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第28話 栗毛武道家、ボス・フワマリンネと戦う。

 扉の向こうには祭壇があり、禍々しく渦を巻いた模様の巨大なフワマルが鎖に繋がれていました。


「これがこの地の厄災[フワマリンネ]かのう」

「大きいね〜、これを倒すの?」

「ちなみに回復アイテムの残数とか大丈夫?」

「私は大丈夫だよー」


 フワマリンネは明らかに強敵な雰囲気を感じますがカザグルの街はこの世界に降り立った最初の街からほど近い第二の街であり、フワマルも初心者でも狩れる強さなので頑張れば倒せる強さだとは思います。しかし、聖職者(ヒーラー)がいないので回復アイテムの残数に注意して、出来る限り回避とHP安全マージンを優先することを二人に念押ししました。


「でミコさん、そのフワマリンネって名前と情報は?」

「このダンジョン内の脇道にそれた小部屋に名前と厄災とだけ書かれておった。それ以上はわっちにもわからんわい」


 なら、ぶっつけ本番で行動を覚えるしかありません。いざ。


「ちょっと待つのじゃ、ラピス」


 前衛の私がタゲ取りでファーストアタックを決めようとするとミコさんから待ったがかかりました。


「お主、わっちと同レベルの者とパーティを組んでおったのじゃろ? さらに言えば元聖女というトップヒーラーだったという。わっちの動きを見ての反応は信じるに値し、宝玉と情報をくれたお主らの性格に感謝して、コレを貸しておく」


 ミコさんに渡されたのは腕防具"次元の巾着袋"、信玄袋・合財袋とも呼ばれるサイズの大きな巾着袋は手に持たないといけない縛りのため腕防具の分類分けに納得しました。


「その巾着袋は消耗品に分類されるアイテムが150個ほど収納できる腕防具じゃ。まあ、腕防具と言いつつ防御力は最低の1なのじゃがな」


 そう言われて中身を確認します。中には呪符47枚、初心者用回復薬100個が入っていました。


「お主の判断で回復薬は投げてくれんかのぅ。そうすればわっちたちは攻撃に集中できる。どのみちラピス、拳術しか持たぬお主はフワマル相手にターゲット分散と壁くらいしかなれんじゃろ。なら、今だけは"聖女"としてわっちらを支援してくれんかの?」


 確かに打撃耐性が恐らくあるフワマリンネ相手では私は壁としてターゲットコントロールによるダメージ分散や隙を作る役割くらいしかありませんし、ボスであるフワマリンネなのでダメージ次第ではそれも危ういです。ならば私も動きながらミコさんと前衛として避けるのを主体に立ち回り、必要に応じて回復アイテムを投げてヒーラーもこなすのは理にかなってます。しかし。


「わかりました。けど、ミコさんの回復アイテムは大丈夫なのですか?」


 アイテムポーチの消耗品枠は20個、コンバートしてきた貴重な装備と回復アイテムの大半、ある意味で私に命を預けてるようなものですね。


「かまわぬ。呪符5枚、初心者用回復薬15個あればお主が立て直す為の時間は耐えられる」

「ラピスちゃん、私も魔法をずっと撃つからHP管理をお願いね」


 パーティメンバーからの期待が重いです。けど、"聖女"として私は期待に応えてやり遂げましょう。それが私を紛い物でも"聖女"にしてくれる二人の優しさなのだから。


「任されたよ。絶対にクリアしようね」

「うむ、ではいくぞ」

「おーっ!」


 初撃を入れたのは私で、フワマリンネは渦の模様を動かしながら太い声で叫びます。


「放水 (アクアディスチャージ)ッ!」

「っふ、っふん! やぁ! ───刺突・一点ッ!」


 動き出すまでに今の最高火力スキルをアユちゃんが、先ほどと同じ動きで的確にミコさんが攻撃を行い、フワマリンネに微細な傷が刻まれます。


「きますっ!」


ゴウッ!


