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第33話 栗毛武道家、北へ飛ぶ。

「準備はよいな?」

「うん。私は大丈夫だよ」

「私も準備オッケーです!」


 あの楽しかった七夕から数日が経過しました。私の神聖魔法は再び封印されましたが一夜の奇跡と思い、再び武道家に転職しました。持って帰ったのは向こうの消費アイテムと思い出、失ったものはミコさんの呪符です。


「よい返事じゃ。ではいくぞ! 新大陸へ! 」


 フワマリンネの祭壇へとやって来た私たちはダーマラス大陸から本来の(・・・)移動先であるドラヌート大陸へ飛び立ちます。


「あっ、見てよ! カザグルの大風車が回ってる!」

「ね、アユちゃん。あの周りの小さく点に見えるのってフワマルかな?」

「そうかも!」

「カザグルは風の町じゃったが、さて、次はどのような場所じゃろうな」


 フワマリンネは徐々に高度を上げ、気流に乗り海を渡っていきます。眼下に広がる海からは魚が跳ねたり水龍のような巨大な生物が顔を出したりし、空の上では魚を狙った鳥たちや飛竜が飛び交っていました。


「ね、あのワイバーンが近くに来た時にさ、攻撃したらどうなるかな?」

「恐らくは墜落するのぅ。ラピスよ、その時はアユを置いて、わっちらだけで冒険としゃれこもうかのぅ」

「んー、ここは一緒に落ちようよ。⋯⋯って言いたいけど、私も落ちたくはないからアユちゃんやらないでね?」


 恐らくは飛竜や大型の鳥、水龍を始めとした海洋モンスターは今の私たちでは全く歯が立たないと思います。今は空の旅を楽しむことに意識を向けて、恐らく目的地であろう進路上にある島を指で摘みます(触れないけど)。


「ラピスは可愛いのぅ」

「⋯⋯もしかして子どもっぽかったですか?」

「うむ。じゃが気にせんでええじゃろ。───お主らはまだ子どもじゃが、大人にはいずれ嫌でもならねばならぬ。社会に出ればそれこそ生産性だの利益率だの、効率、効率とムダ取りを求められ、楽しむ事を忘れていくのじゃからな」

「⋯⋯ミコさんも、あの日にカゲミツさんと手合わせした時は凄く楽しそうでした。まあ、私もはしゃいじゃいましたけど、それでもミコさんがあのみんなが笑い合える場を作ったんですよ? だから、ミコさんは楽しむことを忘れてなんていません」


 いつも演じてるミコさんが少しだけ真剣に、そして淋しそうに話すものだから私は⋯⋯、ミコさんはもう子どもじゃないかもしれません。けれど、ムダなことが許されるこの世界(ゲーム)の中ではそんなことを忘れて、興味のまま好奇心に素直になり、楽しんでほしいし、楽しんでいたよ。と伝えました。


「ほうかや」

「はい。ここは|ヴァーチャルリアリティ《VR》のゲームで、仮想の現実なんですから」


 しばしの沈黙、この時間も大人からはムダと言われるのでしょうか? 日々の生活の中での自由な時間が限られているから、残りの寿命に焦りを感じるから、思考が仕事に支配されてムダなことを悪と捉えてしまうようになるから。


「だからこそ、ムダな時間や、ムダな行動には価値があり、人は追い求めるのやもしれぬな」


 今、このときのムダな時間を私たちは続けばいいのにと願いながらフワマリンネに乗って空を進みます。


「放水 (アクアディスチャージ)ッ! ホーリーアドオン(聖属性追加)ッ!」

「え?」


 少し目を離していた隙にアユちゃんが何故か魔法で攻撃してました。って、ちょっと待って。何かが向かって来てるんだよ!?


「アユ、お主っ! 刺突・乱れ霰(みだれあられ)ッ!」

「ミコさんッ! まだ足りない!」


パリンッ!

アユちゃんが攻撃したのは細い黒い線のようなものが足に巻き付いた小さな極彩色の鳥でした。ミコさんの攻撃を受けて精彩運鳥(オーロラッキー)の名前を赤色に変化させました。しかし、倒しきれなかったため尖った爪による攻撃をアユちゃんが受けてしまったので、すかさずに初心者用回復薬を投げてHPを回復させます。


「わかっておる! 刺突・推飛(すいひ)ッ! アユ!」

「ラピスちゃん、ありがとっ! 放水 (アクアディスチャージ)ッ! ホーリーアドオン(聖属性追加)ッ!」


 ミコさんがスキルによるノックバックを利用して精彩運鳥をアユちゃんから距離を取らせます。そこにアユちゃんの聖属性の放水が再び放たれ、それを受けた精彩運鳥のHPが尽きました。


「アユちゃん! 攻撃しないでねって私言ったよね!?」

「そうは言ってもさ、それはノンアクティブ(攻撃されない)モンスターの話でしょ? 明らかにこっちを攻撃しに向かって来たら、距離があるうちに先手を打つのが魔法使いなんだよ」

