第55話 栗毛武道家、西瓜を叩き割る。
砂浜から地中を通って海へと消えたスイカニッパー、次の行動は十中八九と言って差し障りない確率で津波攻撃だと私たちは予想しました。
「みんな、水着に着替えて!」
いつもの戦闘用防具より防御力など大きく劣る趣味装備の領域である"水着"に私の指示で急いで切り替えます。
「フワマリンネの時の新風の証と同じかも! 特定のアイテムで能力低下にならない気がするの!」
「たしかに行動不能、もしくは行動制限はありゆるのぅ」
あの時は突風によるノックバックを防ぐ効果がありました。そして、バッジはフワマリンネのヒントをくれた町長さんがくれたのです。今回は防具屋の先代が水着と西瓜型トロピバードの情報をくれていたので可能性は高いと思いました。
「来よったぞ!」
スイカニッパーが波乗りをしながら私たちの方へ突っ込んできました。
「いや、避けれないから!?」
アユちゃんが文句を言うほど理不尽な波は高さ10mを超えていて、私たちを軽く飲み込みます。
「わー────」
「あは ────」
私たちの叫び声は波にかき消されました。
「みなさん動けますか!?」
波が落ち着いた後にプリアちゃんの声が聞こえたのでそちらを見ると、全員が少し離された状態で浮かんでいるのがわかりました。
「正解だったかな? 少しHP減ってる分は各自回復アイテムでお願い!」
大技のようでしたが大ダメージは無事に回避出来たようです。姿の見えないスイカニッパーに注意し、単体回復しか出来ないプリアちゃんの負担を軽減すべくアイテムで減った分のHPを回復させます。
「しかし、浅瀬とはいえ水中戦とはのぅ」
私は足をゆっくりとバタつかせてなんとか体勢を維持していますが、慣れていないため正直言って辛いです。
「ねぇ、フワマリって呼べないかな?」
「アユちゃん、ここは戦闘用の専用フィールドだよ? 呼べるわけ⋯⋯」
『フワァ〜〜〜』
「⋯⋯⋯⋯呼べたのじゃが」
私たちはフワマリンネのフワマリに久しぶりに乗り、空からスイカニッパーを探します。
「もしかしてさ、トロピバードの巣でも同じことできたりしない?」
「⋯⋯言うでない」
試していないだけで呼べそうな気がして微妙な空気になりました。
「あっ! 出てきたよ! ────空波拳ッ!」
私は頭だけを海面に出したスイカニッパーへ攻撃を仕掛けます。
『ガニィイイ』
しかし、攻撃が当たるとすぐに海中へと頭を沈められ、追撃は出来ませんでした。
「膠着じゃな。恐らくは空中からのハメ防止が働いて水中戦でなければ戦えんのじゃろう」
「水面に少し出てるあの西瓜の体も硬いしね〜。水中にいられると私の水属性魔法って拡散してダメージ出ないんだよね」
私はアユちゃんの言葉に引っかかりを感じました。
「西瓜⋯⋯、水着、鹿木氷の棒」
「スイカ割りでも出来そうなワードだよね!」
「プリアちゃん! それだよ!」
「とりあえず、動きを止めるねー。────水縛陣ッ!」
アユちゃんが拘束スキルを発動するとスイカニッパーの周辺の海水の動きが波も含めて停止します。指定範囲の水中のあらゆる動作を停止させる魔法、その効果が効いているのを確認してから私たちは"水着"に"鹿木氷の棒(槍)"を手にしてスイカニッパーの背中に降り立ちます。
「「「「せーのっ!!!」」」」
四人が各々に"鹿木氷の棒"を叩きつけます。
「魔法職しか! したことなかったけど! 叩くの楽しいね!」
「私も私も〜!」
プリアちゃんとアユちゃんも普段は行わない物理攻撃を楽しんでいるようで、手が止まることなく西瓜を叩きます。
『ガニィイイッ! ズイガニィイイッ!!』
スイカニッパーの悲鳴が聞こえますが無視して私たちは叩き続けます。
「アユちゃん! この武器凄いね!」
「ねっ!」
高い氷属性値を有する"鹿木氷の棒"は、筋力にステータスを振っていない魔法職で通常攻撃ダメージはほぼ入らないというデメリットが気にならないほどの属性ダメージを叩き出して、二人も火力に貢献していました。
「そろそろ重ねがけいるかな? ────水縛陣ッ!」
何故ハメ状態になっているかと言うと、アユちゃんの拘束スキル"水縛陣"は本来なら水で覆える部位の硬直が精一杯で、水属性魔法に拘束効果を乗せる使い方をします。しかし、ここは水中なので最大範囲の拘束が可能となっていること。また、海という特殊なフィールドのため、効果時間が"海龍神の加護"によって延長されているからのようです。
「名前が赤くなったが動かぬし、このまま押し切るぞ!」
本来なら、最後の発狂モードがあると思われますが、私たちはそのまま叩き続けます。
ピシッ!
