第150話 栗毛聖女、別荘を手に入れる。
決勝戦が始まり、さっそくミナツちゃんのサーブがハナさんに対して決まります。
「ミナツ、ナイスサーブ!」
「ありがとうございます。けれど、反応できない速度でもないでしょうに見送りましたわね……」
コータのサーブとは違い、緩い弧を描いたミナツちゃんのサーブは確実にサービスコートに入れることを重点を置いています。ここまで来るまでに何度も、というよりは大抵は打ち返されてラリーで決定打を拾ってきたので決勝戦でサービスエースが決まったことに不安になっているようです。
「ボクらを甘く見てるうちに点数を取っていこう」
「そうですね。別荘という賞品がかかっている以上、手は抜けませんわね」
気合を入れる二人とは対照的にアレスさんがどんまいどんまいと軽い感じでフォローしているのが気がかりです。
「ハナさんのことだしこの試合、動画で撮ってるのかな?」
「だろうね~。あの人、抜けてるようでそういうところはしっかりとしてるから」
アユちゃんも同じ意見らしく、あのエンターテイナーなハナさんが何もしないわけがないと考えているようです。様子を見ているとアレスさんがレシーバーになった次のゲームを華麗に打ち返しラリーに繋げます。
「ハナさん動かないね~」
「いや、もしかしますと達人の域に達したプレイヤーが使えるというゾーンというものかもしれませんですぞ!」
「動かなくても自分のところに全てのボールが集まるというあのゾーン!?」
「違うと思うわ~。私の見る限りあれは逆ゾーンだと思うのよね~」
ひたすらボールを拾い続けるアレスさんをよそに、微動だにしないハナさんに対してみんながゾーンが使えると勝手な憶測始めました。しかし、マリアさんの一言でみんなが凍り付きます。
「え、まさか完全な初心者ですか!?」
「そうだと思うのよね~。逆に相手は可哀そうだから下がった位置に中心付近にいるハナさんを狙えなくて左右に振るしかなくなっているというか~」
「じゃあ、ドロップショットでネット手前に落とせば勝てるじゃん」
アユちゃんが必勝法を思い付いたかの如く、よく漫画やアニメ、ゲームで見るボールにスピンをかけることで跳ねない打ち方、いわゆるドロップショットを使えばといいますがマヤさんが悲しい表情をして現実を突き付けます。
「あーしら、全員がラリーが出来る程度にテニスが出来るとはいえ初心者っすよ? いくらコータとミナツちゃんでも無理っすよ」
「あっ……、このテニスって試合であってもゲームじゃないもんね……」
素ステータスが反映されるアバターの性能以外は完全にテニスの実力での戦い。ロブやドロップ、カーブと呼ばれる特殊なショットが簡単に打てるのはゲームだからなのだと思い出します。
「えっ、ラピスちゃん。それってつまりアレスさんの腕だけで勝ち上がってきたってこと?」
「たぶん……そうだと思う」
「あーしには縁がないっすけど、もしかしたら社会人テニスサークルとかに入ってるのかもしれないっすね」
そんな話をしているうちにアレスさんがどんどん変化球を多用しコータたちを追い詰めていきます。―――と思ったのですが二人からのサーブを全て決められて、自分のサーブが全て決まらないハナさんのおかげで接戦となっていました。
「デュースッ! ――――――アドバンテージ、リトル・ア・ポコ!」
いよいよあと2ポイント連取で決着が着くところまで来ました。そのままハナさんのサーブミスで残り1ポイントで勝てる状況。次はコータのサーブでアレスさんに打ち返されます。
「コータくん! 前っ!」
ポン。ミナツちゃんが優しく斜めに、ストレートボールながらも出来る限りネットに寄せて打ち返します。
「っく! それくらい対応できる!」
ぽーん。間に合ったアレスさんが打ち返したボールはこれまでよりも甘く……空へと上がりました。
「サンキュー。これで終わりだよ!」
バンッ! 派手な音を出してコータがラケットを振りぬきました。恐らくはスマッシュと呼ばれるような鋭い打球がハナさんの足元目掛けて打ち込まれます。
「ハナー!」
「え、きゃっ!」
置物と化していたハナさんは急に自分に向かってきたボールに反応できず尻餅をついてしまいました。
「ゲームセットッ! マッチウォンバイ、リトリ・ア・ポコ! 優勝はリトル・ア・ポコ!!!」
「勝ったぁ~~~!!!」
「お疲れさま二人とも!」
サイドのベンチから私たちは二人に駆け寄ります。
「いい勝負だった。本気でやって子ども相手に負けるとは思わなかったよ」
「そんなことないぜ。アレスさんの技術はずっとテニスしてきた大人って感じですげーかっこよかったし、ハナさん以外が相棒だったらボクらがきっと負けてた」
「そうですね。ハナさんが置物で助かりました」
「いや、置物じゃないとオレとブツかってもっと酷いことになってしまうんだ」
「そんなこと言われたってさ。他のメンバーがみんな都合が悪かったんだししかたがないじゃん。それに私ってか弱い乙女だし……」
なかなかの言われようにハナさんがついにいじけてしまい、一生懸命アレスさんが慰めに入ります。
「そういえば最後、コータくんって私を狙ったよね!?」
「あははは……、半分はね。ずっと棒立ちだったから試合にちゃんと参加して欲しいって気持ちと、スマッシュっぽいのを打つ時にボクには角度を変えて狙いを付ける技術がなかったからだけど」
コータの言葉を聞いてハナさんも溜息をつきながらしょうがないなーと許しているようで安心しました。
「それよりもハナさん、絶対動画取ってたでしょ!」
「Flowerさんの編集であの試合がどうなるかとっても楽しみです~!」
詰め寄るアユちゃんとマリアさんが対照的は反応をしていて面白かったです。
「優勝おめでとうございます。こちらは賞品の別荘のカギです。今、お使いにならている別荘をそのまま今後も使用していただいて結構です。とてもよい余興となったようで大地主様もご満足されたようです」
「……大地主様?」
「もしかしてイベントがそのまま続くっぽいっすか?」
満足げに頷く審判が招待状を私とアレスさんに渡してきました。恐らくは決勝まで残ったギルドのマスターに渡すようになっているのだと思います。
「大地主様はしばらくこちらにある別宅に滞在されています。よろしければお時間がある時に皆さまでそちらに記載されている別宅までお越しください。招待状を見せれば門番が通してくれます」
テニスイベントでギルドの別荘を私たちは手に入れました。そして、そのままこのリゾート地の大地主様と面会できるようでアレスさんたちと話し合って後日でみんなの都合のいい日程で調整したのでした。




