第21話 【父の日】ジョン、プレゼントを貰う。
私、ジョン・ラズベリーが妻を亡くし、男手一つで娘のラピスを育て始めてからもう 5年も経った。
「ラピス、学校は楽しいか?」
「うんっ! みんなね、私の髪を綺麗だねって言ってくれるんだよ 」
そんな話をしていたのは小学校低学年までだったな。ラピスは運動以外は何でもそつなくこなす子で、容姿とその勉強の出来から疎まれ始めたと悲しそうに話をするようになったが、そんなラピスを妻が支えていたんだ。
「いい? ラピス、あなたが可愛いのは誇っていいのよ」
「⋯⋯ほんとに?」
「だって私とこの人の自慢の子だもの。髪と瞳はお父さんからの贈り物なのよ? あなたが笑っていれば妬んでいる子すらも嫉妬するほどの人気者になれるわ」
「⋯⋯妬まれたままなんだ」
「万人に好かれるなんて無理よ。あなた、お父さんらしくそこは教えてあげて」
目線を合わせてラピスに話しかけていた妻が私の方を見て話を振ってくる。確かに先人からの言葉の方が重みがあるため素直に従うことにした。
「お父さんはな、この国に来て母さんに出会うまでそれこそ色々な苦労があったんだ。なんたってラピスと同じ色の髪と瞳だからな」
ラピスは優しい、それだけで十分に伝わったからハッとした表情をしたのだと私にはわかる。
「けれど母さんに出会って、⋯⋯まあ、色々あったんだが、笑うようになったら周りに人が集まって来たんだ。そこからは何もかも上手くいった。だから笑え」
「私たちの宝物、───ラピスは輝いてこそ宝物なのよ」
そんな彼女がこの世を去った。原因は交通事故、自動運転車の整備不良だったらしいが、私たちは心の準備をする間も無く彼女と今生の別となった。
「お母さん、お母さん⋯⋯っ!」
葬儀には様々な人が多く訪れた。それだけ彼女、春菜・ラズベリーが慕われていたと言うことで、私とラピスにとっても喪失感は大きかった。
「ご馳走様⋯⋯」
私はその心に空いた穴を埋めるために我武者羅に働いた。ラピスとも最低限のやりとりはするがすぐに部屋に引き篭もってしまう。恐らくは容姿のことでまた何か言われて私の姿を見て自分を重ねてしまうのが嫌なのだろう。
妻が亡くなった直後のラピスは髪も萎れ、瞳からも輝きが消えていた。そんなあの子を見た子どもが心無い言葉を放ったのは容易に想像できた。
「子どものイジメは何も考えずに行うから残酷だな」
ラピスはそのまま学校へは行かずに小学校を卒業した。私は学校へは無理に行かせず、VRゲーム機とVRMMORPGのソフトを与えた。
「ご馳走様」
いつもと変わらない言葉、それでも変化を感じた。少しでも気力が回復している、その事にネットの向こうの誰かに感謝した。
そして、半年が経過したころに普通に会話ができるようになり、一年が経つ頃には勉強がしたいと言い出した。
「わかった。テキストを買っておく」
「ありがとう、お父さん」
聞き間違いかと思ったが目を逸らされた。少なくとも大嫌いになっていた自分と同じ容姿の私を認めてくれた。その事が嬉しかった。
そこからは人が変わったように明るくなっていった。勉強も、元々が出来ていて覚えもいいので中学までに覚える範囲は問題ないだろう。
「お父さん、高校に行きたいんだ。勉強なら大丈夫だよ。ナツキさんがわからないことを教えてくれたから」
「⋯⋯そうか、高校は義務教育じゃないから私がおまえには無理だと思ったら辞めさせるからな」
高校はクラスメイトがガラリと変わる。もちろんラピスを知っている者もいるだろうが大半は知らないはずだ。勉強が出来ることと、学校に行けることは別物で、それでも将来のためにやはり高校は卒業しておいて欲しいと思うのが親心なのだろうか。
──────
心配は杞憂に終わった。いい友達が出来たようで今日は友達と買い物に行くと言って出掛けて行った。
「ただいまー!」
「おかえり」
オシャレなプレゼント袋を抱えて最愛の娘が帰ってきた。
「楽しかったか?」
「うんっ! 茉実ちゃんって色々と知っててね、トレンドって言うのかな? 流行りに敏感でね、いい買い物が出来たよ」
やはりラピスは楽しそうにしている姿が一番可愛い、そんなことを思ってしまうのは親バカなのだろうか。
「ラピスがお世話になっているようで悪いな。今度お礼を言いたいから機会があれば連れて来なさい」
「ひどいっ! けど、そのうち茉実ちゃんを紹介するね」
それにしてもプレゼント袋を抱えて持ち歩くとはよほど大切なモノを貰ったのだろう。娘の姿に微笑ましく思う。
「友達からのプレゼントか、良かったな」
それについて話題を振るとラピスはキョトンとしてから首をブンブンと振った。
「違うよ! ⋯⋯はい、これ。お父さんにプレゼントだよ。今日は父の日だから」
しばらく硬直してから言葉の意味を理解した。引き篭もりだったあのラピスが父の日にプレゼントをくれたのだ。驚かずにいられない。
「もう、何か言うことあるでしょ」
「あ、あぁ、ありがとう、ラピス」
「⋯⋯どういたしまして」
おちゃらけてるようで照れている娘を見て、こちらまで照れてしまう。
「中、見てもいいか?」
「そんな確認いらないから早く見てよー」
中から出て来たのはネクタイピン、シンプルなデザインに小さな苺が添えられた可愛らしいモノだった。
「⋯⋯ありがとう、大切にする」
「⋯⋯ちゃんと使ってよね」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分、それでも嬉しさが上回る。恥ずかしいが明日から会社に付けていくことになりそうだ。
「ご馳走様っ!」
あの日から父の日や誕生日に何か貰ったことはない。これは本当に"茉実ちゃん"とやらにどんなお返しをすべきか悩みだしたが、渡した側も恥ずかしかったのか、ラピスは勢いよく逃げようとした。
「本当にありがとう」
「⋯⋯どういたしまして。私こそいつもありがとうね、お父さん」
私はこの日を忘れないだろう。そして、このネクタイピンは墓場まで持っていくことを決める。けれど本当に嬉しいのは別にもあった。
「ラピス、おまえが友達と遊びに出掛けられるようになって、笑って話してくれることに勝るとも劣らないプレゼントだよ」
その晩、あまり年頃の娘にすべきことではないが寝静まった部屋に入って寝顔を覗くとそこには天使がいた。
「おやすみ、ラピス」
部屋から出るために振り返るとVRゲーム機が目に入る。
「この子を救ってくれてありがとう」
こうして今日はジョンにとって最高の父の日になった。




