第63話 栗毛武道家、【厄災】トロピドラゴンと戦う④
『ふわぁ〜』
ミコさんの呼びかけに応えて、何とも気の抜けた鳴き声と共にフワマリがフワフワと空の彼方からこちらに向かってきます。
「⋯⋯うそ、ほんとに来たよ! これってまだ誰も知らないんじゃないかな!? 掲示板に書き込んでもいい?」
『ピタァアアアアッ!』
「まずは戦闘に集中せい! 終わってからなら好きにしてもよいのじゃ!」
興奮気味にハナさんが掲示板を開いてウズウズしていますが、その間にも容赦なく炎のブレスが地上に降り注ぎます。そこでミコさんに目配せすると叱責が飛んできました。
「やった! 私頑張る! えへへー、実は私って動画配信もやってるんだ〜。この情報で万バズ確実だよね!」
「⋯⋯好きにせい」
サラッと掲示板への書き込みが動画配信に置き換わっていますが好きにしていいとミコさんは言った手前、呆れた顔をしていましたが、すぐにこの話題を頭から消し去ります。
「フワマリ! わっちらをあやつの元へ運ぶの───」
「ミコさん待って! あれっ!」
トロピドラゴンのターゲットが誰でもない気がしてよくよく見ると、トロピドラゴンはこちらを無視しフワマリの方を見ているのに気がづきました。近くまでたどり着いたフワマリにミコさんが指示するのを私は慌てて止め、それを伝えるためにフワマリたちのいる空を指差します。
『ピ! ピタァアアアアッ!』
『ふわわ〜。ふわふわふわわ〜〜〜』
フワマリに気づいたトロピドラゴンは撃ち落とそうと足と嘴を使って空中で近接戦を仕掛けます。対するフワマリも暴風の吐息を吐くことで動くたびに体力を大きく消耗させる環境と、風船型モンスター特有の風がある時に発動する回避能力によりフワフワと躱しながらトロピドラゴンの疲労を蓄積させていきます。壮絶な戦いを始めたフワマリとトロピドラゴンの二匹はお互いに決定打を与えられず戦いが続きます。
「元厄災のフワマリなら戦闘能力高くてもおかしくないよね!」
「そうだけどー、私たち無視してイベントバトルになってない?」
プリアちゃんとアユちゃんも戦闘中だと忘れるほど気が抜けていますが、炎のブレスも今や地上に降り注ぐこともなく、平和な時間が訪れていました。
「みんな。HPやMPの回復は済んだな?」
「おうよ!」
「はい!」
アレスさんは炎のブレスで疲弊した人たちが回復したのを確認して声をかけます。
「全回復したのはいいけど、これからどうするんですか?」
「だよねー。私たちって今や蚊帳の外だし」
それを聞いたヒューイ君とアユちゃんが策なんかあるのか? といった表情を浮かべていました。
「フワマリと戦い始めてから高度が落ちている。そろそろ戦闘態勢に戻った方がいい」
「そのようじゃな」
私も気付いていましたが、まだ時間的に猶予はあるかなと思って気を緩めて見ていました。しかし、アレスさんの言うように落ちた時に慌てるより今からの方がパーティとして連携が取れるので全員が気を引き締めるこのタイミングに私も合わせることにしました。
『タヤァアアアアーーー!』
「落ちてきたぞ!」
「いくぞ!」
「全力で攻撃じゃ!」
その時は突然訪れました。ガイさんが叫び奇襲に備えて後衛の前で立ちはだかり、私たちは二人の掛け声でトロピドラゴンに殺到します。
「逆鱗は左翼の付け根だからね!」
後ろからプリアちゃをの声が聞こえて私は頭を小さく下げて頷きで返します。
「大丈夫。覚えているけど、私は⋯⋯詠唱省略ッ! ───移動速度増加ッ!」
まずは間合いを詰めて魔法詠唱に入る動作を見せたアユちゃんに詠唱省略、そのまま走りながら移動速度増加をミコさんに掛けます。アレスさんには既にヒューイ君の風の助勢が掛かっており一足先にトロピドラゴンに到達しました。
「名前が赤い!? 全力で打ち込んで離脱する!」
フワマリとの戦闘と墜落、炎のブレスの自傷ダメージによりトロピドラゴンはHPを減らしていたようで発狂モードの20%を切っていたのに私たちは接近してから気付きました。
「氷神の加護、解放ッ! ───神明斬ッ!」
アレスさんは氷上線の世界から引き継いできた加護を解放し、氷属性を乗せた強力な一太刀で逆鱗を砕きます。
「"加護解放"すると再使用可能時間までの間にスキルが一度しか使えないからな。⋯⋯ガイにハナ、それにヒューイ後は頼んだぜ」
