↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/184

第30話 【七夕】修士、彦星と化す。

「森永先生、さようなら」

「おう、さよなら。気をつけて帰れよー」


「先にゲーセン行って待ってるぜ」

「おう松本、いい度胸じゃないか。あとで見回りに行ってやるからな」

「げっ! 森永」

「俺は気にしないが、学校では先生を付けとけ。あと、着替えていたら俺はお前だとわからんかもしれんなー。山田、お前もな」

「⋯⋯はぁ、しゃーない、一度家に帰るか。またな、先生」


 帰宅する生徒たちの挨拶に応えながら俺、森永 修士は職員室を目指す。今日は一年に一度の七夕の日、俺はこれまで特別だと思ったことは⋯⋯あるな。すっかり忘れていたが小学校の時に給食に出てきたデザート、あの七夕ゼリーだけは楽しみだったと思い出す。


「北里先生、田中先生、お疲れ様でした。それでは、お先に失礼します」


 ラピスたちとの待ち合わせ時間は夜 7時 7分、今日は金曜日だが月曜日の授業が一限目からあるため準備を終えて、いつもより早めに帰宅する。


「七夕だから7時 7分とか、あいつらロマンティストか。まあ、狐島ならそういうの好きそうだが」


 ゲームにログインし、フワマリンネの祭壇へと向かう。ボス部屋の前には 10人程度のプレイヤーが集まっていた。


「お待たせ。それにしても割りといるもんだな」


 ボス部屋はパーティごとで別部屋扱いとなるが、まばらながらも前世界へ渡る待ち合わせをしているのに驚いた。


「そう? 私は少ないなって思ったんだけど」「アユはこの世界(ゲーム)が初めてだったな。コンバートしてくるヤツなんてな、基本的に前のゲームで何かしらあったヤツか、前の世界に繋がりがないヤツなんだよ」


 俺みたいにな。ラピスは例外だがミコはバツ悪そうにしているし、彼女も前の世界から転移した理由は少し後ろめたいものなのだろう。


 世界を渡るのはパーティごとで、選択可能な世界はパーティメンバー全員の前にいた世界。また、その世界に行ったことのないプレイヤーも転移出来るとのことだが、同MAP+1エリア以上の個別行動は不可。ここは、恐らくゲームデータのないプレイヤーにはパーティメンバーのMAP情報などを共有してVR空間を作成し同期化しているのだろうと推測する。


「行き先は月影オンライン(MSO)の輝夜世界でよいな?」

「ああ、よろしく頼む」

「楽しみだねー、夜の世界なんだっけ」

「うん。夜空が綺麗なんだ〜」


 ラピスが輝夜世界(MSO)を思い出しながら綺麗だと感じた場所ごとの景色を語る。そんな場所もあったなと聞きながら思うのと同時に、半分くらいは知らない場所で俺が抜けてから冒険で見た景色なのだろうと、みんなとの同じ景色を見れなかった切なさを感じた。


「ほぅ。ならば七夕イベントは凝っていそうじゃのう」

「凝ってると思うよ? この世界のイベント告知見たけど、NPC売りの短冊を笹に結ぶだけって少しビックリしたから」

「本当だよ。私の初の公式イベントだけどさ、まさか何も起こらないことが明記されたイベントとかどうなのって感じ」

「まあ、ここは陽光神、つまりは太陽の神の世界じゃからな。七夕とはあまり縁がない故にそのようなイベントになったのじゃろう」


 ミコの推測になるほどなと思った。ラピスが信仰神が違うという理由で聖職者スキルが使えないのなら七夕のような夜のイベントは運営からの形式だけの可能性は高い。


「3月にリリースしてサービス開始から 4ヶ月でコレだ。まだ気が付いてないプレイヤーが多いと思うが、恐らくクリスマスイベントも似たような感じになるんじゃないか?」


 俺の言葉に 3人は言葉を失い絶望したような表情をしている。だが、この予想はあながち間違いでもないだろうと俺は思っている。


「ま、まあ、先のことはわからないし、今は七夕だよ! ラピスちゃん、向こうの七夕イベントはどんな感じなの?」

「あっちはね、七夕は限定モンスターが毎年フィールドに現れてね、倒すと短冊を落とすから、それに願いを書いて専用MAPの笹に吊るすんだよ。で、その中からランダムで二人の願いを織姫と彦星が願いを叶えてくれるんだ」