 フワマリンネは大きく膨れ上がり突風を吐き出しました。私は飛ばされて少しだけダメージを負いますがまだ回復アイテムを使うほどではないので自身は後回しで即周りの確認を行います。


「ミコさんッ! アユちゃんの方へ行かせないでッ!」

「任されたッ! 刺突・推飛ッ!」


 一緒に飛ばされたミコさんが慌ててフワマリンネに接近し、後退効果(ノックバック)のあるスキルを放ちアユちゃんから距離を取らせます。


「ねえ、ミコさん。もしかしてなんだけど」

「あぁ、アレじゃな」


 普通に考えてアユちゃんだけが装備している町長からのバッジがこの攻撃を防ぐ鍵だと私たちは推測してアクセサリーを切り替えます。


「わっちのアクセサリー"凛鈴"の効果は最大HP+10%じゃ、装備変更でHP管理の割合が変わっておるから注意するのじゃ」


 狐耳の横に付いていた大きな鈴を外し、胸に"新風の証"を装備したミコさんが叫びます。私も"星流の指輪"を外しているので防御力が大幅に低下しました。


「フワマリンネに触れたのじゃがな、ダメージ判定はなかったのじゃ。おそらくヤツが押し潰すために体を傾けた方向にダメージ判定が発生するとわっちは思うがどうじゃ」


 舞うような通常攻撃を重ねながらミコさんが推測を語ります。


「もしそうなら突風は対策したし、ミコさんなら避けられるから余裕だね」


 そう思っていたのですが、フワマリンネHPが減り、名前が橙色に変化した時に行動パターンも変化しました。


パリンッ!


「ちょ、黒い渦が伸びてくるなんて聞いてないよー」


 私の投げた初心者回復薬を浴びながらアユちゃんが理不尽だーと叫んでいます。ですが、今はそれよりも気になることがあります。


パリンッ!


「アユちゃん、毒になってる。しばらく大技に気をつけてね」

「はーい。って毒かー」


 アユちゃんが距離を多めに取りながら放水より低威力の泡を射程ギリギリから連打します。泡の方が詠唱時間、クールタイムが短いので戦線を維持するのに適していますのでアユちゃんの行動は最善手です。


パリンッ!

「アユちゃん、ナイス! 毒終わってるからまた戻って」

「りょーかい! あ、ラピスちゃん、試したいことがあるからミコさんと少し頑張ってもらってもいいかな」

「わかったよ。ミコさん、そういうことだから少し粘りましょう」

「隅に座ってMP回復とは、何かしら気付いたのかのう」


パリンッ! パリンッ! パリンッ!


「っふ、っふん! やぁ! ───刺突・一点ッ!」

「えいっ、正拳突きっ、えいっ、正拳突きっ、えいっ、正拳突きッ!」


 何かしらも考えが確かにありそうなのを感じたのでアユちゃんを信じて待ちながら初心者用回復薬を使って耐えます。その間もミコさんは通常攻撃とスキルを駆使してダメージを蓄積し、私もたとえ1ダメージでも積み上げながらアユちゃんがターゲットにならないようにモンスターの注意を引きつけます。


「名前が赤く変わったなも! 残りHP2割じゃがまだ行動パターンが変わるぞい」

「お待たせ。それじゃ、ゴリ押し(・・・・)初めよっか」


 アユちゃんが再び戦線に戻ります。


「ラピスちゃん、私ちょっと集中するから、とにかく回復お願いね」

「うん! それじゃ、やっちゃえッ!」

「放水 (アクアディスチャージ)ッ! ホーリーアドオン(聖属性追加)ッ!」


 私の声と同時にアユちゃんがスキルを使います。さっきまでと違い聖職者の隠しスキルであるホーリーアドオン(聖属性追加)を放水に掛けます。


「おー、効いておるぞ!」


 ミコさんの声でフワマリンネをよく見ると渦が苦しんでいるようにうねっていました。


「ビンゴッ! さっき毒の状態異常をもらったからさ、聖属性に弱いと思ったんだよね。ただ、連携スキルってMPすっごい使うからMP最大まで回復しておいたよ。行動パターンが変わるタイミングバッチリなのは想定外だけど」


パリンッ!


「ラピス、あとはアユの言うようにゴリ押しした方が良ざけじゃ。あれは躱わしきれんわい」


 ミコさんは何本もに増えた触手のような渦を見据えてアユちゃんに賭けることに賛同してくれました。


「じゃあ、お願いッ!」

「任せてッ!」


パリンッ! パリンッ! パリンッ!


 初心者用回復薬の残数が30本を切る頃、終わりは突然やってきました。


ウゴォオオオオオオ


 悲鳴を残して禍々しい渦がフワマリンネから離れていき、そのままアユちゃんの聖なる放水を浴びて消滅しました。


「「「やったーーー!」」のじゃ」


 私たち3人で喜びを分かち合い、ボス・フワマリンネとの戦いは終わりました。

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