第71話 栗毛聖女、アレスパーティの全滅を知る。
「やっと終わった! とりあえずは聖職者になれたね!」
「いやー、長かったよ〜。主に移動距離が」
「そういいながらアユちゃんは全部の街ではしゃいでたよね」
私たちは観光気分で終えた聖地巡礼についてアレコレ話しながらアレスさんたちが帰ってくるのを待ちます。少し前から様子のおかしかったミコさんが私に話しかけてきました。
「ラピスよ、またカゲミツ殿と手合わせしたいのじゃが」
「カゲミツさんならもうログアウトしたよ?」
「なんじゃと!?」
ミコさんは意を決した表情で私にカゲミツさんとの再戦をセッティングしてほしいと頼んできましたが、フレンド欄からに移る文字は灰色でログアウト状態を示していました。
「ミコさんは相変わらずだね。けど、今は聖職者なんだから槍を装備できないし厳しくないかな?」
「そこはカゲミツ殿も武器なしでフェアにじゃな……」
「カゲミツさんはそういうの嫌いだよ? 前みたいに明らかなステータス差は埋めてくれるけど、出せる全力を求める人だからね。特にミコさんは前に戦っているから」
「……ぬぅ」
ミコさんはすごく凹んでいますけど、あまりの戦闘狂っぷりには皆が苦笑しています。まぁ、次の七夕まで戦えないと思っていたのにまた輝夜世界に来ることができたのでリベンジしていきたい気持ちもわからないでもないですけど。
「ラピスちゃん、そういえば最後に訪れた礼拝堂の裏にあった地下室への入り口っぽいところってどうやって入るの?」
「それはね―――、んー、アユちゃんそのクエストやってみる?」
「うん! それいいね!」
私は地下に何があるかを教えようとして思い止まり、クエストを受けることを勧めました。
「お二人は地下に何があるかをご存じではないのですか?」
「もちろん知ってるよ? けど、どうしても知ることのできないイベントならともかく、今からでも始められるクエストで何があるかを教えるのはゲームへの冒涜だよ。ね、ミナツさんも一緒にやろうよ!」
自分でクエストをこなしてストーリーを進める。知らない誰か、知っている友達と冒険して自分だけの物語を紡いでいく。それがネットゲームで遊ぶことだって思うから。だから、私は―――まだ付き合いの浅いミナツさんと一緒にこのクエストをしたいと思いました。
「ラ、ラピスさんがそうおっしゃるのなら、私もクエストに参加して地下に何があるかを《《一緒に》》確かめましょうか」
「報酬はランダムで何回でも受けられるタイプのクエストだから、私たちも楽しみなクエストなんだよね!」
「ちょっ、ちょっとプリアちゃん! しーっ!」
そんな思いを余所にしてプリアちゃんが報酬だけネタバレしてきましたが、ミナツさんを含めた皆で笑いあえたので、これはこれでよかったのかもしれません。
「それじゃ、明日は|最後に行った礼拝堂の町に戻ってクエスト受けるところからだね。わかってると思うけど、これは寄り道だからね?」
「わかってるよー! 何があるかなー!? 楽しみだねっ、ミ・ナ・ツ!」
「……そうですわね。アユさん、少し含みを感じるのは気のせいかしら?」
「べっつにー?」
この二人のやりとりはいつもの事なので私たちは暖かく見守りながら放置します。
「とりあえず、今日は転職だけの予定だったのじゃし解散でよいな」
「いいよー!」
「ミコさん、アレスさんに明日のクエストの件をメール伝えておいてもらっていい?」
「承知したのじゃ⋯⋯、ん? アレスからメールが届いておったようじゃ」
タアレスさんから届いていたメールを読み進めるミコさんは、表情が次第に険しくなっていきます。
「どしたの? アレスさんたちが先に転職しちゃった?」
「いや⋯⋯、まだ一つ目の町にも辿り着けていないようじゃ」
「「え!?」」
「⋯⋯アレスパーティは全滅を繰り返しておるらしい」
私とプリアちゃんは同時に嫌な予感がして声をあげます。剣士のアレスさんはスキルが使えないので大幅に弱体化するとはいえ、レベルによるHPやSTR、それに防御力はそのままですから素手で素殴りしても時間はかかりますが倒せますし、ヒューイ君もいるので火力は足りていると考えられます。
「真紅に輝く宝石の角が生えたウサギが、【厄災】を纏うというイベントが発生したらしいのじゃ」
「ラピスちゃん! もしかして!」
「〝サギノウン〟だよね⋯⋯。しかも【厄災】の」
「もしかして〝勇者〟の称号持ちのアレスさんが初めて遭遇したモンスターが【厄災】化するイベントだったりして」
アユちゃんの推理は合っているような気がします。国王が適当に付けた称号だと思いましたけど、恐らくはここまでが連続したイベントなのでしょう。
「たぶんだけど、そうかも。この世界にいた私とプリアちゃんだから分かるけど、【厄災】って夜の世界では見た事がないからこの世界のモンスターじゃないと思う」
「ふむ。よくある設定じゃが《《狭間の世界》》という昼と夜の境からの侵略者かのぅ」
「それですわ! わざわざほとんどの武器使用不可の聖職者への転職をするように誘導して、倒せない【厄災】をこの世界のプレイヤーと倒すのです。すると、その設定に行き着くという流れだったに違いないはずですわ」
ミナツさんは聖職者見習いになって私たちと合流する前にエミルさんと特殊な剣士スキルを習得できるクエストを受けにいっていたらしいです。しかし、クエストの受注すら出来なかったようです。
「⋯⋯ミナツさんのいう事は合ってるかも。もしかしたらこのイベント中は聖職者スキル以外のクエストでのスキル習得は出来ないし、元の職業を含めて転職不可かもしれない」
「なん⋯⋯じゃと⋯⋯? それではカゲミツ殿と再戦できぬではないか!」
「ミコさんのキャラが変わりすぎではありません?」
「まあまあ、対人戦が絡む時だけだから気にしないで」
ミコさん、対人戦好きですからね。その辺りはミナツさんに本人から元の世界のお話をそのうちしてあげるように話しすことにします。
「とりあえず、転職の確認。それとエミルさんとアレスさんに連絡して───」
「エミルさんへは私がします! 少々お待ちください」
「アレスにはわっちからじゃな。こやつ、エミル殿が好き過ぎるじゃろ⋯⋯」
「カゲミツ殿、カゲミツ殿と言っている貴女には言われたくありませんわ!」
何かこの二人も似ているなと思いながらもとりあえず、明日にこの町の酒場に集まり情報共有と対策を考えることにして私たちは解散しました。




