第37話 ラピス、水着を買う。
「ふむ、どうやらこの都市で大半のクエストを受けるには"要求レベルによる制限"をクリアする必要があるようじゃな」
「そんなーーー!」
アユちゃんの悲痛な叫びが湾岸都市ナミノに響き渡りました。どうやら私たちはこの都市で足踏みを強いられるようです。ただ一部、"採取・納品"クエストだけは例外なようなので3つのクエストを受注はできました。
「アユちゃん、納品クエストのアイテム集めながらレベルが上がってるかも知れないし、とりあえずはこのクエストをクリアしようよ」
「うー、絶対に二度手間だよー」
「まあまあ⋯⋯」
同時に受注できるクエスト数は最大15個あり、カザグルでは討伐クエストと採取・納品クエストが同じモンスター、もしくは近くのモンスターや採取地をまとめて受注して一度の狩りで複数のクエストをこなしていました。なのでアユちゃんの言いたいこともわかります。
「そうじゃ。お主ら、もう夏休みには入ったのかえ?」
「はい。先週末で学校は終わってます」
「あ⋯⋯、ミコさんは社会人だからお昼は一緒にゲームできないのか」
そうでした。私たちは学生だから夏休みがあるけれど大人になるとお盆の間だけに減って自由な時間もほぼないと、そう森永先生がボヤいていました。だからこそムダに過ごすなと最後のホームルームで力説していたのです。
「なぁに、今まで通りに夜はこうやって共に冒険ができるのじゃ。何も変わらぬ」
「あ、いえ⋯⋯、実は⋯⋯」
私たちも昼間は恐らくログイン出来ないことを話して、じゃあ"いつも通り"だね、ということで今日はお開きにする流れになりました。
──────
翌日、夏休み初日の私と茉実ちゃんはショッピングモールで水着を選んでいました。
「ちょっと! 茉実ちゃん?!」
「なーに? 私にはビキニが似合うと思わない?」
「ビキニはいいんだけど、それはちょっとやめてほしいかな」
私は手に持った際どいピンク色のビキニを試着しようとする茉実ちゃんを更衣室前で物理的に止めます。
「だって私たち女子高生だよ? これくらい普通だよ〜」
「時と場所と場合を考えて欲しいな。私たちが明日から行くのって市営プールだよね? さすがに浮くと私は思うし、下手したらプールに入れてもらえないかもよ?」
「あははっ! 下手しなくてもそうかもね〜」
流石にわざとでした。私は市営プールに泳ぎの連絡に行きます。なにぶん引き篭もりでしたから泳ぎ方を忘れているので、茉実ちゃんに教えて欲しいと頼んだのです。
「泳げないなら泳げないなりに海で遊べばいいのに、ラピスちゃんって意外と負けず嫌いだよね」
8月の2週目の水曜日に、何故か大型二種免許を取得している森永先生がクラス内で希望者を募って部活動の移動のために学校が所有しているバスで海に連れて行ってくれるらしく、私と茉実ちゃんも誘われました。
「お前らゲームばっかりやってそうだから強制参加な? だって〜。そうかもしれないけどさ、学校指定の水着しか普通持ってないよね」
「あはは⋯⋯、だよね〜。流石にそれで海も恥ずかしいもんね」
「あ、これなんかどう? ここの花とかワンポイントで可愛くない?」
私たちの水着選びは思った以上に長引きましたがいいモノを買えました。
「ラピスちゃん、すっごく可愛かったから男の人から私が守らないとね!」
「茉実ちゃんこそ、私が守ってあげるから」
結局、一日がタオルやら替えの下着や洋服といったの買い物で過ぎていきました。
「時間って早いね。私、一人だった時は早く時間が過ぎて欲しいって思ってたけど、今はまだ遊んでいたいと思うよ」
「⋯⋯それは時間に対して二人で挑んでいるからだよ。ラピスちゃんの好きなゲームに例えると、"時間"というモンスターをソロで倒すよりもパーティで倒した方が早いって感じかな?」
「あはは。全くわからないかも」
「あれれ? おかしいな〜」
「けど、茉実ちゃんの気持ちはちゃんと伝わったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
こういう他愛もない会話も先生のいう青春なんでしょうか。海に行くということになり、色々と準備が必要なので夏休みはまだまだ過ぎて行くんでしょうね。
「今日も買い物って言えばそれまでだけど楽しかったし、いい思い出だよね」
「そうだね。先生には一応は感謝してあげる。誘い方は減点だけど⋯⋯。あ、私は次の駅で降りるね」
「うん。今日はありがとう。また夜に向こうで」
「こちらこそ〜。りょーかい!」
私たちは電車で各々の最寄駅で下車して帰宅しました。
「ただいまー。あ、せっかくだから服の下に来てお父さんを待ってようかな」
その夜、娘の成長に感激し、けれど露出が少ないセパレートタイプとはいえ水着を着て出迎えられたため気まずい父、ジョン・ラズベリーは複雑な思いを抱いて一晩を過ごした。




