第50話 修二、ラピスの成長に驚く。
「ラピスちゃんの水着可愛かったけど、狐島さんのセンス……じゃないわよね。あれはひどかったし」
「あはは……。デパートで先生たちとたまたま一緒したときに恵美さんが選んでくれたんだよ」
「やっぱり名前呼びなんだ~。ねぇ、先生の彼女とはどういう関係?」
話題はやはりというか、俺が企画した夏の思い出についてが大半だった。
「こいつ、ラズベリーに鼻の下伸ばしてたぜ」
「ば、ばか。……ラピスがあんなにもかわいいなんて、……目がいくに決まってるだろ」
「あははっ! あのゲームにしか興味のない松本が名前呼びとはね~。やっとラピスちゃんの可愛さに気づいたか!」
新学期が始まると、ラピスたちは男女問わずクラスメイト達から質問攻めにされていた。主に俺の彼女である長瀬恵美との関係についてと、例の水着についてのようで大きな声が聞こえてくるが、あまり慣れていないラズベリーは少し辛そうで助け船が必要に見えた。
「お前ら~、それくらいにしてやれ。ラズベリーも困ってるじゃないか」
「そうはいってもね、先生の彼女さんとラズベリーさんの親しみ方が普通じゃなかったのよ? 興味を持つのはしょうがないと思いません?」
俺の言葉に反応したのは意外にも女子だったことに驚き、それが宮木奈津美だったことにさらに驚いた。彼女は女子の中でかなり影響力を持つ人物だったからだ。
「森永せんせ~、先生や恵美さんとは私たちとデパートでたまたま出会ってラピスちゃんが可愛すぎて気に入られただけって言っても信じてもらえないんです。先生からの一言おねがいー!」
狐島がわざとらしく援軍を求めてきたが、これは……。
「俺の恵美が可愛いくて人当たりがいいのは事実だが」
「そんなことは言っていませんっ! いえ、実際そうなのですけど」
少し話題を変えようとしたら宮木にツッコまれたが、彼女を褒められて俺は気をよくしていた。
「恵美はあれで俺よりも年上だぞ? あれは俺が学生の頃……」
教育実習生としてやってきた恵美に一目惚れし、猛アタックの末に話題のVR初のネットゲームに誘われてと回想を饒舌に話し始めたところ、食いつきは上々だった。
「そこで俺たちはラピスというキャラクターに出会ってな? たまたまゲーム内の友達と同じ名前のラズベリーに興味を示して世話焼きになってるんだよ」
「それってラズベリーさんじゃ……」
「さぁな。ネットなんて世界中のどこの誰と繋がっているかなんてわかんねーよ。もし、そのラピスがこのラズベリーだったら運命的だな? けどよ、違ったとしても運命的なもんを感じたんならそれでいいと俺は思うんだが」
お前らはどうだ? そう尋ねると皆が黙った。
「あ、あの。わたし、一緒にゲームで先生たちと遊んでいたラピスって私です……」
か細く、それでもはっきりと小さな口から紡がれた言葉に俺は驚いた。……あぁ、見くびっていてすまない。ラピス、お前はその選択を取れるほど”俺たち”との時間を大切にしてくれていたんだな。
「そうか。恵美との会話でそう思ったのならそうかもな」
とにかく証拠がない。なのでこの話はここで打ち切りとなった。
「まぁ、俺はネットとリアルの友人は切り離すからな。もしそうだとしても、ラズベリー、お前を贔屓にしないからな」
教師と生徒、その関係はクラスの全員と同じだ。そこを間違えるつもりは俺にはない。だが……。
「けどな、遊びすぎていたら口うるさく勉強しろっと言ってくるようになるヤツがいるかもしれないな~。ほどほどにしておけよ」
それでも、教員になる前にネット上とはいえ、勉強を教えていた俺のかわいい教え子だ。成績を落とすことはさせないがな。
「ねぇ、ラズベリーさん。私、あなたと高校で初めて一緒になったのだけれど」
そういって、噂で不登校だったことを知っていることから始まり、少し避けていたことを宮木は謝罪し、知らない世界を知りたいといって俺たちがやっていたVRMMORPGについて教えてほしいと言ってきた。
「えっと、私が恵美さん、ううん。エミルさんやナツキさんと出会ったのはね……」
月影オンライン、そうラズベリーは宮木に伝えていた。
「いや、そこは|GOD・F・オンライン《GFO》にしとけよっ!?」
思わず遠くに離れてからツッコミを入れてしまう。俺はリアルの学校では表向き不干渉だ。だが、ゲーム内のフレンドであるラピスには伝えておこう。
「宮木は確かに恵美も気になるが、お前と仲良くしたいんだと思うぞ。はぁ⋯⋯、人間関係はまだまだだな」
それでもクラスメイトとの距離感が少しでも縮まり、俺はラピスの成長を喜んで二学期を始めた。




