第67話 茉実、紅碧毛の少女と踊る。
ホームルームが終わり、皆が慌ただしく教室の片付けと飾り付けを始めるのを私はラピスちゃんと眺めていた。
「やっぱり明日の文化祭、緊張してる?」
「うん。───だけど楽しみだよ? 私、中学行ってなかったから文化祭って初めてだし」
11月、文化の日があるからこの月に行われているらしい文化祭で、私たちのクラスは舞踏会を行う。
「さ、私たちは練習するわよ!」
文化祭実行委員である宮木 奈津美の一言でダンスを踊るメンバーは机がなくなった教室中央に集まった。
「一般参加者とも踊れるように全員がリードできるようになって下さい」
宮木さんのいうリードとはダンスの中の動きだけで次の動作を伝えること。参加希望者には15分程度の練習を行ってもらうが、皆が知っているアニメソングのショート版は短いとは言え89秒あり、一曲分の動きを完璧に覚えるのは難しい。なので押されたら後ろへ下がり、引かれたら前へ出る。回されたら2回転とその辺りを事前に参加者に伝えておくことでスムーズに動きが移行していけるように練習している。
「じゃ、今日は最後の練習日だから一曲ごとにペア交代で四曲、間の休憩は15分で本番と同じように」
「「「はーい」」」
すぐさまに男女入り乱れたペアが次々と作られていく中、私はラピスちゃんといつものように最初にペアを組みます。
「じゃあ、いつものように私が男性役やるから今日はラピスちゃんがリードしてね」
私が言い終わると同時に曲が流れ始めたので、ラピスちゃんは頷いて左に体重を移動させたのを肩甲骨に回した左手で感じすぐさまに左へとステップを踏み、ラピスちゃんと並行移動します。
「こないだグランサバスで開かれた舞踏会への参加説明会凄かったよねー」
「うん。豪華絢爛でこれぞって感じだったよ。それに 6組も集まったんだね」
最初はぎこちなかった動きもダンスに慣れてきて、今では私たちのペアはクラス内で一二を争うほどに注目を浴びてました。
「けどさ、さすがラピスちゃんだよ。ゲームの舞踏会のために文化祭を踊りたいなんて」
「あはは⋯⋯。あ、そういえば言い忘れてた! 出し物の提案を代わりにしてくれてありがとう」
事の始まりは|GOD・F・オンライン《GFO》でグランサバス王国のクエストを恐らく全制覇したであろうタイミングでした。
──────
「速報! 来月の舞踏会に一般参加者枠が設けられるぞ! 城内に入れる数少ないイベントだ! 詳細はこの新聞を読んでくれ! 一部 10,000G、限定5部だ!」
「たけーよ! 10分の1の1,000Gならしょーがねーから買ってやる!」
「なら私が先に貰うわね」
「わっちにも一部頼む」
その情報の出所は先行組がもたらした新聞だった。なんでもグランサバス王国に属する地方の辺境伯が舞踏会の開かれる王城への護衛を雇い、雑談の中で一般参加枠の存在を漏らしたそうだ。
「ミコさん、これって国王に謁見するチャンスじゃないかな?」
「じゃのぅ。しかし、舞踏会に招かれるのは 2組だけとは⋯⋯。今、新聞を買った人らはライバルじゃが、他の街でも同様にふっかけておるのじゃろうな」
「ミコさんが踊れば楽勝だね! さ、ラピスちゃん、私の手を取って踊ろっか」
なかなかの狭き門ですがミコさんがいれば余裕な気がしたので、いつものようにラピスちゃんにふざけていると、最後までミコさんと読んでいたプリアが何かに気付いて「「あっ」」と声をあげます。
「んー、二人してどうしたの?」
嫌な予感を感じながらも私は理由を尋ねます。
「"二人一組でのダンスを12人のフルパーティで行い、総合点を競うものとする"って書いてあるんだけど⋯⋯」
「えっと、このゲームって確か最大パーティ人数は12人だよね?」
「アユちゃん、混乱しすぎだよ? 募集文にもちゃんと12人って書いてあるからね?」
そうだけど! そうじゃない!!
