第82話 栗毛聖女、坩堝蜜竜と戦う⑤
『グガァアアアアアッ!!!』
激しい雄たけびと共に天海の噴火竜の紋章が派手に発光し、海竜種のような長首が短くなり翼の濃くなった紋章と尻尾を残して坩堝蜜竜へと姿を戻していきます。最終形態は巨大な女王蜂の竜、その一言が一番しっくりとする見た目をしていました。
「なんだよ……あれ」
「ちょっと、あのお尻はやばそうね」
レイドバトルに参加している全員の視線が坩堝蜜竜の巨大化したお尻、正確に言えばそこに集まって黒く塗りつぶしたようになっている濃縮された【厄災】に目を奪われます。
「針がでてくるか、子供が生まれるのか、どっちだろうね?」
「両方じゃないかしら? ほら、言ってる傍から眷属召喚ですわね」
「坩堝蜜竜の最初の形態が子供とか最悪すぎるんだけど……」
ミナツさんの予想はあたり、巨大な黒い針を出して少しだけ小さな坩堝蜜竜の子が三匹出現しました。ハナさんは絶望していますけど、周りも同じような空気になりつつあります。
「いやいや、冗談だろ……。湖の上に移動しちまったぜ」
【厄災】坩堝蜜竜(女王)は悠々と湖の中心へと移動して坩堝蜜竜(子)と待機モードに入りました。
『『『ロロロロロロォオオオオオオ』』』
「完全に仕切り直しってわけ?」
「だね! 私がヒールで何があっても癒してあげる! 薬草娘だからっ!」
「ウチら全員で支援魔法のかけなおし! 初撃と同じ準備してもっかいいくよ!」
絶望感の中でいち早く立ち直ったのは聖職者の方たちでした。〝死ななければ負けじゃない〟をプリアちゃんが高らかに宣言し、皆が初撃と同じ動きをします。
「―――闇夜が包むは静寂の使徒、化せよ貸せよ姿を変えよ、刃となりて力の一端を我が呼びかけに応じて解放せよ。―――〝闇調律刃〟ッ!」
「―――ホーリーアドオンッ!」
「―――聖夜十字斬ッ!」
「―――刺突・翔点ッ!」
「ふんっ! 斧ブーメランッ!」
「―――中級極大消滅魔法・極陽光滅線ッ!」
前とは違うのはメアリーさんの魔法に聖属性(陽)をミナツさんが行っています。
『『『ロィヤアアアアアアアアアアッ!』』』
その一斉攻撃が再び開戦の合図となり坩堝蜜竜(子)が一斉に突進を始めました。
「きたよ! サトウさん、それじゃ一番重いアイテムをお願いっ!」
「栗毛の聖女様は何をする気なんだい? まぁ、投げ入れてみればわかる、っか!」
「―――移動速度増加ッ!」
サトウさんが投げたのは〝地底湖の大岩石〟でした。貴重なエメラルコンがランダムで採れるアイテムなのですが、私は何か鉱石類の素材があればいい程度でお願いしました。まさか素材を取り出す前の状態で持ち歩いている錬金術師がいるとは思いませんでしたね。
ザバーーーーンッ!
「二人ともありがとっ! ―――水縛陣ッ!」
私が大岩の速度を加速させると勢いよく投げ入れられたため湖に水柱が立ちます。それを利用してアユちゃんは坩堝蜜竜(子)たちを拘束しました、あとは煮るなり焼くなり状態で素早く殲滅します。
「初撃のダメージが入ってたのもあるけど、ずいぶん楽に倒せたね、……本体は動かないけど」
「って、また眷属召喚してるんだけど!?」
『『『ロィヤアアアアアアアアアアッ!』』』
3匹が揃ったタイミングで今度は初撃なしでの突撃を同時に行ってきました。
「「「―――移動速度増加ッ!」」」
「「「断絶の盾ッ!」」」
三匹がバラバラのプレイヤーへと突進を行ってきたので、私含めて聖女全員で断絶盾を張ります。
「次は持たないわね」
「そうですね……。無理矢理にでも決着をつけるしか、だけどどうしたら」
「ねぇ、ラピスちゃん。ちょっと案があるんだけど、私たちGFO組だけで倒しにいかない?」
――――――
「なんじゃ。動かなければサンドバックではないか! 掌打・神通発勁ッ!」
「こういっちゃなんだけど、運営も想定していなかったんじゃない? 湖の上で近接戦闘をするなんてさ」
「それをアユちゃんが言ったらおしまいだよ⋯⋯」
私なら【一夜のガラス靴[翼]】、他の人もトロピバードからの報酬である常時浮遊(極小)付与された装備に着替えて湖の上で戦い始めました。結果としては挙動がバグってしまいサンドバッグとなっているためもうすぐ倒せそうです。
『ゼリリリリリリ……』
と、油断していたところ【厄災】坩堝蜜竜が垂直に急上昇していきます。
「ラピス! 戻れ!」
「早く逃げてくださいまし!」
「スピドラの《《アレ》》が来るぞ!」
私たちは近くに寄りすぎて、逆にエミルさんたちは離れすぎていて予備動作を見逃していたようで、天海の噴火竜が使う最後の大技、〝メテオ・ドラゴンドライブ〟がもうすぐ発動しようとしています。
「あっ! 空が光ったよ!」
「何か手は、何か手は……」
プリアちゃんが空を指さして時間がないのを告げると大気圏に突入するようなゴゴゴという音が次第に聞こえ始めました。
