第36話 栗毛武道家、他のパーティと交流する。
湾岸都市"ナミノ"は私たちが上陸した砂浜から街道を北へと進んだ先にありました。
新たに購入した地図によると、大陸の南東に位置した大きな都市で、その東端には港があります。漁業や交易、観光で栄えた都市のため珍しい交易品や海に関係した商品が並んだ商店街は活気に満ち溢れていました。
「わっ! 凄い人だね〜。プレイヤーの人もいっぱいだ!」
「ふむ。この大陸への移動手段はフワマリンネ以外にもあるようじゃな」
アユちゃんが人の多さに感激しキョロキョロしています。ミコさんは入港してきた機能美のみを追求したような黒船に目を向けたので私も見てみると、たくさんのプレイヤーが下船していました。
「⋯⋯アユちゃん。もしかして私たちってある意味浮いてる?」
「あはは⋯⋯、ラピスちゃんもやっぱりそう思う?」
「⋯⋯ふむ。お主らのような初期装備のプレイヤーは確かにいないようじゃな」
私は自分の装備を見てからアユちゃんの装備を見ます。うん、周りには鎧がゴツい前衛の方から可愛い系の服、ベテラン風のローブを纏った後衛の人まで様々な装備のプレイヤーがいますが、私たちのような見るからに”初心者です”といった風貌のプレイヤーはいないようです。
「わっちはコンバート装備じゃから熟練者っぽいじゃろ」
「とりあえずさ、防具屋に行ってみようよ」
「そうだね」
装備を売っているお店は都市ということもあって武器屋と防具屋で分かれており、私たちはまず防具屋へ向かいました。
「いらっしゃい」
「あの、防具がほしいんですけど」
「うちは量産品専門店でね、その分安いよ。そこに見本品から好きなモノを持ってきな」
店へ入ると奥からNPCの見るからに店主の奥さんっぽい方が出てきて売り物は店に出ている量産品の防具しか売っていないと言われました。ってコレ、本当に量産品ですか?ちょっとお高いんですけど?と言いたくなる値段が目に飛び込んできました。
「ねぇ、ラピスちゃん。私の手持ちじゃ帽子一個を買うのでも精一杯なんだけど」
「ふむ。これは、もしかしたら何かに困っていてクエストをクリアすれば適正価格になる系のやつやもしれぬな」
「すみません、少し高くないですか?」
「うちはこのナミノで最安値の防具屋さ、値引きなんてできないよ。私は奥にいるから決まったら呼んでちょうだい」
奥さんは何食わぬ顔でそういって店の奥に戻っていき、それを見て私たちは顔を見合わせました。その時、奥さんと入れ替わりでお店の扉から他のプレイヤーさんが入店してきました。
「いらっしゃい」
「すみませーん、ここに出てない装備ってあります?」
「うちは量産品専門店でね、その分安いよ。そこに見本品から好きなモノを持ってきな。私は奥にいるから決まったら呼んでちょうだい」
新たに入ってきたのは男三人に女一人のパーティで、声をかけたリーダーっぽい軽装備、といっても所々に金属製の板が張られていて初心者とは明らかに違う剣士の男に対して奥さんはNPCらしくまったく同じセリフで返し、再び店の奥へと戻っていきます。
「だとよ。大した装備は置いてねーな」
「お店の人も言ってたじゃん。ここは量産品専門店だって」
「まあ、確かにお手頃な価格ではありますね。まあ、グランサバスのクエスト報酬装備より少しだけ性能は劣りますが」
彼らはそう言いながら防具を手に取り性能と価格を見て各々に言い合いを始めました。
「少し話を聞いてくる。どのような人物かわからぬ故、お主らはあまり喋るでないぞ」
するとミコさんが彼らのほうへ歩み寄り、リーダーらしき人物に話しかけます。
「すまんのぅ。少し良いかや?」
「ん?なんだい?」
「ここの防具のこの価格は安いのかや?」
「「え?」」
「「は?」」
ミコさんが防具の値段について尋ねると彼ら全員が訳が分からないといったような顔をしながら声を漏らします。
「君たち、グランサバス王国から来たんだよね? あっちでは装備屋に寄らなかったのかな?」
「いや。わっちらはカザグルから来たんじゃが、もしかしてあの船はそこから出ておるのかや?」
「え? そうだけど。ん? ……カザグル? それってどこだい?」
「ダーマラス大陸にある街じゃが」
「⋯⋯なあ、あの大陸からここにこれるのか?」
「いや、オレは知らねーな。確かカザグルというと最初の名もなき村の北にある風車の街のはずなんだが」
「私が前にグランサバスで組んだパーティにダーマラス大陸から来た人もいましたがそれなりの装備をしていましたよ」
ミコさんの言葉に彼らは必死でダーマラス大陸からドラヌート大陸に来る手段についてのゲーム情報を思い出しているようです。私とアユちゃんの姿を見て、なんで装備が初期装備なんだよ。という思いが伝わってきました。