「ラピスよ。アユの言うことは正しいかのぅ。移動イベント中で周囲の警戒を怠っていたわっちらの方が悪かったのじゃ。すまんのぅ、アユ。助かったのじゃ、感謝するぞ」

「っう。ごめんね、アユちゃん。ありがとう」

「いえいえ〜、どういたしまして」


 たしかにモンスターによる強襲イベントは私も想定していませんでした。感情的にアユちゃんに当たってしまってちょっとばつが悪いですが、アユちゃんはヘラヘラとしたながら気にした様子なくいつもの感じに戻ります。


「アユちゃんは強いね⋯⋯」

「そうじゃな。切り替えの早さ、判断力が高く、社交性を磨き続けられてきたのであろうな」


 そういえば、私のログインしていない時にカザグルの町で知らない人とパーティを組んでいる時もありました。頭の回転が早く、人当たりの良いのがアユちゃんの強さなのでしょう。


「社交性かー。私は声をかけて貰えるのを待ってるだけだったな」

「⋯⋯わっちなんて最後はソロプレイぞ」


 私たちはVR世界なのに現実を見せられた気分になりました。


「けどさ、今は三人で固定パーティ組んでるわけだしさ、それでいいじゃん。ラピスちゃんもミコさんも私を助けてくれるし、私からも"ありがとう"なんだよ」


 そう言って、手に持った極彩色の羽を見せながら笑います。羽を見て今更ながら私の中で疑問が生まれました。


「そういえばアユちゃん。なんで聖属性の付与をして攻撃してたの?」


 空を飛んでる鳥は羽が濡れて機動力が落ちるので、基本的に水属性は効果が抜群とはいかないまでもそこそこのダメージ上昇が見込めたはずです。


「この鳥の足に付いてた黒い線、フワマリンネの禍々しい渦と同じに見えたんだよね。とりあえず効果はあったみたいだし、多分あれは"厄災"のカケラなんだよ」


 アユちゃんの推測によると、"禍々しい渦"は厄災による侵食が進んだ状態で、黒い線は凶暴化状態でどちらのモンスターも見かけたら先制攻撃か逃げるかをした方がいいとのことでした。


「確かにのぅ。この世界のモンスターはボスを除けば正直言って単体では弱いとわっちは思っておる」

「私もそれは思うよ。輝夜世界ではもっと長時間の戦闘が多かったし、アイテムだけでHP回復を賄えなかったから」

「恐らくは、人類と敵対しておらぬ"生物"として設定されたモンスターなのじゃろうな」

「確かにフワマルやイワマル、ヨウチューとか、そこら辺にいそうだよね」


 風船や岩、芋虫型のモンスターは世界に根付いた生物と言われればそうかもと思いました。


「|GOD・F・オンライン《GFO》、神の未開域か。実に面白いのぅ」

「ミコさんは何か気付いたの? 何に気付いたの? 教えてよ〜」

「お主自慢の推察力で考えてみるとよい」


 アユちゃんが興味津々にミコさんに問いかけます。それを勿体ぶりながら躱わします。


「未開域⋯⋯、フロンティア、⋯⋯F。ってことは神の未開域オンライン? なら陽光神の知らない未開域を冒険するのが本来の目的?」


 ブツブツとアユちゃんが考え込み、言葉が口から漏れています。そういう抜けてるところ可愛いです。


「未開域からの侵略者が"厄災"、そこを探して厄災の本体を倒すのがゲームのクリア目標かな?」

「ラピスの方が早いか」

「アユちゃんが途中まで考えてくれてたから二人の推測です」


 通常フィールドのモンスターが弱いのは人類への敵意が低いためで、私たちの真の敵は厄災、その本体がいる場所は地図に載っていない未開域。もしかしたら、他にも人類と敵対する別の未開域に潜む敵がいるかも知れません。


「これまで以上に強いモンスターが現れるやもしれぬが、やることはかわらぬ」

「冒険して、クエストをクリアして、モンスターを倒して、アイテムを集める」

「あと、仲間じゃな」

「そうですね。想定外の強さのモンスターが現れるのならパーティの全力は過剰なくらいがちょうどいいかもしれません」


 厄災[フワマリンネ]を倒し、その先の大陸に向かう途中に襲いかかってきた尖兵。私たちはさらに北へと向かいます。この先に未開域がある予感を感じながら。


「補助役をわっちがおこなうつもりでおったが呪符を使い切ってしまったからのぅ。すまんがバフやデバフを使える者を探して声をかけていくのがよいかのぅ」

「槍術の凄さを見せてもらったしさ、ミコさんを専門の補助役にする気は元からないよ? ね、ラピスちゃん。それに呪術に使う呪符は持ち込み分だけだと無くなるのが早いか遅いかの違いだけだったもんね」

「そう言ってもらえると助かるのぅ。呪符を使い切りはしたがカゲミツ殿との試合に後悔はないからのぅ」


 色々とあった七夕イベントから戻ってきた私たちは改めてこの世界での冒険を再開します。目指すは新大陸、そして未開域!

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