「俺のいた時は"ギャルのヘアバンドおくれ"というふざけたのと、"10億ミル(ゲーム内通貨)欲しい"という欲に塗れた願いが叶ってたな」


 "ギャルのヘアバンド"はともかく、お金なんざあの世界では無価値に等しいんだがな。なんせ基本がレイドボスだ、装備なんかより長期戦を戦えるプレイヤースキル(PS)の方が重要で、最前線の武器を装備できたところで巨大なモンスターは数発で倒せないし一撃も重い。


「お金を貰ったヤツはオレTUEEEしようとしたが、腕が伴わなく周りに散々言われて引退していったな。MMORPG(ネトゲ)なんてお金で買える装備よりもクエスト報酬の装備の方が強いに決まってるからな。店売り最強装備でプレイヤースキルのないヤツが最前線のダンジョンにきたらそうなる」

「うわ⋯⋯、お金で買えない価値ってやつだね。プライスレス」


 まあ、当たらないとは思うが宝くじに当たるよりは確率は高いので、願いは真剣に考えておく方がいいと警告しておいた。


「話してばかりでは進まんな、では行くぞ!」


 ミコが選択の決定を押す。なんでもこのダンジョンはミコが見つけたらしいのでラピスとアユはこの転移イベントの世界選択権を一任することにしたらしい。まあ、二人らしいっちゃらしいが、あのミコという少女は只者ではないだろうによく気を許して固定パーティを組んでくれたものだ。


 悪い人ではないだろう、少なくとも俺と初めて会った時は随分と警戒された。それはそうだ、コンバートしてきたばかりの世界でメール機能を使って連絡する男なんてナンパ野郎を疑いたくなる。そんなラピスたちに対して過保護な人だからこそ、俺も素性を明かしたのだった。



──────



 フワマリンネに乗って世界を渡る。まさか、風船に捕まって移動するとは思わなかった。


「ついたー!」

「いいね!」

「ほれ、バカなこと言っとらんでお主の仲間たちの元に案内せい」


 ミコはカゲミツと手合わせをしたがっているためラピスを急かす。俺の目から見ても二人の槍術のレベルは高く興味がある。


「よっ! 久しぶりだなナツキ。おせーから迎えに来てやったぜ」

「あ、ジャスターさん。⋯⋯それにみんなも、⋯⋯ってプリアちゃんは?」

「あんたを追ってそっちに行ったけど、まだ連絡してないんだね。まあ、あの子は高い理想があるから多分ラピスと再会できるのはもうちょい先かな」


 狐耳に和服を着崩して巨斧を背負った白髪の男、ジャスター。彼から離れていた時間を感じさせないフレンドリーな挨拶を受けて振り返るとそこにはいつもの道着を着て緑髪にエルフ耳で長槍を手にしているカゲミツと、マーメイドスカートの美しいドレスを着た恋人、エミルがいた。


 プリアの件は先にエミルから聞いており、実は俺は既に会っておりフレンド登録までしてあるがラピスには黙っている。そのため、この場にいないのは知っていた。


「姿と名前が変わってもわかるものなのか?」

「そんなのラピスがそばにいるからな。ならナツキはお前しかいないだろ」


 違いない、と笑い。この感じがひどく懐かしくも嬉しい。そういえば今の俺は"セピア"だったな。


「闇夜の空を引き裂いて、舞う星は魔術の使い魔、眠れ日が昇るまで、今宵は静寂の宴なり、目覚めよ幻影の梟、ファイング」


 いつもの呪文を唱え、"ナツキ"へと変身する。


「久しぶり、それと───ただいま」


 仲間たちはどんなに離れていても仲間だった。会った瞬間にそれを感じ、負い目も忘れて再会を喜んだ。


 七夕の奇跡、ラピスとの再会から再び縁が交わった仲間との再会に感謝を。


「っは! お前は相変わらずだな。そんな人の気持ちばかり読もうとせずとも俺たちは変わらないと伝えておいただろ」


 カゲミツが少し不機嫌だ。だがそこはカゲミツの言葉を信じきれなかった俺が悪いと甘んじて受け止めよう。


「彦星ナツキ、織姫エミルと仲間たちに逢いに世界を超えてきました」


 セピアの時に使っている演技口調でそんなことを言ってみると"俺たちはおまけか"だの、"わっちらお邪魔虫は観光でもいこうかの"などとてもヤジられた。


 だが、誰もが笑ってくれている。俺はお前ら全員が大好きだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。