第83話 栗毛聖女、クリスマスプレゼントを贈る。
「クリスマスイベントまで凝っておるとはのぅ、わっちらはいつ帰れるのじゃ?」
七夕同様に、クリスマスは夜がメインのイベントとなっており、町やフィールドがクリスマスツリーやイルミネーションといった豪華仕様に変更されて、なおかつ専用のイベントモンスターも沸くという話をエミルさんたちがしていたのと、先にGFOへと戻ったアレスさんたちから、というかハナさんの配信動画からGFOではイベントらしいイベントが行われないことを知った私たちは、坩堝蜜竜との戦いから数週間が経過しましたがまだMSOの世界にいました。
「今日はクリスマスイヴだよ! プレゼントボックスは用意できたね!」
「うん。今年もサンタクロース迎撃戦があるみたいだし楽しみだよ」
イベントは例年行われてきたものが今年もあるようで、私たちは簡単にできるクエストをクリアしてプレゼントボックスに価値の低いドロップアイテムをたくさん詰めて用意しました。
「サンタクロースとプレゼント交換会……、しかも中身はランダムかつ奪い合いとかすっごい面白そう!」
「善サンタと悪サンタが世の中にはいらっしゃるのですね。で、私たちは悪サンタが善サンタの置いたプレゼントボックスをすり替えて奪ったものを奪い返すと、こういうことですわよね」
「その認識で大丈夫だよー。見分け方は帽子の色だからすぐに分かると思う。注意点として、くれぐれも奪ったアイテムボックスは開けない事」
子供のプレゼントだからね。サンタさんにそのまま返すのがこのイベントのクリア条件なのです。
「それと、奪ってすり替える前に、自分のプレゼントボックスを奪われたら失敗になって報酬がもらえないから注意してね」
「ラピスちゃん! そろそろ待ち合わせの時間じゃない?!」
「あ、ほんとだ。ありがとう、プリアちゃん。ちょっと行ってくるからみんなのことよろしくね」
私はある人との待ち合わせのために別のマップへと一人移動します。アユちゃんたちはMSOがインストールされたプレイヤーがいないとマップ移動ができない仕様のため、プリアちゃんがいないとジングルタウンから強制的に最初の町ハジマリに送られてしまうのであまり時間は取れませんが、それでも二人で話がしたかったので無理を言ってその人に時間を作ってもらいました。
――――――
「やぁ、久しぶりだね。クリスマスに呼び出しをしてくれるなんて期待してもいいのかな?」
「お久しぶりです、応羽さん。期待してもいいですよ? そのために来ていただいたので」
私は微笑みながら白の漢服に鉄扇を装備したプレイヤー、応羽さんと噴水のベンチに腰掛けます。
「町中のイルミネーションがとっても綺麗でロマンチックですね。私、あの大きなトナカイがすっごい好きなんです。わかります? ふふふっ」
雰囲気がそうさせるのか、私は自然と口調が大人びてることに、自分で笑ってしまいながら街並みを眺めます。
「そうだね。初めてVRMMORPGにログインした時を思い出すよ」
「それって……、応羽さんはクリスマスプレゼンントでこのゲームを?」
応羽さんは無言で頷き、飾られているクリスマスツリーを見ながら語り出しました。
「《《オレ》》も昔は学生でさ、勉強を頑張って頑張って……気付いたら一人になってた。そんな時、おふくろがこのゲームを買ってきてくれたんだよ。クリスマスプレゼントだってね。高校生なんてもうそんな年でもないのにさ」
「いいお母さんですね。あっ……、ってことはあなたも私たちと同じ……」
「そうだね。何度もコンバートをしているからキャラクターは初心者に近いけど、実はVRプロト世代だよ。ってか、その言葉が出てくるってことはもうバレてるでしょ」
何が? とは私は言いません。それも含めての二人だけでの密会ですから。……まぁ、誰と会うとかはアユちゃんたちには伝えてあるので密会というかはわかりませんけど。それよりも、話し方からして女手一つで育てられてきたのでしょう。そして、プレゼントにこのゲームをもらったところまで応羽さんの境遇が想像ではありますけど、私と似ていて親近感を覚えました。しかし、今日の要件を思い出しすぐさま意識を戻します。
「その、今日はお礼を言いたくて……、ありがとうございました!」
「はははっ、いいっていいって。こちらのミスで苦労をかけたしね。まぁ、オレの願いが叶うとは思わなかったけどさ」
「いえ、それだけじゃなくて……。きっと七夕や今回の【厄災】イベントでMSOにこられたのも貴方が何かしてくれたからですよね?」
ほぼ確信に近いレベルでそう私は感じています。仮にこの方が関わらずに世界間移動のイベントが実装されたとして、数あるVRゲームのタイトルの中からたまたまGFOとMSO間の移動が可能になるなど奇跡に近い偶然なのです。
「……いや。どこぞのお節介な先輩が何かしてくれたのかもなぁ~。しらんけど(笑)」
「むぅ~……。この感じは本当にお節介な先輩の仕業のようですね。そ・れ・で・も! 世話を焼かれる後輩でいてくれてありがとうございますっ!」
なんででしょうか。この人と話していると大人っぽくありたいのに子供っぽい話し方になってしまうのは。あ、プレゼント。そうです。お礼を言わないとプレゼントが渡せないからですよね?
