風・土、たしかに熟練度による威力や派生スキルの問題はあるが耐性のあるモンスターへの攻撃より間違いなく弱点属性のほうが効く。そこを実質無属性のような扱いで聖属性を付与して攻撃していたと。もはや彼女の使い方はただの無属性化魔法だ。
「いやいやいやいや。水縛陣ってそういうスキルだけど水柱立てて発動するスキルじゃねーから。水属性の魔法使い二人で使う連携スキルとして設計されたはずだが?」
少しすると湖へと移動した坩堝蜜竜が眷属召喚を行いましたが、それをいとも簡単に防いだのだ。フィールドの水を使って。
「この動画を見てると常識が壊れていくな。……主にこいつのせいで」
そして、ラピスたちGFO組が近接戦闘を始めたシーンに移った。なぜか坩堝蜜竜が動きを止め、サンドバックと化していた。
「この挙動、もしかして眷属召喚を連続して行うルーティンに入っていたから詠唱キャンセルが発生してんのか? 眷属召喚開始、キャンセルを繰り返して動かなくなっていると……」
俺には何が行われているか即座に理解できた。いや、さすがにこれはまずい。今回は偶然でイレギュラー続きなので目を瞑ると思うが、ボスモンスターがカカシになるなどあってはならない。バグとして悪用をする輩が必ずでてくると感じた。
「開発へ報告すべきだな。ボスモンスターが近接攻撃によって詠唱中断された場合、別ルーティンに切り替わるように提言してみるか。落としどころとしてはこのあたりだろう」
詠唱中断無効になんて変更したら恐らくは削りきる前に突進で全滅する。これはゲームなのだからクリアできる方法がなければならないので、浮遊効果のある靴をもつラピスたちのような例外を基準にしてはいけない。だが、似たことが起きても困るので対策は必要だった。
「それに最大HPに対する割合ダメージがレイドバトルにおいて強すぎる。レイドボスに対してのみ下方修正の検討も追記しておこう」
俺は彼女たちの戦い方からゲームバランスの調整を行った方がいい部分をメモっていく。そして、最後の攻撃を見た俺はどうすりゃいいんだよ……と頭を抱えた。
「楽しけりゃーそれでもいいか。―――って、んなわけにいかねーよなぁ~}
ラピスたちが今まで通り楽しめて、それでも常識の範囲内に収まるように仕様変更を数日掛けて練り上げて上司へと俺は提出した。
後日、VRMMORPGをプレイしている全ユーザーへ告知が行われた。
――――――
仕様変更のお知らせ
・レイドボスに対して最大HP参照型の割合ダメージスキルの威力倍率が減少します。
・特定のボスのルーティンが変更されます。
・移動速度増加の重ね掛け時に上昇する速度上限が設定されます。これに伴い、同時スキル使用による重複効果は3回までとなります。