「のぅ、ラピスよ。わっちらも隕石をぶん投げてみるのはどうかのぅ。―――アユのように固定概念に縛られない戦い方がVRMMORPGには必要だと思うのじゃ」
あの発動したら全滅の大技を前にほとんどのMSOプレイヤーはこのレイドバトルを諦めていました。私も何か手がないか考えながらも心の底では無理かなって思ってた。けど、あのミコさんが、一種のゲームで頂点に立ったミコさんが、ゲームとして与えられたプレイヤーの攻撃以外で、《《ゲームとして可能な攻撃方法で》》迎撃しようと言い出したのです。
「そうだね! ラピスちゃん! まだ負けてないよ!」
「ですわよ! わたくしが踊って踊ってクリティカル率を高めて、逆転勝利へと導いてさしあげますわ!」
「ミコさんもいいこというじゃん! そういうのは私の十八番なんだけど、譲ってあげる!」
みんなが賛同してくれている。私ももちろんその案に乗ることにします。
「聞かせてもらってもいい? 隕石をぶん投げるってどうすればいいのかな?」
「《《これ》》をSTRが一番高いプレイヤーに投げてもらい空中で衝突させて相殺、撃破を狙うのじゃ」
ミコさんが取り出したそれは一枚の羽根でした。
『―――いやっス! おいらに犠牲になれとしか思えなイ! フワマリンネでもいいじゃないカ!』
召喚された《《スイカニッパー》》はとても投げられるのを嫌がっていました。言葉がわかるのは水着を装備したままのアユちゃんが通訳しているからですが、もうみるからにイヤというのが伝わってきています。
「プリアよ、其奴は何を喚いておるのかわからんのぅ」
「そうだね! 早く投げちゃおうよ!」
スイカニッパーには申し訳ありませんが時間がありませんし、巨大な質量をもった球体としては手持ちの中では最大で対応札としてこれ以上ないと私も思います。
「ごめんね。スイカニッパー」
『謝るなら投げないでほしイ……』
ごめんなさい。何言ってるかわからない……。本当はなんとなくわかるけど、ごめんなさい。
「まあまあ、〝世界くらい救ってやるカ〟って言葉を忘れたわけじゃないよね? あれ、【厄災】だよ? トロピドラゴンに憧れているんでしょ? なんとかしたら英雄になれると思うんだけどな」
『……オイラヲナゲルンダ。ハヤクシロ』
アユちゃんに説得され、表情をなくしたスイカニッパーがジャスターさんに持ち上げられます。
「いくぞ、―――おらッ!!!」
「「「―――攻撃力瞬間増加ッ!」」」
これが最後の攻撃だと、皆が心を一つにして飛んでいくスイカニッパーに強化スキルをかけていきます。
「近接職にもできることはある。受け取れ、〝共鳴・託〟」
「こいつを持ってきな! 〝攻撃力増加ポーション〟ッ! もう一個おまけで〝防御力増加ポーション〟ッ!」
「ショウユのアイテムだけだけじゃねーぜ?〝獄炎付与ッ!」
「からの~! ホーリーアドオンッ!」
「〝刹那の輪舞〟ですわ。鳥さん、このスキルで上昇したクリティカル率5%を必ず引いてくださいまし」
それはまさしく地上から立ち上る隕石。みんなの思いを乗せた希望のスイカニッパーは攻撃力・防御力のバフによりおそらく強化限界値までステータスは跳ね上がり、アユちゃんの聖属性付与を物理に属性を乗せる魔法に使うことでスイカニッパーの物理攻撃に聖属性が追加され、聖なる炎で真っ赤に燃えています。
「なんなのよー! もうっー! クールタイム終わったし、あのよくわかんない鳥くらい守ってあげるわよ! 断絶の盾ッ!」
「「「「「―――移動速度増加ッ!」」」」」
最期にこの場にいた聖職者全員が一度に移動速度をかけたことで、効果が重複して加速度が爆発的に上がり、一瞬で空の彼方へとスイカニッパーは消え去りました。
キィイイイイイイイイイイイン――――――
どーーーーーーーーーんっ!!!!!!
空で衝突した二つの隕石は対消滅したようです。ありがとうスイカニッパー……。
「ほれ、戻ってくるのじゃ」
『召喚の使い方が荒すぎて辛イ……。そこの栗毛の子に召喚者を変わってはくれないカ?』
「うむ。再召喚が可能ということは無事に撃破できたようじゃな」
スイカニッパーさん、ごめんなさい。あとでミコさんから私に召喚権を移動させておくね。……それはともかくとしても、再召喚できたということは無事に?スイカニッパーが坩堝蜜竜とぶつかったことを意味するので、私たちの勝利と言えるでしょう。
「ラピスちゃん! やったね! ブイっ!」
「「「「ブイッ!」」」」
「あははは! いいね、それ! ほら、みんな! ラピスたちに習って私たちもやるよ!」
「「「「「「ブイっ!」」」」」」
『おいらは英雄になれたのカ?』
勝利のムードの中、一羽佇むスイカニッパーに私は水着になって抱き着きます。
「ありがとね。スイカニッパー」