そう言ってアレスさんはトロピドラゴンに張り付いてひたすら通常攻撃による斬撃を重ねていきます。
「プリアちゃん! 詠唱省略ッ!」
「───略! 信仰の力にて陽光を集め玉と為す。───下級極大消滅魔法・陽光消滅玉ッ!」
アレスさんの一撃は強力で目に見えてトロピドラゴンのHPゲージを削りました。プリアちゃんの極滅魔法で残りを削れると思い私たちは最短で追撃します。
『ピタヤァアアアア!』
「あ、ダメ! ───放水ッ!」
アユちゃんの水属性魔法が間に合い、炎のブレスを相殺します。プリアちゃんの極滅魔法がヒットしましたが【厄災】が再び体の中に潜り込み、体も燃え始めているせいで決めきれなかったようです。
「モードチェンジが早くなって弱点も動きも厄介だね、っと!」
私たちはアレスさんとプリアちゃんがスキルを使えず戦力ダウンしたため、一度建て直しを図りますが今度は体当たりしてきました。
「アユは炎のブレスへの対処、ハナとヒューイは前衛支援⋯⋯」
「ミコさんちょっと待って。ヒューイ君には攻撃をお願いしたいんだけど」
「なぜじゃ? 風魔法は炎には効かぬぞ」
私はアユちゃんが炎のブレスへの対処の合間にヒューイ君の魔法に聖属性を付与する戦法を提案しました。
「アユよ、できるか?」
「よゆー! ミコさん、私がどんなけこのスキルを使ってきたと思ってるの」
他人にスキルを付与するのはタイミングがシビアで、かなりの難易度のはずですがアユちゃんは出来る自信があるようです。まあ、私もアユちゃんなら出来ると思って提案したのですが。
「ではヒューイはここからは攻撃で頼むのじゃ!」
「わかりました⋯⋯やった!」
その言葉を聞いて凄く嬉しそうなヒューイ君を見て、私は提案して良かったと感じました。
「ね、ラピスちゃんはヒューイ君がボス戦で全力を出せずにつまらないのが嫌だったんだよね」
「ただの結果だよ。私は効率厨だったからそう思っただけ」
アユちゃんが私の思いに気付いてますが私は恥ずかしいので誤魔化しました。
「風よ、地を駆け敵を切り裂け! ───疾風刃ッ!」
「───ホーリーアドオンッ!」
ヒューイ君の聖属性化した疾風刃は確実にトロピドラゴンのHPを削っていきます。
『ピッピタヤ〜〜〜』
かなりダメージを与えたと思いますが、聞いたことのない鳴き声をあげたので私たちは警戒します。
「きっと最後の切り札だね」
「何が出るかな? 何が出るかな?」
私がそれっぽく言うとアユちゃんが楽しそうにジェスチャーを交えて何が出るかな?とノってきました。
『ピッ』
『ピャ』
『ピタ』
トロピドラゴンの鳴き声が重複して聞こえてきたあと、鱗が剥がれて、それが小さなトロピドラゴンたちになって私たちを襲います。
「ヒューイ君! 今使える最強魔法をお願い!」
鱗の皮が剥がれたトロピドラゴンは真っ黒な【厄災】の果実となったドラゴンフルーツでした。私はトドメを刺すために動きます。
「ヒューイ君! 詠唱省略ッ!」
「───略! 吹き荒べ風! 全てを巻き込み閉じ込める、嵐となりけり! ───大範囲風魔法・暴風秘箱ッ!」
「───ホーリーアドオンッ!」
その風箱の中は疾風刃が縦横無尽に飛び交い、飛ばされた中に閉じ込めたモノ同士がぶつかり合い、さながら地獄と化していました。
『ピ⋯⋯タ⋯⋯ヤ⋯⋯』
暴風秘箱の効果時間が終わった時にはトロピドラゴンの姿はなく、地中に潜っていったと思われる大穴が空いていました。
「───放水ッ! ───ホーリーアドオンッ!」
『ピタァアアアーーーヤッ!』
アユちゃんが穴に放水し聖属性のプールにします。トロピドラゴンの断末魔と共に私たちのシステム画面には討伐完了の文字が踊り、周りにはチビトロピドラゴンのドロップと思われるドラゴンフルーツのスムージーが大量に落ちていました。
「勝ったー!!!」
一番はしゃいでいるのはハナさんですが、私たち全員がやり切った感があり最高の勝利です。
「今回はアユちゃんがMVPだよね! それじゃいつものお願いね!」
プリアちゃんの言葉に誰を異論はなく、アユちゃんが前に出てピースをみんなに見えるように作りました。
「トロピドラゴン戦と私たちの勝利だよっ! Vッ!」
「Vッ!」
「Vじゃな」
「Vッ!」
「Vッ!」
「Vです」
「Vだぜ!」
「Vッ! やった!」




