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第78話 栗毛聖女、坩堝蜜竜と戦う②

「移動速度増加(スピードインクリーズ)ッ!」


 私がジャスターさんに移動速度増加の魔法をかけるのを見て、皆が各々に前衛職に移動速度増加をかけます。


「へぇ~、やるやん。さっきもそうだが被らないようにスキルを使うってのは何か仕掛けがあるんか?」

「あ、マルシェさんこんばんわ。そうですね、私たち〝移動速度増加部隊〟は人数が多いので、前衛一人に対して一人が専属で魔法をかける打ち合わせをしていますし、私が直に広範囲ターゲティング(栗毛聖女の眼)を教えましたので緊急時でも発動を見て即発動を行えるので対象が被らないんです」


 〝栗毛聖女の眼(ラピス・アイ)〟と呼ばれる私が編み出した後衛職限定のプレイヤースキルがあります。ターゲティングが対象の凝視で行われるので、スキルの発動を選択した状態であえて俯瞰的に広範囲を視点を固定せずに動かすことで発動対象の選択を保留としておくとターゲティングした瞬間に魔法が発動するのです。当然のことですけど、私が名付けたわけではありません。が、今となっては定着してしまい私も普通に使うようにしています。


「あいつら全員が使えるのかよ……。あれ、目が疲れるしよく集中力が持つな」

「一週間以上ずっとここでハニードラッゴを狩っていたので」

「マジかよ……。まあスキルの事前発動しておく必要はあるが、移動速度増加しか使わないなら確かに可能だな。ご愁傷様、っと、ヒールッ!」


 何か私に付き合わされたのを憐れんでいるような言い方ですけど、否定しきれないのでスルーします。白と赤のサンタ服を着たマルシェさんは手に持ったステッキを構えて回復を行います。


「―――刺突・一点ッ!」

「―――火炎爆発ッ!」

「ラピスちゃん! おかしくないかな?!」

「やっぱりプリアちゃんもそう思う? 知らない間に体力が多くなったのかな?」


 みんなの攻撃でHPバーがほんのわずかに減少したのを確認できましたけど、まだ9割りほど残っており、やはりHPの減り方が明らかに遅いです。


「なんとなくなんだけど、属性ダメージが入っていない気がするよ」

「え?」


 蜜の坩堝(このマップ)は全てのモンスターが火属性に弱く坩堝蜜竜も弱点ですので、ショウユさんの獄炎付与と主戦力の方々のレベル差補正を加味するともう3割り以上は減っていてもおかしくはないのですが、アユちゃんの言葉が属性変更の可能性を提示します。


「あれって⋯⋯、プリアちゃん! ロイヤルゼリードラッゴの背中の羽を見て!」

「うん。ラピスちゃんの想像通りだと思う! 私たちの前に誰か〝天海の噴火竜《スピラ・ブレッド・ドラゴン》〟を召喚しちゃって取り巻きとかも含めて坩堝に放り込んで対処してたんだよ!」


 坩堝蜜竜の羽に浮かんだ海をモチーフにした天海紋のようなものが薄く点滅しているのが目に入り、プリアちゃんに確認してもらうと嫌な予感が的中していました。坩堝モンスターは坩堝に入れたモンスターの特性を合計レベルの割合分引き継ぐので、匹数では蜜竜が多くて坩堝蜜竜が生まれましたが高レベルモンスターである天海の噴火竜の特性を少なからず引き継いでしまったようです。


「前衛の人たちはさすがに気付いてるよね。ショウユさん! 火と水、それと闇属性は効果ないかも!」

「なんだって!? てことは無属性ガチンコってことか???」

「―――ぇ? わたしの闇魔術って効果なかったの……?」


 メアリーさんがすごくショックを受けて、これからどうするか頭を抱えています。レイドバトルで大人数で攻撃しているためスキルのエフェクトで羽の紋章やダメージがほぼ見えていないため私たちは気付くのが遅れてしまったのです。


「ラピスちゃん! もうすぐ《《3分》》だよ!」

「わかった! マルシェさん。断絶の盾(ゼロシールド)を栗毛聖女の眼(ラピス・アイ)で! ミリンさんは初撃のクールタイム中だから外さないでね!」

「そやった……。まぁ、何とかやるやろ。まかせんさい! ちゃんと防いぐけん、よーみといてな!」


 私たち聖女3人は、断絶の盾(ゼロシールド)のクールタイム3分をお互いに意識しながら3分毎に行われるランダム突進に備えます。これは突進してから3分なので断絶の盾を発動する人は次の突進に対応できないためと、3分経過をクールタイムで誰かがきっちりと計るための攻略セオリーでもあります。ちなみに今回の私の役割は逃げ遅れて巻き込まれた人に断絶の盾を使う係です。


