第70話 栗毛聖女、〝正拳突き〟の差が出る。
エミルさんと話し込んでいたミナツさんが剣士から聖職者になって合流したので、私たちは東の教会を目指して夜の平野を歩きます。ちなみにアレスさんたちは初めてのマップだし四人で進みたいとのことで目的地は同じですが別行動をしています。
「いや〜、思った以上に距離あるね」
「1マップが広すぎるのじゃ⋯⋯」
アユちゃんとミコさんが月影オンラインのフィールドの広さに驚いでいます。一つの街でクエスト全制覇とかやっていたので私たちは|GOD・F・オンライン《GFO》であまり街から街への移動をしていません。なのでアユちゃんは初めての長距離移動となりますが、ミコさんもそう感じるということは他の世界もGFOと同程度の広さでマップが作られているのでしょう。
「あはは⋯⋯、初期タイトルのゲームの序盤だからね。サービス始まったばかりの頃はここも人で溢れて大変だったんだよ」
「ラピスちゃん! 懐かしいね! ねぇ、〝サギノウン〟って覚えてる?!」
「あのプレイヤーを倒しすぎちゃってレベル上がりすぎて手に負えなくなったウサギだよね?」
このMSOの世界ではモンスターも経験値を獲得します。そのせいでリリース当初、大惨事が起きたのです。
「皆が初心者⋯⋯、倒せない強敵⋯⋯、羨ましいですわ!」
「ミナツさん、あれは災害だったんだよ⋯⋯。っあ、そろそろ〝ツチウサギ〟の生息域だよ」
ポコっ───
『ウッサーっ!』
地面に急に穴が空いて、そこから顔を出したウサギが手に持った槌を振り上げて飛び出してきました。
「───正拳突きッ!」
『ヴォエっ⋯⋯!』
初心者なら5人でのパーティ推奨モンスター〝ツチウサギ〟はレベル30になった私の一撃をお腹に受けて沈みます。それにしても酷い鳴き声です。カニッパーやトロピバードたちを見習っていただきたいです。
「基本的に私たちの敵じゃないけど、ミナツさんは足元に気をつけてね。───もし何か違和感があるウサギを見たら、すぐにアユちゃんに知らせて水縛陣で拘束」
「ラピスさん、違和感というのはどんなですか?」
「パッと見て分からないから直感でかな。どこか普通の〝ツチウサギ〟とは違うはずなんだけど、もしかしたら〝サギノウン〟に進化してるかもだからね」
「わかりました。何か変だと思ったらすぐにアユさんに知らせますね」
ミナツさんは今、正直言って戦力外です。それはレベルだけでなく剣士という職業からの聖職者への転職のせいでもあります。
「聖職者って杖とか本、鉄扇以外のほとんどの武器は装備は出来ないからミコさんとミナツさんは気をつけてね」
「わかったのじゃ」
「ええ、承知しております。剣を装備していないとほとんどの剣士としてのスキルは使えないのでしょ?」
私はミナツさんの言葉に頷きます。ミナツさんが剣士を選んだのはエミルさんが騎士だと私が教えたからです。そして剣術スキル以外に振っていないとも聞いていました。
「ミコさん! 後ろに穴だよ!」
「プリアよ、助かる! ───正拳突きッ! 飛・正拳突きッ!」
『ヴォっ! ヴェっ⋯⋯!』
ミコさんは正拳突きを放ち。モーション終了の型からそのまま飛び技を使い追撃しました。そして倒したツチウサギに目もくれず、自分の拳を見つめて一撃で倒せなかったことについて考えていたようである結論に達したようです。
「もしやラピスの〝正拳突き〟は熟練度補正が高くて威力がおかしいのやもしれぬな」
「それは私も思った! ラピスちゃん、他の武道家は弱いスキルって言って正拳突きを使わないんだよ?!」
プリアちゃん曰く、転職時に取得できる初期スキルでスキルレベルの最大値は1と成長性はないので皆使わないらしいです。たまにネタで戦闘中に使っている人もいたけど全くダメージが出ていなかったとか。
「毎日フワマルに正拳突きを日課にしてたからかな?」
「え⋯⋯、ラピスちゃん私が落ちた後にそんな事してたの?!」
いや、そもそも武道家への転職時にアユちゃんが笑ってたから様になるようにと衝属性耐性持ちのフワマルをサンドバッグにしてたのが始まりだから! という言葉を飲み込み、笑って誤魔化します。
「そういうことかー。スキルレベルがない分、熟練度補正がきっと凄い高いんだよ」
私の〝正拳突き〟は初期スキルで消費MPも少なく、威力もある便利スキルになっていたようです。
「⋯⋯わっちは今更な事に気付いてしまったのじゃが。ラピス、お主は遠距離拳術スキルを〝空波拳〟でなく〝飛・正拳突き〟にした方がダメージが出るのではないかのぅ⋯⋯」
「「「あっ⋯⋯」」」
私とアユちゃん、プリアちゃんも正拳突き派生もダメージが上がる気がしてきて、それに気付かなかったことに落ち込みます。
「逆に言えばミコさんも覚えるスキルを間違えてませんの?」
「⋯⋯そうじゃな」
ミナツさん以外、全員が心にダメージを負いながら私たちは歩きます。この経験は糧にすると全員が誓って。




