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第76話 栗毛聖女、蜜の坩堝で雑魚処理をして歩く。

 坩堝蜜竜〝ロイヤルゼリードラッゴ〟と戦うために、私は集合時間の1時間前にログインしてエミルさんたちとMSOでの知り合いに挨拶にいきました。


「お久しぶりです。サトウさん、ショウユさん」

「エミルからレイドバトルの連絡があってきてみれば、栗毛の聖女様じゃないか」

「よっ! 元気してたか?」


 お二人はギルド〝商攻快〟に所属する男性のプレイヤーで、商算のサトウ、料理斬のショウユ。サトウさんは真っ白なロン毛のいかにもな白衣を着た道具を投げて戦うアルケミスト(錬金術師)で、ショウユさんは対照的な短髪の黒髪で黒色のコートを身に纏ったエンチャンター(付与術師)です。彼らの名は生産職系戦闘プレイヤーの中でも新マップ最前線で活躍されているため有名です。私も何度かパーティーを組んだことがありました。


「はい。今日はレイドバトルに来てくれてありがとうございます。GFOからのイベントでこちらに来ている聖職者集団で、大半が移動速度増加しかかけれませんが、タイミング(腕)は私が保証します。そちらのパーティーメンバーの方は緊急回避用の移動速度増加後の立て直しに備えてもらえれば安定するかなって思います」

「そうかい? ならそのように伝えておくよ」

「アイテム関係は任せな! 〝商攻快〟が安く提供してやるぜ?」

「金はとるんだね。まったく、〝第六天明王〟の貯蓄が減っちまうよ」

「エミルさん、私のコンバート時に残したお金を使ってください。それくらいなら全然足りると思いますよ」


 とりあえず、〝ロイヤルゼリードラッゴ〟を倒すために私たちは動きの確認をして、雑魚処理もこなしながら〝蜜の坩堝(狩場)〟を回ります。


「そういえば〝Night of メアリー〟の方はいつも通りですか?」

「ああ、あいつらはボス狩り集団だからね。レイドバトルだろうが《《いつもと同じ》》でボス戦を勝手にやるだけだよ。まぁ、火力に関しては申し分ないし礼儀も常識もあるからいいんだけどね」

「あはは……、雑談もプリアちゃんとは馬が合うけど、私たちとは少しベクトルが違うからね」


 ハギャアアアアアアッ! アァァ⋯⋯


「この程度のモンスターなら相手にならないんだけど……、相手は1,000体のモンスターを濃縮した坩堝種だし、ほっておいて経験値を稼がれると厄介だよね」

「すぐにこの世界を離れるあんたには関係ない……と言いたいところだけど、そこを気にするあたりが我らの栗毛の聖女様だね」


 うっそうとした茂みから現れる〝ハニードラッゴ〟を狩りながら私たちは他のモンスターも探します。


 ジャラジャラジャラジャラ……


「この音は〝メタルヘヴィスネーク(希少鋼重蛇)〟か。面倒なレアモンスターも沸いていたもんだね」

「〝狂酸老いる(強酸オイル)〟あるけど使うか?」

「ありがたく使わせてもらうよ。あとで私が個人的に払うから覚えておいてもらえるかい?」

「了解した。レアアイテムがドロップしたらそっちで勝手に清算しておいてくれ」

「言葉で聞いている分には普通のアイテムなんだよね」


 久しぶりに聞いたひどいネーミングセンスの生産職が生み出したアイテムを私たちは受け取ります。


「まぁ、面白がって当て字にアイテム名を変えるってのは生産職のポピュラーな遊び方だからな」

「だな! 俺たちの生産アイテムは調味料だからお前らには関係ないけどよ」


 サトウさんもショウユさんも笑っています。そのまま二人は新作アイテムの話に花を咲かせていました。本当にそういう何かを作って遊ぶのが好きなんでしょうね。


『ジャアアアアアアッ!』


「当たんないだろうけど……、一発そのまま殴ってみるかね。〝グランドプレッシャー(聖十字圧)ッ!〟」


 エミルさんは命中率の高い聖剣スキルを発動して剣を横にして振り上げ、叩きつけました。その攻撃は蛇の頭にクリティカルヒットし、ガキーンッ!という音が鳴り響いてダメージが入ります。