『ロロロロロロ……、リィイイイイイイッ!』


「―――断絶の盾(ゼロシールド)ッ! うっし! あとは任せた!!」


 慣れた動きで完璧に防いでいるあたり流石です。趣味装備で戦う人はそれによって迷惑をかけないために装備の強化とレベル上げ、プレイヤースキルといった面では妥協をしません。サンタコスで戦うマルシェさんも例に漏れず廃人なのです。


「マルシェ、ありがとな!」

「きにせんでええよー。今度〝おキツネ様〟に連れってなー」


 今回のターゲットになった商攻快の前衛の方がお礼を言い、マルシェさんは最強モンスターと戦いたいと冗談で返し、苦笑しながら了承して前衛の方は前線に戻りました。


「聖女やっててよかったなと思う瞬間だな」

「私もそう思うな」

「そうだね。うん、私も聖女やってて良かった」


 人から感謝される。それだけで《《自分が救われる》》のが聖女だと私たちは思いを共有します。


「それでも、私は武道家でもあるからやっぱり前線に出るよ。―――アユちゃん、ミコさん、ミナツさん! プリアちゃん……はそのままだけど、みんなも限界だよね?」

「よくかわかっておるのぅ! 3分ごとに突進がくるのはわかったのじゃ。であるならその間は好きに動かせていただくのじゃ」


 私は4人を見て、頷きます。この決断ができたのは集まてくれたみんなが、私がコンバートした時よりもずっと強くなっていて、安心して背中を任せられるとわかったからです。


「ね、私も好きに動くよ? あ、メアリーさん。闇魔術のあれをもう一回お願いしてもいい?」

「ふぇ? だけどアレ効かないんだよ?」

「私ってVRゲーム初心者だからさ、―――かっこいい魔法使いの先輩に初心者なりの戦い方を見せてあげる」

「アユちゃんは凄いんだよ? だからメアリーさん、とっておきの闇魔術をお願いね?」


 私はアユちゃんが何をしたいのかを察してメアリーさんも背中を押します。本当に私の友達は……、自慢の友達ですね!


「私も大人数の移動速度増加に慣れてきたし、ヒールも使ってくね! みんなー! 大ダメージの回復は私が引き受けるから! ステータス上昇(バフ)スキルをバラまいちゃってね!」

「そうですわね。わたしくしは〝踊る〟と致します。普段はそこまで意味はないと思われるので使いませんでしたけど、せっかくですものね。自身の視界に入るプレイヤーのクリティカル率微増の効果があるらしいですわ」

「え? ミナツさんいつ覚えたの?」

「国王陛下から称号をいただいた時ですわ。成果がないなら成果を作れということのようですわね」


 それにしても強すぎませんか? とツッコミを入れたくなります。微増の表記は数値に直すと5%上昇ですが、人数が多いほど効果が大きくなります。対象人数無制限という大盤振る舞いは今回のようなレイドバトルや大人数でのお祭り的なイベントでは恐ろしいほどの貢献度を稼ぎそうで、もしかしたらこの戦闘が終わったら私たちにレベルが追いつく可能性もありえました。


「じゃあ、俺たちも好きに動かせてもらうよ」

「だな! 聖職者になって装備が制限されて役立たずになるのがわかったからよ。装備がなくても使えるようなスキルも新しく取得したからな。試させてもらうぜ」


 そしてアレスさんたちも各々に動き出します。


「それじゃ、第2ラウンドといくのじゃ!」

「うわぁー。カゲミツさんと肩を並べられるのが嬉しいってのがもうひしひしと伝わってくるんだけど」

「まぁまぁ、アユちゃん。それじゃ、メアリーさんのことお願いね」

「りょーかいっ! ラピスちゃん、いってらっしゃい」


 パターン化した狩りもいいですけど、坩堝蜜竜が〝天海の噴火竜〟の特性を引き継いでいた以上どこかでそれは破綻します。なら、最初から臨機応変に対応できるように私たちはそれぞれ長所をいかした戦いを始めたでした。

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