第149話 栗毛聖女、テニスの試合を観戦する。
照りつける太陽を遮る森林の木陰、近くを流れる湖へと続く小川、回る水車と川のせせらぎが私たちの五感をこれでもかと涼しくしてくれています。
「これより第一試合を開始します! 両チーム、準備をお願いします!」
そんな避暑地の一角で拡声器を用いたNPCが審判台の上からテニスコートのベンチにいる私たちに向けて声をかけてきました。
「それじゃ、いってくるの」
「ラピスちゃんたちは安心して待っててください。必ず勝ってきますから」
コータとミナツちゃんがテニスコートへと歩み出ます。二人は私たちギルドで一番テニスが強いプレイヤーなのでリトル・ア・ポコの代表として戦ってもらうことになりました。
「くぅー! 私に近接戦闘の才能があればー!」
「それを言ったら私もだよ。ボールを対象に取れないって私の天敵な仕様のスポーツだよ。それよりもアユちゃんも応援だよ! コータぁー! ミナツちゃーん! がんばってー!」
この山奈河町では滞在中はギルド単位で別荘を借りることができて、別荘滞在中は釣りにウォーキング、サイクリング、テニスにゴルフ、バーベキューといった様々なアウトドア体験を行うことができる仕様だったので満喫してきました。もちろん、インドア設備も充実しており、ヤスナガさんとリョウさんが主体となってボートゲーム大会も開かれました。
「けどさ、なかなかに太っ腹な運営だよね」
「うん。それに面白い試みだとは思う」
MSOではギルドホームは大金を支払い手にするものでした。そのお金を稼ぐ工程をみんなで協力することで団結を強化する狙いがありましたが……。
「はっはっは! 優勝賞品がギルドホーム(別荘)とはなかなかでござるな!」
そんな息抜きのできる施設が完備された別荘は、借りるのにお金がそれなりに掛かっていたのでもし好きな時にいつでも使えるようになるならありがたいと思い、このイベントに私たちも参加したのでした。
「豪華だけど参加条件が大変だからね。この大会に出れたのはみんなで頑張ったからだよ」
「そうっすね! あーしもいっぱい魚を釣ったっす!」
「マヤっちはお魚さんに食べられてしまっていましたけれどね~」
「あー、きこえないっす! あーしはとっくに忘れたっす!」
テニスの参加条件は各レクリエーションで担当NPCに認められ、ギルド単位で与えられるスタンプカードに『休息認定スタンプ』をいっぱいにすることでした。
「それにしても―――、この町に来られるようになってギルドもずいぶん増えたよね」
「あっ! 見てみてラピスちゃん! 対戦相手のってもしかして青春アカデミーの木之下たちじゃない?」
コータたちと握手をしている選手を見れば確かに見覚えのある二人でした。そのままラケットトスでサーブ順を決めに入ります。
「えっと、たしか木蓮さんとバリィさんだったよね」
「あっちのベンチにいるのはバスルにルリリン、それにヨシヒコ! あっ、カナデもいるねー! おーいっ!!!」
私も関りの持った人の名前は出来る限り覚えるようにしていますけど、未だに学校のクラスメイト全員の顔と名前を憶えれていません。それの苦手意識がゲームでもあったせいか青春アカデミーの学友も全員は覚えきれていなかったのですけど、すぐに反応できるアユちゃんはコミュ力がとても強くて凄いのだと改めて思いました。
「ワンセットマッチ、コータ、トゥー、サーブ! プレイッ!」
開始の合図が受けてボールを2度ほど弾ませて左手に掴んだコータは、高くボールを投げます。
「はっ!」
パンッ! という軽いようで鋭い音が響きボールがサービスコートに着弾、そのまま木蓮くんの足元目掛けて低く跳ね、後ろのネットへとボールは勢いを衰えさせないまま飛んでいきました。
「フィフティーンラブ」
「木之下、立ってるだけじゃボクには勝てないぜ?」
「そうだぜ? ちