第31話 【七夕】勇太、栗毛聖女と触れ合う。
「は? まさか俺は夢でも見ているのか?」
"ラピス"というプレイヤーに影響されて再コンバートを行い、月影オンラインの輝夜世界に戻ってきた。
「ラピスちゃん、この七夕MAPにいる"タンザクロ"を狩ればいいんだよね?」
「うん。見た目は短冊だけど本体は柘榴の花なんだよ。倒すと花びらがドロップするからソレを集めるの」
「おっけー、わかった!」
出向先の管理会社で働くにあたり、雇用契約書にゲーム内インサイダー防止対策として【|GOD・F・オンライン《GFO》の私的プレイを禁止する。】との文言があり、彼女のその後を俺は知らない。例の件でデータサーバーへのアクセス権乱用という汚名を着せられ、サポートセンター担当業務から外されたのだ。
「深夜勤手当が付いて楽な仕事だったんだが⋯⋯っと、あの時のことはもういいか。ラピスと呼ばれていたし、隣にいる子も見覚えがある。間違いなく本人だろう」
今はゲーム内イベントの企画・統括運営に回されている。本社の連中との打ち合わせは負け犬を見る目が辛いが、必ず成果を上げてまずはこの会社の、そして本社の企業体質を変えてやる。そんな野望を胸に秘めて毎日を働いている。
「おーい、ラピスよ。色違いの黄色の花びらが落ちたんじゃが、色ごとのレア度を教えてくれんかのう」
「えっと⋯⋯、下から紫、緑、赤、青、黄、橙、水色、白、銀、金だよ。色が薄いほどレア度が高くて金と銀はまず落ちないと思っていいかな」
「ほう。ならコレはそこそこというヤツか」
「うーん、花びらは同じ色を 5枚集めないと短冊と交換して貰えないから黄色ってアタリだよ。ミコさんは黄色狙いでいいんじゃないかな」
「ふむ。黄色か⋯⋯。わっちのイメージにピッタリじゃしそれにするかのう」
既視感のある狐耳の少女がラピスに短冊イベントの概要を聞いていた。
「って、ちょっと待て。今、"ミコさん"とか言ってたんだが!? それにあの独特の喋り方、やっぱりあの"小倉 ミコ"なのか?」
俺のコンバート前にプレイしていたゲームは桃源燈信オンラインだ。舞台である妖仙世界は陰陽道が発展した世界で、陰陽術による式神召喚が優遇されていたため陰陽術士が溢れていた。その世界の対人戦における頂点、最強プレイヤーは呪術師・小倉 ミコ、狐耳の少女だった。
「頭に付けている鈴、アクセサリーの"狐月の慶祝・凛鈴"を愛用しているし間違いなく小倉 ミコだろう。あれはただの趣味アイテムで運が +3と少しだけ上がる効果があり、狐耳キャラクターには追加でLUK +7とそれなりの性能ではあるがLUKという実感し辛いステータスの上昇効果であること、防御力は 3という防具としての実用性は低いモノなのだ。正直言ってあんな装備を戦闘時でも外さないのは舐めたプレイだと思うが」
それを可能にするだけのプレイヤースキルが彼女にはあった。呪術師は呪符を用いて戦う。そこは陰陽術も同じだが呪符の消費量が式神一体につき一枚なのに対して、呪術は一つの状態異常につき一枚、かつ効果時間も長くて数秒であるため、アイテムの限界所持数、金額的なコストパフォーマンスがすこぶる悪い。それ故に腕防具"次元の巾着袋"による消耗品アイテム収納を利用し、彼女は長槍と切り替えながら戦う。
「両手武器の一迅ニ風三散、両手防具の"次元の巾着袋"、武器の持ち替えは一般的な技術だが両手装備、しかも武器と防具で行う奇人」
本来の腕防具である小手や盾を持たないため防御力はさらに低下する。しかし、卓越した回避技術、呪術による麻痺や眠りなどによる一瞬の停止時間を利用し彼女にはどんな攻撃も当たらない。当たるのは避ける隙のない範囲攻撃だが、彼女は優先してそれを発動前に潰してくる。
「ん? って、ラピスの手に持ってるのは"次元の巾着袋"じゃねーか⋯⋯。どうなってやがる」
各々が別々にタンザクロを狩っているため、澄んだ青髪の魔法使い、たしか名前はアユだったな。アユはダメージを受けながら戦っていた。キャラクター、モンスターの名前の色はHP残量の目安になる。この輝夜世界ではHP80%以下で橙色に、50%以下で赤色に変化する。これは世界ごとに仕様は違い、ここが強敵が多いのでHPに余力を持たすためにこのような過剰な危険シグナルとなっている。
パリンッ!
