第51話 深琴、ぶらりと行く。
私はどうやら”小倉 ミコ”として今の遊び方に満足している。───というよりも、ラピスやアユたちといる時間が実に楽しく、一人で狩りにも探索にも行く気がしなくなっていた。
「いきなり休暇を取れと言われても困るのだがな⋯⋯」
妖仙世界でプレイしている時は、ゲーム内で素材採取やレベル上げといったやりたいことのために自発的に休暇を取っていた。しかし、ラピスたちと遊ぶのが目的となってからの最近は 2ヶ月ほど私的用事もなく休暇を取ることを忘れていたのだ。
「そういえばラピスとアユは海へと、……セピア殿に連れられて行ったのだったか」
海へ遊びにと思ったが、最初に話を聞いたときは確か強制参加と言われて不本意ながらの参加となっていたはずだ。
「ふふっ。まるで今の私と同じじゃないか」
そんなラピスがアユと泳ぎの練習を始め、最終的には泳げるまでいけなかったようだが楽しんで来たことを思い出した。
「せっかくの休暇だ。私も海……、とは言えないがどこか行ってみるとするか」
実家は山奥の古くから続く小さな神社で、弟が宮司となり家を継いだ。私は、人々が願い事をかけるようなことに興味が沸き、それの一部を私自身の願いとして叶えていった。
「とりあえず、一番遠い駅は……ここか」
ローカル線への改札をスマートフォンのICカード機能で通過し、目当ての鉄道車両へと乗り込む。移動手段が発達しようと新幹線、リニアといった移動手段でいける場所は主要都市のみのまま時代は進んだ。それは、主要都市以外では移動時間短縮に払う金額の合計、つまり乗客数が釣り合わないため運用しても赤字であり、路線開発にも莫大な資金がかかるため最初から行わないほうが経済的だと位置づけられたそうだ。
「人の集まるところに人が集まる。この流れはネットもリアルも変わらないし止まらないな」
窓に流れる風景から次第に建造物が減り、それに伴い乗客の数も減っていった。恐らく、私と同じくやりたい事を見つけるために若者が上京をして人口がこの地域も減ったのだろう。
「あの高校に入りたい、大学に入りたい、有名な会社に入りたい、そんな願いの中で自分に叶えられそうなものを選んだ結果がこのつまらぬ私だがな」
実際には大半の人間が憧れるようなレールの上を歩いてきたと思うが、私の人生は他者が叶えたかった願いで出来ているのだから。そういった意味では本当にやりたい事のために生きてきた人間は少ないのではないか思う。
「っと、終点はここか」
降りた駅、そこは平日ということでサラリーマンがチラホラと行き来する地方都市だったようだ。そこから何かを見るためにタクシーを呼ぶとすぐに一台やってきた。
「大倉様でしょうか?」
「ああ。すまないが15時までこの町を観光したいのだが目的地を決めていないのだ。⋯⋯朝田殿のオススメの場所まで乗せていってもらえるか?」
電車で揺られてここまで約 1時間。帰宅ラッシュを前に帰れる時間までの要望を出す。運転手の朝田殿は頷き、しばらくタクシーを走らせてから川沿いの外観が綺麗なホテルへとタクシーを停めた。
「このホテルの最上階のレストランからはこの街が一望できます。それに料理も美味しいですよ」
「⋯⋯ありがとう」
確かにここは観光に来る人間が食事をしにきそうな場所で朝田殿は要望に応えてくれたといえるので、私がたとえ地元の名店ではないのかと思っても口にするのは間違いだ。
「美味しかった。それに川や山、町の景色も美しかった」
「それは良かったです。次はそうですね〜⋯⋯」
「すまない。さきほど、あの山にロープウェイが通っているのを見たのだが連れて行ってもらえないだろうか」
タクシーで走ること20分、私はその山の麓にたどり着いた。
「車内でお話しましたが、もうロープウェイは稼働しておりません。この山の標高は約330m、徒歩で登るには 1時間程度ですが⋯⋯」
朝田殿は私の服装を見て言葉を止めた。どう見ても山を登れるような服装ではないからだ。
「少し散歩してくる。1時間以内には戻るので、帰りも頼めるだろうか?」
「もちろんです。ここでお待ちしていますね」
まだまだ熱い日差しの中を私はぶらぶらと歩く。すると営業をしている喫茶店を見つけたので涼みがてらカランッと音を立てる扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「一人だ。よろしいか?」
「ええ、こちらの席へどうぞ」
若いウェイトレスが対応してくれた。渡されたメニューを見て私は自家製葡萄ジュースに目が止まりそれを注文した。
「ご注文の葡萄ジュースになります。何か他にありましたらお気軽にお声掛けください」
「ありがとう。⋯⋯君は、いつか町を出ていきたいと思っていたりするかい?」
注文の品を受け取り、気づいたら私は見ず知らずのウェイトレスの彼女にそんなことを尋ねていた。
「実は、私ってバイトではあるんですけどここのオーナーの養子なんです。なのでここで働いて恩返しするのが私のやりたいことなので出てはいかないです」
その顔からはやりがいや生き甲斐、両親への尊敬や誇りを感じた。一口飲んだ葡萄ジュースはとても美味しかった。
「ありがとう。とても美味しい葡萄ジュースだ。うちのデパートで取り扱いくらいだ」
そう言って彼女に名刺を渡す。受け取った彼女は慌てふためくが、私自身もそれなりの会社だと思っているので内心すまないと思っていた。
「あの有名デパートでですか!? 両親に相談して返事をさせていただいてもよろしいですか!?」
「ああ、それで構わない。良い返事がもらえるのを期待している」
「はい! ありがとうございます! 大倉美琴さん!」
運命があるなら多分こういうものだろうか。先ほどとは見違えるほど元気よく返事をする彼女の姿が薬草娘と重なって見えた。
「ご馳走様。それではまたナミノで」
会計を済ませて店を出る時、もし本当にプリアが彼女ならわかる言葉を残して店を出た。大倉 美琴 = 小倉 ミコであると名刺の名前ですぐに彼女は気付くだろう。
「ありがとうございました! ミコさん!!」
声が聞こえて振り返ると背後から手を振る彼女が見えた。私もそれに応えるように手を振ってこの場所を去った。本当に偶然だったがプリアと私はリアルに関わりを持つことになった。




