第81話 栗毛聖女、坩堝蜜竜と戦う④
「ちょっとまてぇええええええ!」
ショウユさんが目の前で起こっている理不尽に対して声をあげます。
「うーん。私たちはトロピドラゴンで似たの見てるからね~」
「そうだね! なんたって【厄災】だしね!」
目の前の坩堝蜜竜の姿が変わり、黒い模様に包まれた〝天海の噴火竜〟に形態変化……、というよりは別のモンスターへと変わりました。
「で、ラピスよ。あやつはどんな攻撃をしてくるのじゃ?」
「まずは眷属召喚、それから火と水のブレス攻撃に……」
「溜めの長い必殺技だ。撃たれる前にやらなければ全滅する。他の攻撃は小倉殿の脅威にはならんだろ。刺突・推飛ッ!」
冷静なミコさんに私が丁寧に説明しているところをカゲミツさんがぶったぎります。それだけミコさんを認めているんでしょうね。
『グォオオオオオオッ!』
「くるよ! あとは動きを見ながら適時指示しな!」
まさにドラゴン。最近戦ってきたモンスターたちとは違う重低音の叫びが空気を震わせているような感覚にさせ、坩堝蜜竜と同じように突進攻撃を行います。
「聖職者の全員でとにかく|Night of メアリー《メアリーさんのとこ》に移動速度増加! 早く!」
私は近くの後衛で待機している別パーティの聖職者の方に指示を出します。当然、私たちのパーティ全員も移動速度増加を唱えますが、重複により確実に巻き込み事故を防ぐ必要が今回はあったのです。
「―――断絶の盾ッ!」
断絶の盾のクールタイムが何度も行われた突進のクールタイムリセットで乱れ、ミリンさんもマルシェさんも今は二人ともクールタイムに入ってしまってスキルが使えないため私が行います。なので守れるのは一人だけなのです。
「リバウンドォオオオオオオオッ!」
何事かと思ったらハナさんが叫んでいました。
「……何やってんの?」
「いやー、こんなに凄い戦闘なのに私の見せ場が全くないからねー。動画投稿者としてのアピールをしようかと」
真顔で皆の疑問を代弁してくれたアレスさんに感謝です。ハナさん、そこは編集でなんとかしてほしかったです。私は必至でその後のフォローにも入ります。
「馬鹿やってないで働いてください。癒しの風よ、巻き起これ風回復域展開」
「ヒューイの言う通り、手伝ってもらっているオレたちはふざけられる立場にいないんだぜ? 掌打・神通発勁ッ!」
まともな人たちばかりで助かりました。あとはアレスさんたちに任せて私は戦闘に集中します。
「あぶなかったよー。私、ふざけなくてよかったー!」
横から聞こえてきたアユちゃんの言葉は聞かなかったことにします。
「あっ! 眷属召喚きたよ! 私は【厄災】狙いで本体をそのままいくね!」
「―――詠唱省略!」
「ノックバックスキルで本体から引きはがして個別撃破! 回復役も分散だよ!」
【厄災】に聖属性(陽)が効くのは変わらないようなので、プリアちゃんの本体への攻撃宣言=極滅魔法の合図だと察して私は詠唱短縮をかけてから召喚された眷属に接近します。
「端岩竜〝スプレッドラッゴ〟と―――蜜竜〝ハニードラッゴ〟かー。姿が変わっても坩堝蜜竜だからかな? バラバラな弱点はめんどうかも」
「ラピス! ハニードラッゴは〝商攻快〟が引き受ける! 3匹なら、コショウ、レモンに、オレとサトウでいけるな? 回復役はいねーがお前ら絶対にぬかれるんじゃねーぞ! ―――〝獄炎付与ッ!」
「ありがとうございます! 凄く助かります!」
私はお礼をいって、ノックバックでハニードラッゴと共に遠ざかる4人にお礼を言います。
「スプレッドラッゴは余り遠くに剝がさずに近くで戦って欲しい。さきほどまでと同様に聖属性付与がもらえるなら私たち〝Night of メアリー〟の範囲攻撃で本体ごとまとめて闇に沈めてみせよう」
私はメアリーさんからの提案に乗り、エミルさんたちと協力して少しだけ引き剝がして本体は注意を引き付けるだけに留めます。
『プッシャアアア!』
吐き出される炎纏ったを岩を置けながら私たちは殴り続けます。なお、岩の体に斬撃属性は効果が薄いのでエミルさんやジャスターさんといった剣や斧を武器として使っている前衛の方は本体と戦っています。
「それに、しても、かてーな! 掌打・神通発勁ッ!」
「じゃな。じゃが、高防御力を想定したスキルを取得しておいて正解じゃったな」
「ですね。ラピスさんたちの反応を見るにヤバそうなモンスターですし、防御力が高すぎて攻撃力の低い私たちのスキル倍率が相対的に跳ね上がってのが皮肉です」
アレスさんの言う通り、防御力貫通スキルではなく相手の防御力と自身の攻撃力の差を参照にした倍率のこのスキルは疑似的な最大HPの割合固定ダメージとして機能を遺憾なく発揮しています。
「みんな! そろそろ魔法発動しそうだから天海の噴火竜に集めてー!」
「―――刺突・推飛ッ!」
「狂った風は壁となり、敵を押し込めろ! 狂風壁ッ!」
アユちゃんの合図で即座にこちらに移動してきたカゲミツさんと、少し遅れて他の槍使いの方たちがスキルを使用して本体へと吹き飛ばします。ヒューイくんが風魔法で一か所にさらに閉じ込めます。
『グガァアアアアアア』
ドーンッ! ドーンッ! ドーーーンッ!
叫びと共に視認できずに目標を見失った天海の噴火竜による無作為に打ち出される巨大な火山岩を私たちは避けながら、後衛に飛んでいきそうなものだけ高レベルの前衛職が体を張って受け止めます。
「ってーな! ミリン頼む!」
「わかってるわよ! 減ったHP全て回復させるわよ! 高回復魔法ッ!」
そして、ついに魔法職による総攻撃の準備が整いました。
「───放水ッ! ───ホーリーアドオンッ! ミナツ、メアリーによろしくっ!」
「―――嵐となりて力を示せ、我が呼びかけに応じて解放せよ。―――〝闇暴叫嵐〟ッ!」
「まかせてっ! ───ホーリーアドオンッ!」
「―――中級極大消滅魔法・極陽光滅線ッ!」
アユちゃん、メアリーさん、プリアちゃんの魔法が間を置かずに連続してヒューイ君の作った風の檻へと殺到し、内部の色を金色に塗り替えます。その後も、テンポよく攻撃魔法スキルに合わせてアユちゃんとミナツさんが聖属性付与を行いダメージを確実に与えていきます。
『ギャアアアアォーーー』
悲鳴は風の音に遮られながらも確かに聞こえ、風の檻から出てきたのは【厄災】〝天海の噴火竜〟ただ一匹でした。そして、そのHPも赤色へと変化しておりこの戦いも最終局面へと移行しました。