「忘れないうちに渡しますね。メリークリスマスです」
「ありがとう。開けても?」
渡したプレゼントボックスを応羽さんは開けて、少し硬直した後に冷静になって入っていたモノを取り出して確認します。
「これは卵?」
「はい。支援系のレアなペットです。それと、これはなんかいろんな人から押し付けられたペット専用装備や高価な強化餌です。あははっ。何を期待してたんですか?」
「いやいや、さすがにこんなのもらうわけには……」
私の冗談も聞こえないくらい動揺しちゃっていますが、これらのプレゼントは他の方たちからの想いでもあるのです。
「受け取ってください。それは私からのお礼だけじゃなくて、応羽さんへのみんなの期待、レベル差があって遠慮しているあなたと早く冒険したいという願いからのプレゼントなんです。だから、遠慮せずに受け取ってください」
最初に倒すべき【厄災】〝紅月兎〟と想定した戦いでも会議に参加しながらも応羽さんは一歩引いていました。それは運営の人だからだと思っていましたが違いました。エミルさんたちに話を聞いてわかったのですが、ギルドのみんなとパーティーを組むのを遠慮がちに断る傾向があるそうです。レベルや装備の差があることに負い目を感じているのでは? とみんなが考えたのです。
「〝強くなるのを待ってるからな。一緒に冒険に行こうぜ〟だそうです。誰からとは言いませんけど。なので、これはそのみんなの期待です」
私は預かった言付けも伝えました。それを聞いた応羽さんは下を向き卵を抱きしめて固まってしまったので、私は黙って時が過ぎるのを待ちます。
「……キミたちが楽しそうでほんとによかったよ」
「お心遣い本当にありがとうございます。けど、私は、私たちは、応羽さんにも一緒に楽しんでほしいんです。みんなの気持ちは伝わりましたよね?」
「……あぁ。たしかに受け取ったよ」
そのあと、私たちはたわいもない話をして過ごしました。それはネットゲーム、人との繋がりを確かに感じるもので、応羽さんに私が伝えたかった時間でもありました。
「応羽さん。せっかくネトゲで遊んでるんだからさ、もっと人と関わろうよ! その方が何倍も楽しいよっ! だって、ほんっとーーーぅにいろんな人がいるんだもん!」
私の本心で願い。クリスマスにサンタさんへお願いする私のプレゼントは〝この人に楽しいを届けて〟です。だって、ここはゲームだから。七夕で応羽さんの願いが叶ったのなら、私の願いもきっとサンタさんへ届くはず。
「ありがとう。キミたちの想いに応えられるように楽しんでいくよ」
「……なら応羽さんに一つお願いがあります」
「ん?」
ずっと言いたかったこと。七夕の時はまだ知り合いでもなんでもない状態でしたので別によかったこと。
「キミとかキミたちって他人行儀なのはやめてほしいです。私のことは《《ラピス》》ってちゃんと呼んで、仲間のことは《《みんな》》って呼んでください。応羽さんもゲームを一緒に遊ぶ仲間なんですから」
「……わかったよ、ラピスちゃん。これでいい?」
「なんかまだ他人行儀な感じがまだするかも。……ラピスって呼んで。〝ちゃん〟はなしで」
―――すっと立ち上がって転移ゲートの方へと移動を始めた応羽さん。私はちょっと要求しすぎたかも?って不安になっていると立ち止まって振り返ってくれました。
「そろそろ戻るぞ。おい、《《ラピス》》。きこえてるかー」
「―――はーい。応羽さん」
「オレが〝ちゃん〟付けやめさせられたんだから。ラピスも〝さん〟付けはやめてくれ、っていいたくなるな」
「んー。じゃあ、お兄ちゃん!」
「なんでだよっ!?」
この後、用意していた応羽さん用のプレゼントボックスを渡してみんなと合流して6人で悪サンタをボコボコにしました。
「ほらっ! みんなちゃんとしたプレゼントをもらったんだから、これでクリスマスも終わりだよ!」
「よしっ! 開けよーっ!」
「なんじゃ。このミニスカサンタ装備は……。絶対にわっちは着ぬぞ」
「わたくしは……、あら? クリスマスソードですわね。って、これめちゃくちゃ強いのですけどっ!?」
「ミナツさん。ここMSOだから出てくるのもそれ基準だし、ずっと狩りしててレベルも上がってるからね」
私たちが開封式で遊んでいると、ミナツさんの装備をみて〝……そういう問題もあるのか。なるほど〟とか言っている応羽さんがいました。ゲーム運営は大変だと思いますけど、ユーザー視点で楽しんで、問題点も見つけて、もっと楽しくなるゲームにしてくれることを願っています。
「それじゃ、みんなっ!」
「「「「「「メリークリスマスッ!」」」」」」
「はずいな。これ」
「慣れじゃ。このノリにいけねば戦闘もついていけぬぞ?」
「それってどういう……」
年長者のミコさんと応羽さんがなにやら話し込んでいますが、打ち解けている感じなのでよかったです。
クリスマスイベントも終わり、私たちはGFOへと戻りました。今回の別れはあっさりとしており、なんだかんだでまたすぐ会えそうだなって空気で〝またねー〟をしてきました。
後日、ハナさんが公開している動画で坩堝蜜竜戦を見て呆れていたと、エミルさんから話を聞いたナツキさんから私たちはその話を聞いたのでした。




