第75話 栗毛聖女、ギミックボスの選択する。
最初は楽しそうに移動速度増加を〝ハニードラッゴ〟にかけていたアユちゃんも今や無言で魔法をショートカット発動しているだけになっていましたが限界がきました。
「……ラピスちゃん、このさぎょーあきたー!」
「大半の人間は社会に出て同じ仕事を黙々とこなすことを求められるのじゃ―――」
「ミコさんのその話も聞きあきたー!」
かれこれ一週間以上、ずっと同じことの繰り返しをしていれば大半のプレイヤーはいくら効率が良い狩りでも精神力が持ちません。いえ、逆にそれができることでレベルや装備、プレイヤースキルが極端に鍛えられたプレイヤーが廃人と呼ばれるトッププレイヤーたちでもあるのですけど。
「ほら、アユちゃん。もうちょっとで41レベルだよ! 頑張ろうよ!」
「こら、ラピス! 全員が私やあんたみたいな廃人じゃないんだ。エンジョイ勢って呼ばれる一般プレイヤーがほとんどなんだからそろそろ狩場を変えてもいいんじゃないか?」
――――――
初めて3日ほどは皆が元気でした。レベルも毎日上がってホクホクですし楽しくわいわいやっていました。5日が経過し、ミコさんやアレスさん、ハナさんの大人組と、私やプリアちゃん、手伝ってくれているMSO組は長時間労働? に慣れているので黙々とこなします。
「ラピスちゃーん、あきてきたよー」
「そうですわね。いくらレベルが上がるからといっても一日狩りをしても上がらなくなってきましたし、同じ作業をずっとというのはつらいものがありますわ」
「けど、レベルが上がるって実感できてるのなら私は凄く楽しいよ!」
「それはラピスさんだけですわ……」
「私も楽しいけどね!」
アユちゃんとミナツさんがすでに飽き始めていますけど、私は二人を鼓舞します。
「社会に出たらこれくらい普通だからな。単純作業ってヤツも経験しておいていいだろ」
「わっちは違うが、皆がやりたい仕事をできるわけではないからのぅ。カゲミツ殿の言うようにアユもミナツも、そっちで口には出さぬが空気でわかるガイとヒューイもう少しだけ頑張ってみるのじゃ」
ミコさんとカゲミツさんも、これは社会勉強の一環だから経験しておいて損はないと励ましました。
――――――
それでも数日後には限界がきたようです。
「もともと自由人のアユと、普通の学生で初心者のミナツじゃ。よく頑張ったと思うのじゃ」
「そうだね。ごめんなさい。ちょっと無理いいすぎたかも」
どのみち頃合いではあったのですけど、ここで〝ハニードラッゴ〟狩りはお開きになりました。
「っと、終わりか?」
「うん。ジャスターさんもありがとう。移動速度増加っと」
ハニャアアアアアアアアッ!?
ジャスターさん待ちで全員が待機していたので、〝ハニードラッゴ〟の断末魔を最後に緊張を解きます。
「く~~~! 疲れたぜー!」
「ガイって盾してる時のほうが疲れないんだね」
「まぁな。魔法をかけるタイミングまで集中して待ってるのが辛かったな。俺にはやっぱ合わねーわ」
魔法職をしていないガイさんはそんな風に感じていたんだなと、私は改めて人それぞれの遊び方や感じ方を考えます。今回に関しては今更ではありますので、もう私も開き直って弾けてましたけど……。
「ねえ! ラピスちゃん、私たちが《《アタリ》》引いたみたいだよ!」
そんな感想や反省を言い合いながら湖の畔でだべっていると、水面が七色に光り出しました。
「ねぇ、ミナツ。なんかヤバい予感がビンビンで楽しそうなことが起こる気がする!」
「私は全滅する予感しかしませんことよ」
何も知らない二人はああだこうだ言い合ってますが、もうすぐ選択の時が訪れます。
「ラピス。あんたが決めな」
エミルさんからのそれは、これから出現する巨大イベントモンスターを二種類のうちどちらを選択するか。という問いかけでした。
「ねぇ、〝坩堝蜜竜〟か、〝靭湖葛〟のどっちと戦いたい?」
「ラピスよ。雰囲気的にそれはどちらのボスと戦うか? という選択肢じゃろうか」
「そうだね。この〝ハニードラッゴ〟狩りはギミックを用いた裏技的なモノだからね。一定数の〝ハニードラッゴ〟を倒すと、坩堝で融合した〝ロイヤルゼリードラッゴ〟が現れるんだけど、その時の湖の光り方は金色なの」
「では、今はまだ違うのじゃな」
私はギミックについて皆に説明し、投げ込まれたモンスターの種類、匹数により出現するボスが変化することを伝えました。
「この色合いなら〝ハニードラッゴ〟をもう少し倒せば金色に変わりそうだけど、他のモンスターを湖に沈めて倒せば〝ウツボコカズラ〟が目覚めると思う」
モンスターも経験値を取得する世界で、例外的にギミックを利用して倒すことで全ての経験値をプレイヤーが獲得できるのは、それ自体がボスモンスター召喚の鍵になっているからなのです。逆に言えば、ボスモンスターが現れてから同じように倒した場合、ボスモンスターに経験値が分配されます。
「いや、ボス戦で俺たちは戦力外だろ……」
「それをやろうっていうんだ。アレス、あんたたちも予行練習だと思って付き合いな」
全員が参加するのを確認し、私はミナツさんに声をかけます。
「ねえ、ミナツさんはどっちがいいと思う?」
アユちゃんなら絶対に面白いと思った方を選びます。私ならドロップアイテムの良い方を選びます。ミコさんなら強い方だし、プリアちゃんは魔法防御力が低い方を選ぶと思います。それでもどちらを選んでもみんな楽しむと思います。だから、私はミナツさんに聞きました。
「私は⋯⋯、〝ロイヤルゼリードラッゴ〟と戦いたいですわ。だって、私たちは一度もまともに戦っていませんもの。経験値だけいただいてさよならは〝ハニードラッゴ〟に失礼ではありませんこと?」
「あははっ! ミナツっぽくていいね!」
「私もその考え方好き!」
「うむ。よい選択じゃ」
「なら決まりだね」
私たちの話を聞いていたジャスターさんとカゲミツさんはもう姿が見えません。恐らく〝ハニードラッゴ〟を釣りに行ったのでしょう。
「成長してないかと思ったけど、ラピスも成長したね。──────前線組でログインしてる知り合いにメールしておいた。坩堝蜜竜はレイドバトル、最大参加可能パーティ数は3でフルパーティで挑むよ! 明日、20時30分開始で連絡しておいた。リアルは最優先、遅れる分には構わないが楽しみが減るのは覚悟しな!」
エミルさんが段取りをしてくれて色々と準備が進みます。
ハギャアアアアアアッ!
「だな。前衛不足に不足なし! 久しぶりに楽しい戦いになりそうだ」
ハニャアアアアアアッ!?
カゲミツさんが連れてきた〝ハニードラッゴ〟が虹色の湖に沈み、金色の光に変わりました。ジャスターさんの連れてきた最後の1匹は普通に戦ったカゲミツさんの槍で貫かれます。
「強すぎだよ⋯⋯」
ハナさんの言葉に私も同意して今日でこの作業的な狩りは終わりになりました。




