第35話 ラピス、夏休みに入る。
新たな大陸に新たな街、これからの冒険に心弾ませながら私は一学期最後の登校日を迎えました。
「明日から夏休みだが、お前ら〜、わかってるよなー」
「「「友達との思い出作りを頑張ります!」」」
「よしっ!」
担任の森永先生による帰りのホームルームは謎の団結力に満ちていました。先生は教壇から私たち生徒を見渡して満足気に頷きます。
「教師として宿題をちゃんとやれというのは俺は言わない。そんなのは夏休みではないからな」
まったく、この先生は⋯⋯。そんな森永先生だから生徒から慕われているし、他の先生からお小言をもらうんですよね。
「大体な、休みなのに宿題とか俺は学生の時からおかしいと思ってたんだよ。やらねーヤツはやらねーし、何かしらの目標があって勉強を頑張るヤツは教科書とノートだけでも勝手にやると思わないか? ⋯⋯と言ってもそれは俺の持論であって他の先生から出された宿題はちゃんと提出するんだぞ? それ込みで思い出作りだからな」
結局、宿題はちゃんとやれと言われて嬉しそうに『そうだそうだ』と言っていた男子たちが一斉に手のひらを返してブーイングを始めました。
「お前らな〜⋯⋯。授業じゃ基本的に教師の話を聞くだけだろ? じゃあ家ではどうだ? 勉強を一人でやるか? やるヤツももちろんいる。───けどな、友達と一緒に勉強する機会なんてもんは夏休みしかないんだぜ?」
「なあ先生、オレたち休み時間にみんなで宿題をやってるから遊んでもいいよな? みんな! 明日からオレとゲーセンで思い出作ろうぜ!」
男子たちのリーダー的な存在の松本くんが持論を展開して騒ぎ出しますが、私を含めた女子は冷ややかな目線でそれを見てます。バカだな〜と思うのと、こういう時の森永先生は本気だとわかっているからです。
「ほう。松本、お前は夏休み中ゲーセンで俺にひたすら毎日負け続ける思い出が欲しいのか? 何回でも相手してやるからかかってこい、金がなくなるまで負かしてやるよ。社会人なめんじゃねーぞ?」
あ、この目は本気だ。そう悟った松本くんは大人しくなりました。森永先生は青春を大事にしない生徒には厳しいのです。
「休み時間に友達と宿題をやってる? 写してるだけだろ。ちゃんと解答や考え方をお互いに言い合っているならそれでもいい。けどな、そんなヤツは宿題をやったうえで答え合わせをしてんだよ」
とにかく熱く、熱く語る先生は止まりません。バカ松本と小突かれている松本くんや、うんざりしたようなギャル系の女子たちもいますが、それでも森永先生は止まりません。
「夏休みという考える時間、教え合う時間がほぼ無制限にある環境での友達との勉強に意味があるんだ。お前ら、高校を卒業したら学ぶ内容は各々に違ってるし、それぞれの交友やバイト、仕事もある。な? だから青春だと思って勉強会しとけ。まあ、これは人生の先輩としてのお前らへのお願いってヤツだ」
森永先生がそこまで喋ってチャイムが鳴りました。周りを見るとなんだかんだで最後にはみんなの心に響いてるあたり、やっぱりこの先生は慕われてるなと思います。
「ね、ラピスちゃん。私たちはやろっか」
「勉強会だよね? うん、いいよ」
「やったー! 宿題クリアだー!」
「狐島、うるさいぞ」
茉実ちゃんが勉強会に誘ってくれたので了承しましたが、そんなに嬉しかったのかな? と思うくらいテンションを上げて叫んで先生に叱られました。
「俺からの宿題もやっぱり出してやるか。───お前ら、全員で二学期を迎えて思い出語り合おうな! じゃあ、元気で過ごせよー」
そう言ってホームルームを切り上げて先生は教室を出て行きましたが、すぐに戻ってきました。
「そうだ、松本。ゲーセンなんてな、大人になってから毎日夜中にいけるんだぜ? 今しかない夏休みに出来ることを冷静になって考えてくれると俺は嬉しい」
と、思ったらそれだけ言ってまた出て行きました。こうして夏休みは始まりましたが、私に予定はありません。強いて言えば日にち未定の勉強会くらいです。
|GOD・F・オンライン《GFO》に引き篭もれるとワクワクしてましたが、その夜にゲーム内で予定がないことに対してお説教されるとは思わなかった私でした。