回復アイテムが投げられたアユが光に包まれ名前が白色に回復し見えなくなる。
「⋯⋯さすが小倉 ミコ、それにラピスか」
パーティプレイの本領は乗算だ。恐らく小倉 ミコやアユはラピスに回復を全て任せているのだろう。HP管理を意識から外すことで攻撃に集中できる。特にVRゲームでは視覚はモンスターを可能な限り捉えていたい。それは相手の攻撃に備えるための他に、スキルの発動対象をロックオンするために必要なことだからだ。
「お、金の花びら 2枚目か。⋯⋯いや、今夜しかないイベントで 5枚はやはり厳しいか」
自身の次に考えているイベント企画案でのドロップ率と必要数の参考にしながら花びらを拾う。
「あっ、おめでとうございます!」
「ありがとう。君たちも順調みたいだね」
「はいっ! 私は緑、あの子は水色、でそっちの子が黄色で 5枚づつ集まったので帰ろうと思うのですけど」
独り言を聞かれていたらしい。ラピスに話かけられてしまったが平常心を装い"応羽"として受け答えをする。
「おーい、ラピス。こっちも花びら 5枚づつ集まったよ。ってあんたは?」
「ボクは"応羽"、金の花びらを拾ったら彼女に話しかけられたんだ」
白銀の鎧を着た女性がラピスを守るように立ち、後から来た男が横に並ぶ。が、ラピスは間から抜けて出てイベントアイテム"金の花びら"を差し出してきた。
「私、この世界にいられる時間は少なくて、他にやることがあるのでコレ、良かったら貰って下さい」
「あ、あぁ、ありがとう。残りの花びらが今夜中に落ちるかはわからないが頑張るよ」
俺はその金の花びらを受け取った。正直に言うと、これが長いVR MMO RPGで初めてのプレイヤーとの交流だった。損得でパーティを組み、効率を求めた俺はVRの見せる景色は好きだが虚無感を感じていた。
「これがネトゲか⋯⋯」
「へー、あんた。うちに来ないか? 丁度、凄腕の聖女が抜けててな。教皇は無理でも神官長のジョブなら今からでもいけるだろう。パーティプレイは楽しいぞ」
【エミルからギルド『第六天明王』へ招待されました。加入しますか?】
目の前のエミルというプレイヤーからニヤニヤしながらギルドへの招待が届いた。俺は迷ったが、ラピスからいい人ばかりだから応羽さんも入ってよ、と後押しされて加入することになった。
「はは、ギルドとか初めてなんだが⋯⋯、よろしくお願いします」
「最低限のマナーがあれば充分さ。楽しんでいこう」
「そうだ、新人にこれをあげよう」
そう言って金の花びらをさらに 1枚渡された。
「何を願うか知らないけどさ、あんたなら面白そうだ。必ず叶えなよ」
友人が来てんだ。悪いけど新人歓迎会はまた今度でよろしく! と言い残して彼女たちはイベントMAPから姿を消した。
「あ、フワマリンネの世界転移かっ!」
今夜限りの時間制限、そこで俺はラピスがこの世界にいる理由に行き着く。
「七夕だもんな、一年に一度、会いたいヤツらが会える日。俺も気にかけていたあの子が元気な姿を見られて良かったです。企画してくれてありがとうございます、先輩」
|GOD・F・オンライン《GFO》の
光雫世界には本来は七夕イベントはない。恐らくは俺からの報告書を読んで、今の配属先であるイベント部門で教育係をしてくれている鳴海先輩が、この輝夜世界で"加護スキル"を取得できるように企画したのだろう。まあ、その前に"夜天の宝玉"の受け渡しできる抜け穴は塞がれてしまったわけだが、聖女の職業でなくとも彼女はゲームを楽しんでいる。
「それが見れただけで俺は救われましたよ」
日付が変わる前に金の花びらは落ちた。金の短冊は巨大な笹のあまり短冊の結ばれていない場所に結んだ。
「願い事は──────」
この短冊は俺一人のものじゃない。故に俺の願いはあの子のために。
「それに、ギルドに誘ってもらった俺は無自覚な願いをすでに叶えて貰った側だからな」
日付が変わり、彼女たちはもう世界を戻ったのだろう。一夜限りの出会いに感謝して今年の七夕は最高だったと思い出に閉まった。