「ヒビが入ったよ!」
「あっ、拘束が⋯⋯」
あくまで通常攻撃で叩いていたのでそれなりの時間が経過して水位が下がり、アユちゃんの拘束が解除されました。
「もう一息じゃし、正攻法でいくの───じゃ!?」
「⋯⋯慈悲なき慈悲、光こそ無への誘い───」
『スッ、スッ、スッススススス───ッ!』
プリアちゃんが極大消滅魔法の詠唱に入り、ここで決めようとすると同時にスイカニッパーも鋏の翼を大きく広げて回転を初めて徐々にスピードを上げていきます。
「────水の壁となり」
スイカニッパーから同じくらいの距離を取ったアユちゃんが魔法詠唱に入っているのを横目で見て、私も構えます。
「押し潰せっ! ウォーターブロックッ! ホーリーアドオンッ!」
「───空波拳ッ!」
私とアユちゃんは最後のダメ押し、万が一にもプリアちゃんが削りきれない可能性を減らすために少しでもダメージを与えておきます。
『スススススススススッ』
「ええいっ! 必ず決めるのじゃぞ! ─── 刺突・推飛ッ!」
「全精神力を糧とし、信仰の力にて陽光を集め玉と為す」
『ガニィッ!?』
その間にもスイカニッパーは高速回転をしながら私たちの方へと向かって来ますが、それを止める為にミコさんは水着からいつもの戦闘装備に着替えて突撃し、少なくないダメージを受けながら後退効果によってプリアちゃんから引き離しました。
「───下級極大消滅魔法・陽光消滅玉ッ!」
プリアちゃんの魔法が発動し、空に浮かんだ巨大な光の玉がスイカニッパーへと目掛けて落ちていきます。
「あ、ダメかも! ラピスちゃん! コレあげるから決めてきて!」
【プリアから"夜会のドレス"、"千夜のティアラ"、"小夜のオペラグローブ"、"一夜のガラス靴"、"夜来の灯火"を受け取りました。】
私は渡された装備に見覚えがあり、"水着"や転職時から愛用している"初心者用道着"よりも防御力が高いのを確認してから"全職業装備可"な月影オンライン最高防御力の防具セットを装備しました。
「プリアちゃん、ありがとう!」
それは恐らくプリアちゃんがこの世界にコンバートする時に持ち込んだ装備で、火力厨のプリアちゃんがわざわざ防御性能しか上がらず全職業装備可である"夜会"のドレス一式を持ってきた理由は私のためとしか考えられなくて胸が締め付けられました。
『スイィィィイ⋯⋯カッ! カッ! カッ! スィーーーー⋯⋯カカカカカカカカッ!』
プリアちゃんの攻撃で回転を止めたスイカニッパーは再び西瓜の種を口から吐き出してきましたが、発狂モードのせいで先ほどよりも打ち出す間隔が短くなっています。
「───空波拳ッ!」
「ラピスちゃん、あとはお願いね!」
大ダメージを与えてスイカニッパーのターゲットになっているプリアちゃんから再び私に注意を向けさせます。アユちゃんがプリアちゃんを連れて離れます。
「ミコさん! 私の方へ押し出して!」
「わかったのじゃ!」
私は夜会のドレスに身を包み、種攻撃を回避しながらスイカニッパーに近づいていきます。
【連続回避 10回達成、1分間 STR+2】
"夜会"のドレス一式のセット効果、連続(10秒以内)回避成功を10回達成する毎に STR+2の効果を1分間得る。
普段ならほぼ無意味なセット効果でプリアちゃんも防御力と装備条件しか見ずにこの装備を持ってきたと思います。ですが、私はMSOのデータなら細かいところまで叩き込んであるのでセット効果の発動条件を満たしたこの状況で STRを強化しながら徐々に近づいていきます。
【連続回避 20回達成、1分間 STR+4】
避けられる距離で私はミコさんが動くのを待ちながら更に STRを上昇させます。
【連続回避 30回達成、1分間 STR+6】
「ゆくぞ! ─── 刺突・推飛ッ!」
私とスイカニッパーとの直線上、背後を取ったミコさんが後退効果を利用して私の方にスイカニッパーを押し出します。と同時に私も前へと踏み込み懐に潜り込みます。
「えいっ、えいっ、これで────終わって! ────正拳突きッ!」
パンッ!
『スイカカニィ⋯⋯』
私の拳が当たると同時にスイカニッパーの体である西瓜が音を立てて割れてスイカニッパーは倒れました。
「はぁ、はぁ⋯⋯」
「ラピスちゃーん!」
流石にずっと回避するのは精神的に疲れ、肩で息をしているとみんなが私の元に駆け寄ってきました。
「あはは⋯⋯スイカニッパー倒したよ〜。プリアちゃん、装備ありがとう」
装備を返そうとすると取引拒否をされました。
「ラピスちゃんのために持ってきた装備だから! そのまま使ってくれると嬉しいな!」
予想通りの言葉に私は"ありがとう"だけを返して、いつか恩返しできる時が来たら頑張ろうと心に誓います。
「ほら、いつものやろうよー」
「そうじゃな。ラピスよ、お主がMVPじゃし任せたのじゃ」
いつからか私たちの恒例になった勝鬨、なんかいいなって思えるそれを期待に応えて私はやります。
「私たちの勝利っ! Vッ!」
「Vッ!」
「Vじゃな」
「Vッ!」




