第19話 魔女っ子、友達の後を追う。
ここ輝夜世界の大聖堂にある夜天を司る女神カスピエッタの像は、あの夜と同じように月明かりに照らされています。だけど私の門出は少し前に旅立った友達と同じように見えて少し違う、そこにあるのは私のための別れの景色でした。
「アンタは本当にあの子の事が好きだね」
「うん!私、ラピスちゃんのことが大好きだから!」
そう言って呆れているのはギルドマスターのエミルさん。これまで何度もあの人から溢されたいつもの言葉に私はいつもの返事をします。けれど今日は、今日だけはいつも思ってはいたけれど言わなかった言葉を、見送りに来てくれた人たちに伝えます。
「だけど、みんなのことも大好きだよ!」
ラピスちゃんの時は私を含めた大勢の人がいましたけど、私の目の前には"第六天明王"の初期メンバーだった 3人しかいません。けれど当然かも知れません。
「私、火力馬鹿だけどね、それでもいいって言ってくれたみんなのこと、本当に好きだから。最後くらいは素直になるね」
私は知らない人と組む野良パーティには入れません。それは私が知力極振りの紙装甲、防具も全部が火力アップのための付与効果なので流れ弾が掠っただけですぐに"死亡"してしまうのです。そんな私がソロでモンスターを射程外から一確狩りしているのを見てパーティにスカウトしてくれたのは栗毛の聖女でした。
「あの時、パーティに誘ってくれてありがとう!」
VRMMORPGは素早さにステータスをある程度を振って回避行動を行うか、体力に多く振ってモンスターの攻撃にアップデートのたびに耐えられるように伸ばしていくことになりますが、魔法使いは呪文詠唱時間の間は動く事が出来ないので防御のステータスは基本的にVITを選択することになります。
「それはお互い様だ。俺はAGI寄りの武道家で火力が足りんからな、エミルやジャスターも似たようなもんだろ」
「あはは⋯⋯、事実だけどカゲミツが言うとサマになりすぎて私のギルドマスターとしての存在感が薄れるんだよね」
「ふん、知らんわ」
カゲミツさんはAGIに多く振った武道家で手数で攻めるタイプなので複数体の乱戦は苦手ですし、エミルさんはVIT寄りの耐久型でスキル系統も騎士の守護者系統を上げているので全く火力はありませんでした。盾となる前衛、しかも防御ステータス振りの 2人がいたから私は安心して魔法を放てました。
「オレは違うだろーが!この斧ですっげーダメージ出してるだろ」
「はあ⋯⋯、空気は読め。それでもお前もプリアの魔法には助けられただろ」
「まあ、確かに。ありがとうな」
ジャスターは筋力極振り、つまり脳筋ステータスで私と似ています。それでもMMORPG故にモンスターごとに耐性が顕著にあり、お互いに補っていたと私は思っています。
「ラピスのヤツがいなくなって代わりを頼んでも誰もオレらのパーティで回復役を 1人でこなせないとかアイツやっぱり凄かったんだな」
「当然だよ、私の友達だもん!ラピスちゃんって相手の欲しいものが分かるような感じでいいタイミングで支援スキルをくれるんだよ?だからギリギリの回復スキルになったりしてたけど戦いやすかったでしょ?」
私は"夜天の宝玉"をくれた日からラピスちゃんに夢中です。それは躊躇いなく貴重な高レアリティアイテムを数回パーティを組んだだけの私にくれた理由が知りたくてでした。後衛として後ろで魔法を唱えていると前衛の動きが分かるのですが、ラピスちゃんは防御支援、火力支援をこれ以上ないタイミングで行っていました。
「あの子は周りに気を使いすぎてるんだよ。そのせいで視野が広くなりすぎて自分がない、欲がない。あの子のログイン時間は子どものソレじゃない」
「私だってそれくらい分かってます。だから例えネットの中だけの関係でも私は友達としてラピスちゃんと共にいたんです」
「なんだ。普通に話せるじゃないか」
あ、と気付いた時には 3人ともニヤニヤしながら私を見ていましたが素がでるのも仕方がないですね。だってそれは私がラピスちゃんの行動をずっと見てて感じていた事で、あの子は嫌われるくらいなら躊躇いなく自分を犠牲にする。だからウザいくらいラピスちゃん好き好きって付き纏っていたのは善意につけ込む悪いヤツから守るための演技でした。
「上辺を偽るのは大人になったら嫌でもするようになる。お前もまだ子どもだ、それを忘れるなよ」
「わかりました。───けど、ラピスちゃんの前では偽ろうと思います。それは友達の仮面ですから」
「ふん、好きにしろ」
言うならたまたま繋がっただけの関係、通信切断のように突然途切れるかもしれない関係、それがネットゲームのフレンドだから私は大切にしたい。いつか脱ぐ時が来るとしてもその時まで演じ続けよう、あの子のための友達の仮面を。
「プリア、ナツキからの情報でラピスが聖女を辞めたのは知っているな?」
「ええ、なので職業制限のない装備をあちらに持ち込みます」
「急に喋り方が変わりすぎだろ」
ジャスターさんが変な顔していますけど、最後くらいは素直になるって言いましたしね。まあ、ここまでするつもりもなく暴かれた素顔ってヤツでしたけど。
「大丈夫ですよ、私は私ですから。喋り方が変わっただけで別人にはなりませんよ。それに火力馬鹿は火力馬鹿らしいスキルを取りたいところにちょうどいい職業がありましたので」
「あー、なるほどね」
「俺はお前にアレについて教えてないが大丈夫か?」
「問題ありません。ずっと見てましたから」
私のなりたい職業、エミルさんとカゲミツさんは気付いたみたいですね。ジャスターさんは考え込んでますけど、そろそろ行こうと思います。
「それじゃあ、そろそろコンバートの手続きをします。お世話になりました」
数日前のあの時を思い出す。あの子は何と言ったのかまで私は覚えている。
『新たな地へ旅立つ覚悟はよろしいのです
ね?』
「はい。覚悟は出来ております」
魔法使いとして育てたスキルを破棄する覚悟も出来ています。思い出と"仲間"との絆は消えないから次の世界に持っていきます。色々とコンバート完了までの300秒の間に話しました。連絡はセピアという名でいるナツキさんを通せばできるし、MSOではやらなかったけだオフ会を開くのもやぶさかではないということを話して、再会もできる縁を残して私は旅立ちます。
「ラピスちゃんは友達だけど、エミルさん、カゲミツさん、ジャスターさん。みんなも大切な仲間だよ!」
もう時間ですね。エミルさんに最後のヤツやって欲しかったんだけどダメかな。
「当たり前だ」
「オレもだ」
「⋯⋯こほん。───もしこの夜天に帳が下りる日がこようものなら我らは太陽の元へ集おう。新たな世界での"仲間たる"汝に祝福あれ!」
見つめらられたエミルさんが恥ずかしそうにラピスちゃんの時と少しだけ変えて私のためにやってくれました。ラピスちゃんは仲間だけど私は素を晒してようやく仲間になったと認めてくれたってことかなと思いました。
「みんな、またね!」
みんなとの再会を祈って、栗毛の聖女との再会を祈って、先に旅立ったあの子と同じ言葉を残して私は"夜会"のドレス姿で世界を超えました。