「私たち 4人パーティじゃん!?」
「そうだねー」
プリアちゃんが肯定します。
「アレスさんたちが来てくれても 8人だよ!?」
「じゃな。ガイとヒューイは最近リアルが忙しいらしいのも追加じゃ」
ミコさんが人手不足に追撃します。
「私たち他に知り合いなんて⋯⋯」
「ナツキさんくらいしかいないね」
セピアさん=ナツキさん=森永先生が頭の中で成立し、私はすぐさまメールを飛ばします。
[先生、私たち困ってます! 誰か踊れる人を紹介してください!]
セピアさんは"懐色"というギルドのギルドマスターをしているので顔は広いはず。期待を込めて送ったメールは残酷な返信で返ってきた。
[すまん。俺のギルドのメンバーも新聞をさっき買ってな。ギルドメンバーから参加者集めて12人パーティ組むことになったから協力してやれん]
⋯⋯マジかー。
「どうじゃった?」
「セピアさんならこういうイベント好きだよね」
「私もそう思う!」
古くから付き合いがあるラピスちゃんとプリアちゃんは来てくれると信じてる感じだけど⋯⋯。メールした私が言わないとダメかー。
「セピアさん、自分とこのギルドメンバーたちとパーティ組んで別で出るから無理だってー」
それを聞いた二人は、そう言えばギルドマスターだったね、と笑い合ってます。私たちの窮地より楽しそうに遊んでる旧知の方がいいって、この子たちも優しいなと感じました。
[代わりに一人だけだが紹介しよう。なーに、身元は俺が保証してやるよ]
そして⋯⋯、"ミナツ"こと宮木 奈津美が私たちのパーティに合流した。
「それでしたら踊れる方を増やせば余裕ですわね!」
彼女の一言が私たちを社交場への駆り立てた。世はまさに大舞踏時代⋯⋯ってなるかー! と、思ったのだけれど。
「私たちの学校、文化祭が近いでしょ? 出し物で舞踏会をすればそれなりの練習をできるのではなくて?」
「実行委員がそんなでいいの?」
「いいのよ。だって私たちのクラスにはとびっきりの"華"があるじゃない。見てみたいのよ、綺麗な紅碧色の髪を持つ貴女が踊る姿を」
宮木さんもラピスちゃんを輝かせたいんだ。夏にずっと水泳の練習をしていてそこらの女子生徒よりも引きこもりだったラピスちゃんの方が今では体力もあるし、踊るのも大丈夫だと思う。
「いいこと言うねー。ミ・ナ・ツ」
「そういうところだけが私は貴女が苦手よ。アユさん」
「けど、ラピスちゃん次第かなー」
確かにパーティメンバー全員でダンスの合計得点を競うなら平均点の底上げするにはいいアイデアだと思う。けど、ラピスちゃんの意思は尊重すべきだ。
「私、踊るよ。二人の期待に応えたいし、⋯⋯ここまで進めたメインクエストの続きも気になるから」
「あははっ! ラピスちゃんらしい」
「だよね! 私もミコさんと練習するから! ラピスちゃん負けないよー!」
「しょうがないのぅ。プリアよ、覚悟しておれ」
「決まり、ですわね」
アレスさんに連絡したら四人とも参加できるという返事が貰えた。残る三人は⋯⋯ 速報を受け取り、パーティ集めを始めたばかりのライバルの一人とその仲間を取り込んだ。
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そして、リアルとネットでの練習を積み重ねて文化祭を迎えた。
「「「「「お疲れ様ー!」」」」」
結果はもちろん大成功。そして私たちはゲーム内でも舞踏会への参加券を獲得し、王と直に話す機会が設けられた。




