第23話 栗毛武道家、報酬を受け取る。
「やったー!」
「お疲れ様〜! アユちゃん頑張ったねー」
風車の街・ガザグルでのクエスト制覇に向けてアユちゃんと狩りを初めて数日が経ち、遂に最後のクエストをクリアしました。
「おおー。まさか大風車が甦るとは⋯⋯、お主たちのおかげでこのカザグルの街は更なる発展をしていくであろう」
最後は町長さんからの依頼で、街にある一番大きな風車の修理のために化け石と木子犬 各30体討伐、花虫の糸 10個納品を行った後に、風車の回転に誘われてやってきた化け風船 50体討伐で構成された連続クエストをクリアして今は町長さんに報告を終えたところです。
「まさか最後のクエストが耐性持ちだとは思わなかったよね」
「だよねー。ウッディと初めて戦った時は泡も放水もダメージが 1で焦ったよ。ラピスちゃんのフワマルでの面白い感じをいじってごめんね!」
「いいよ、許す! 代わりに私もアユちゃんのあたふたした姿をいじるから」
「あたたー、甘んじて受けさせていただきますっ」
「なんてねっ! 冗談だよ〜、痛み分けだね」
「あはは、そうしてくれると助かるかな」
町長の長い話を聞き流しつつ私たちは笑い合います。この時間を共有している感じがオンラインゲームの良さであり、それを感じれらるMSOの仲間たちと同じ空気感があるアユちゃんが私の友達で良かったと思いました。
「それにしても酷いクエストだよ。イワマルは火・斬撃耐性、ウッディは水・突撃耐性、ヨウチューは土耐性、それにフワマルは風・打撃耐性とか一人でクリアさせる気がなさすぎ」
「けど楽しかったよね〜。それに耐性持ちって言っても 1ダメージは通るんだからさ、時間を、それこそ何日もかければクリアできないかな?」
「そうだけどさ、こんな初心者の行ける街でそこまでしてクリアするようなクエストかな?」
「あはは⋯⋯、報酬はコレだもんね」
私が文句を言って拗ねていると、たった今貰ったばかりのアイテムを装備したアユちゃんが苦笑しました。
【新風の証】素早さ +8、バッジ(重鎧装備時は装備不可)
ステータスの上昇値は高く、アクセサリー部位の装備は貴重なのですが、基本的に後衛の魔法職にはAGIより優先したいステータスや効果の付いたアクセサリーを装備したいため今、装備する物がなくて付けているアユちゃんもすぐに使わなくなります。
「私は装備すら出来ないけどね⋯⋯」
コンバートにより持ってきた装備の中で、武道家の装備できるのは条件のない"夜天の指輪"のみ、このアクセサリー部位のおかげで序盤とはいえモンスターの攻撃を耐えられているので私は装備出来ないのです。
「防御力を重鎧で補うとバッジが刺さらないため装備不可とか、そんなリアリティもいりませんっ!」
「大丈夫だよ、ラピスちゃんっ! パーティを組めば前衛の壁役の人が攻撃を受け止めてくれるし、それにラピスちゃんって筋力を上げているんだから役割分担できれば火力役として手数を増やせるAGIも必要になるでしょ? だから落ち込まないでっ!」
私が うがー としているとアユちゃんが励ましてくれました。ちなみに町長の長い話はまだ続いています。
「それにしてもさ、この街だけでもクエスト制覇するのけっこう大変だったねー」
「けど、クエスト内容ってお使いと討伐依頼ばかりだったし、町長さんのクエストはいわゆる"ボス"ってヤツが出てきても良かったよねー」
「しょうがないよー、まだ序盤の街だもん。変わったクエストとかはまだお預けだね」
「はーい。⋯⋯ねえ、ラピスちゃん」
「なに?」
「───次はどの街へ行こっか!」
この明るさ、私を連れて行ってくれる安心感、だから私はアユちゃんが大好きです。
「そうだねっ! じゃあ、どこ行くか地図を見て決めようよ」
「うん、いいねっ!」
アユちゃんが楽しそうにさっそく地図を展開して次の街を考え始めたので私も展開して確認します。流石にこの街での全クエスト制覇をする間にお金は溜まっていますので周辺の地図はアップデート済みです。
「ホルス帝国はダーマラス大陸の北に位置する国だから周辺地図しか分からなくても南に行く方が人が多いと思う。そっち方面にある二つの街のどっちがいい?」
「そっか、なら北だね!」
「アユちゃん、私の話聞いてた?!」
「聞いてたよ〜?みんなが南に向かうから北は人が少ないんだよね?」
「そうだよ。南に行けばパーティとか組みやすいし、首都なら特に装備とかアイテムの売買とか盛んなはずだから」
この大陸には3つの国があり、首都はそれぞれの国の中心に位置していたはずです。スクリーンショットに地図が写らない仕様なので先人たちによる攻略掲示板からの情報ですが。
「けどさっ! それって定石だよね? 私たちはこの世界では冒険者なんだよ。冒険しなくてどうするの? 地図がプレイヤー同士で共有できないなら、そういう人の行かなそうなところに誰も見つけてない何かあるかもしれないじゃん。だからね───一緒に冒険しよ? 私はラピスちゃんと冒険したいの」
アユちゃんが私の手を握って冒険したいと訴えてきましたけど私は⋯⋯。
「⋯⋯うん。⋯⋯私も冒険がしたい⋯⋯ですっ」
私はアユちゃんと冒険をしたいと思っていたのでしょうか? 結局は効率、効率、効率。強くなるために効率を求める事に夢中で辛い思いをしていて離れていったナツキさんが近くにいたのに⋯⋯。私はまた繰り返しかけた事に心が痛み、涙が出てきました。
「───ラピスちゃん、大丈夫だよ。ラピスちゃんが私と同じ気持ちってのは伝わっているから。大丈夫だよ」
アユちゃんの抱擁に甘えて仮想世界の中で泣きました。こんな私の感情を再現するリアリティは本当にいらないと思うのに、茉実ちゃんの優しさのリアリティは本物であって欲しいと願うのは都合が良すぎるでしょうか。
「⋯⋯ん、もう大丈夫だよ。ありがとう」
落ち着いた私はアユちゃんから離れます。⋯⋯失礼かもしれませんが、少しだけアユちゃんが"お母さん"に見えました。
「北じゃ、北へ行くのじゃ」
「えっ! 誰!?⋯⋯って町長さんか」
アユちゃんが急に背後からに声をかけられたため驚いて声を上げました。私はアユちゃんとの距離が近くてアユちゃんに隠れていて見えてませんがどうやら町長さんのようです。




