第58話 栗毛武道家、二人の中を取り持つ。
道中、アユちゃんとガイさんは微妙な空気でしたけど戦闘は難なくこなして巣が見えてきました。
「ねえ。アユちゃんはさ、私のためにああ言ってくれたんだよね?」
「んー。そうなんだけど、感情的になってガイさんに当たったらさ、なんか違う気がしてきて謝るタイミングを見失ったというか、なんて表現していいかわかんなくなったんだよね」
私が話しかけるとアユちゃんは私の伝えたいことはわかっているようでした。
「それはさ、その気持ちが答えだと思うよ」
「ちょっとラピスちゃんの言ってる意味がわかんない。どういうこと?」
アユちゃんは元々ゲームが好きでした。けどオンラインゲームは初めてと言っていたので、それは家庭用の一人用、もしくは横に一緒にプレイする人がいる状態での遊び方だったと思います。ゲームとリアルが完全に分かれて、だから余計にわからなくなっているように感じました。
「今のそのモヤモヤした感じってさ、ゲームだからじゃないでしょ?」
「うん。……あっ」
アユちゃんは引き篭もっていた私がリアルを頑張っているという前提でオンラインゲームを見ているせいでゲームの世界に逃げるという固定概念が生まれてしまっています。まあ、実際に最初はオンラインゲームに現実逃避していたわけですけど。
「そう。それってさ、ガイさんの言ってた現実でありゲームであるってことじゃないかな?」
誰かと衝突して、自分の行動を振り返って、非があれば素直に謝る。リアルは逃げ場がないから、ずっと気まずくて出来ることもネットだとそれでサヨナラも簡単に出来てしまいます。
「ありがとう! ちゃんと謝ってくるよ」
「頑張ってね」
アユちゃんの背中を見送っているとプリアちゃんがいつの間にか隣にいました。
「私もMSOでギルドメンバーとぶつかった時にラピスちゃん、同じように言ってくれたよね!」
「そうだったかな?」
「うん! "ラウルさん、ここにいるキャラクターはリアルにいる相手なんだよ。確かにゲームだけど、ゲームなんだから遊び方も人それぞれでいいんじゃないかな? ───だけどね、せっかくのパーティプレイなんだからプリアちゃんも合わせてみない?" って!」
記憶を辿ると⋯⋯確かに言いましたね。火力特化、オーバーキルは当たり前、大魔法しか使わないプリアちゃんとバランス良くパーティプレイをしている、悪く言えば器用貧乏なラウルさんたちはぶつかりました。
「ラウルさんたちの戦い方って攻撃と防御をお互いに隙を補う感じだったからね。モンスターのHPもそれなりに削ったところにHP満タンから一発で倒せる威力の魔法を撃つよりも発動の速い半分の威力の魔法の方がラウルさんたちの負荷も私の負担も減るんだよ」
第六天明王のギルド内では基本的に仲の良く、時間の合う固定パーティになりがちで、難しいクエストや人手不足の時には応援という形で別パーティとプレイする形をとっていました。
「それはラピスちゃんを追ってこの世界で野良パーティした時にすっごく痛感しました! 聖職者で薬草娘やってるとね、みんなの動きがよく見えてね、ラピスの言ってた遊び方も人それぞれでいいってセリフと聖女のラピスちゃんに私は救われていたんだなって思ったよ!」
他人の苦労はその立場にならないとわからないと私は思います。そして、実際にはその他人になることは出来ず、それでも動きやすいようにするのが聖女の仕事だと私は思って遊んできたのをプリアちゃんがわかってくれて嬉しくなりました。
「プリアちゃん、ありがとう」
「なんでラピスちゃんがお礼を言うの!? 私こそありがとう!」
私の気持ちは茉実ちゃんにも届いたでしょうか?
「アユちゃん、それがアユちゃんが言ってたVRゲームを現実として受け止めるってことだよ」
リアルに持ち帰るのはゲーム内の経験です。なら、そのためにゲームだけど現実として経験を積む必要があります。それも人と人との付き合い方をです。
「アユちゃんも大丈夫だよ! ちゃんと届いたから!」
前に伝えた友達が横で笑ってます。もう一人の友達もきっと大丈夫ですね。
「ラピスちゃん! ガイさんに謝ってこれたよ! ありがとう!」
プリアちゃんのような感じになってアユちゃんが私に報告してきました。頭をかきながら振り返ったガイさんと目が合います。
「これからもよろしくお願いします」
ネット上での人との繋がりは糸のようなもので、せっかく繋いだのに小さな傷でも放置すれば簡単に切れてしまいます。そんな関係でも月日と思い出が糸を太くし、様々な人と新たな繋がりをその人から繋いでもらえます。
「ああ、よろしくな。それと、これで貸し借りはなしな」
私の水泳の練習に付き合ってくれたお礼として受け取られたようです。
「じゃ、突撃! さ、行って、ガイさん」
アユちゃんが元気よく音頭をとります。無事に仲直りでき、もう蟠りはないようです。