『タタタタッ!』


「あ、逃げた」

「ま、メタル系のレアモンスターなんてそんなもんさ。アイテムを使う間もなく逃げられちまったよ。あはは」


 独特の逃げる時の擬音を残してメタルヘヴィスネークは地面に潜っていきましたが、エミルさんは笑っています。それを見て私もサトウさんも、ショウユさんも全員で笑ってしまいました。


「お、運がいいな。何か落としてるぜ? そこの地面、膨らんでるだろ」


 すると、ショウユさんが地面の変化に気付いて、言われた場所の地面の砂を少し払うと銀色の箱が出てきました。


「あ、落とし物は銀箱だね。そこそこのアイテムが出るといいね」

「地面で埋まってたってことは《《出た》》んじゃね?」

「ショウユ、女の子がいる場で言う発言じゃないよ」


 私はそのアイテムを拾い上げると、埋まっていたこともありショウユさんがちょっとデリカシーのない発言をしてサトウさんに怒られていました。


「ラピス、開けてもいいよ。金箱以上じゃなけりゃ私には不要だからね」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。えいっ!」


 箱の中身は卵でした。


「《《産んだ》》のかな」

「ラピス……、ショウユにノってあげなくてもいいからね?」

「サトウ、ごめんな。俺が悪かった……」


 わかればいいんだよ。と、皆が微妙な空気になっています。私が何かを言ったときにたまにあるんですよね……。そういうのが。


「エミルさん、この卵って支援系のペットが生まれる柄だよね? 私がもらってもいい?」

「いいけど、アイテム扱いだからGFOには持っていけないんじゃいかい?」


 私は頷き、卵をどうするのかをエミルさんたちに話しました。


「へぇ~、面白いやつがいたもんだ。なぁサトウ、ちょっとペット強化用の専用装備も作って一緒に箱詰めしてやろうぜ」

「乗った! 生産職として腕の見せ所だな!」

「あ、お金はどうすれば……」

「好きでやることだ。聖女様は気にすんな!」


 二人の勢いに押されて私のプレゼントはとんでもなくお金のかかったものになる予感がしましたが、ありがたく好意を受け取ることにしました。


「喜んでくれるといいな……」

「心配はいらないよ。プレゼントを渡されて喜ばない男なんていないし、それが可愛い女の子からならなおさらさ」


 こうして、私はある人へのプレゼントを手に入れました。


「おっそい! どうせサトウとショウユがくだらないことでダラダラと話し込みながら歩いていたんでしょ!」


 集合地点に戻るとミリンさんがプンプンとした態度で私たちを待っていました。


「わりぃー。ラピスちゃんが可愛くてついついミリンのこと忘れてたわ」

「もうっ! まぁ、ラピスちゃんがいるならしょーがないってことにしておいてあげるけど」


 ミリンさんは黄色の髪をポニーテールにした聖女のお姉さんで、私に憧れて聖女まで上り詰めた聖職者さんです。主に強化系スキル(バフ)に特化したスキル振りで、彼女による支援魔法のステータス上昇値はMSOの中でもトップクラスだと私は思っています。


「あはは……。それよりみんな揃ってる?」

「ばっちし! てか、ラピスちゃん。私たちを置いて先に遊んでいるなんて! しくしく」


 アユちゃんが泣き真似をして少し抗議をしますけど、昔馴染みと少し歩きたい時って誰でもあると思うのでごめんごめんと軽めに謝ってこの件は終わらせてもらいました。


「で、始めるのか?」

「あ、メアリーさん。こんばんわ」

「で、初めていいのか?」

「はい。 ―――皆さん、今日はよろしくお願いします!」


 私が頭を軽く下げると、《《気にすんな》》だのぶっきらぼうな優しい言葉たちがすぐさまにかけられます。


「……で、初めていいのか?」

「そのキャラって難儀ですよね……」


 私はメアリーさんがキャラ作りをしているのを初心者時代にパーティーを組んだことがあって知っているので、少しだけ申し訳ない気持ちになり素早く蜜壺を湖に投げました。


 ハニャアアアアアアッ!


 近くで待機していたジャスターさんが飛び出し、それを追ったハニードラッゴが蜜壺に反応して湖に飛び込んでいつものように溶けていきました。


『ロロロロロロォオオオ……』


「くるぞ。構えろ」


 カゲミツさんが槍を構えたのを見て皆が武器を湖に向けて構えます。レイドバトルであえうロイヤルゼリードラッゴ戦が始まります。

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