「⋯⋯あっ! フワマリンネだっ!」
「いやいや、アレは"厄災"の一体で初心者が倒せるわけないだろ」
「この狐耳の人はコンバート組だしワンチャンない?」
「それにしたって高威力の聖属性攻撃でもなければHPを削りきれんだろ」
「適正レベル20と言われていて、わざわざレベルを上げて戻ってくるプレイヤーも少ないがいるにはいる。だが、それなら装備がこうはならんだろ」
修道女らしき女の人は攻略掲示板でカザグルについて先に調べていてフワマリンネにたどり着いたようです。
「そういえば私たちは攻略掲示板で初心者向けの進め方しか見てなかったけど、調べれば色々と載ってるんだね」
「ラピスちゃん、掲示板の情報は私たちには不用と割り切って片っ端からNPCに話しかけたからミコさんに出会えたと考えようよ」
「あ、その発想はなかったかも」
向こうは向こうでフワマリンネについて言い合いをしているので攻略掲示板についてアユちゃんと話していると、ミコさんがコホンっとわざとらしい咳払いをして注目を集めます。
「その通りじゃ。わっちらはフワマリンネを倒してここにきたのじゃ」
「マジかよ⋯⋯」
「その上で聞きたいのじゃがお主らのレベルは幾つじゃ? もしやここは正規ルートではそれなりのレベルや装備で訪れる場所ではないかのぅ」
「俺はレベル23、他のメンバーも20〜23だ」
「わっちは13、こやつらは共に12じゃ」
フルプレートの重装備に大盾を持った男が信じられないと言った目でこちらを見ています。ですがカザグルで全てのクエストを制覇してレベルは10、フワマリンネ戦の時は11で七夕に向けてアレコレしている間にさらに上がって、今では私のレベルも12になっています。
「ふむ。どうやらわっちらは背伸びをした場所にたどり着いたようじゃな」
「一度帰る? フワマリンネで戻れるし」
「それよりも船でグランサバス王国ってとこに行くのも楽しいかも」
「まあ、それはここを観光してからでも良いじゃろう」
そんな感じで方針を決めて色々と教えてくれたパーティの方へと向きます。
「色々とわかって助かった。感謝する」
「「ありがとうございました!」」
私たちはお礼を言ってからお店を後にしようとすると、後ろから声がかかりました。
「ちょっと待ってくれ。よければフレンド登録してもらっていいかな」
「ナンパかや?」
「違うよ、君たちに興味が湧いた。何かあれば声をかけてくれ。一緒に戦えたらVRゲーマーとして成長できそうだ」
「誠実な男は嫌いではないし、礼には礼で返さねば無作法と言うもの。───喜んで受けようぞ。こやつらはちょいと訳ありでな、固定パーティを組んでおるリーダーのわっちだけでもよいかのぅ?」
「構わない。俺はアレス、で左から盾のガイル、風魔法使いのヒューイ、修道女のハナで今は固定パーティを組んでいる」
「わっちは小倉 ミコ、それに水魔法使いのアユと武道家のラピスじゃ」
お互いに自己紹介を軽くしてミコさんとアレスさんがフレンド登録を行いました。
「それじゃ、連絡がくるのを楽しみにしているよ」
アレスさんは店を出て行く私たちに手を振りながら軽いノリで言っていますけど、私たちもレベルと装備問題は何も解決していないので今誘われても同じ狩場には行き辛いですね。
「中々に良い連中じゃったな。存分に利用してやろうではないか」
「あはは! ミコさん悪い顔してる〜」
少し悪い顔をしながらミコさんが怖いこと言っていますが、楽しそうならいいかなと私はスルーします。
「さて、どうしよう?」
「さっき言ったじゃろ、とりあえずはここを観光じゃ」
「クエスト報酬もこのナミノ基準でくれるだろうし、そのお金で装備を整えればいいよね。三人で無理そうならアレスさんに頼るなり後で考えようよ」
「あはは⋯⋯、アユちゃんって人に頼るのに抵抗はないんだ」
「持ちつ持たれつならいいかなって。いつかちゃんと恩を返す気はあるからね」
「なら私もここで観光、クエスト探しに賛成です」
「決まりじゃな」
私の問いに二人ともここで活動することに前向きなようなので私も背伸びをした戦いになるとは思いますが頑張ることを決めました。
「では、片っ端からNPCに話しかけていくのじゃー!」
「「はーい」」
「って、アユよ。それはプレイヤーじゃっ! うちのバカが迷惑をかけてすまんのぅ」
「ミコさんがバカって言ったー」
「アホなことを言ってないでお主も謝らんか」
さっき勝手にミコさんがリーダーを名乗ったけど、アユちゃんも何も言わないし、私もこう引っ張っていってくれて、私たちを守ってもくれてるので優しいなと感じ、この人ならいいかなと思いました。もうこの流れが定着して本人も変えられないから吹っ切れたのかなとも思いますけどね。




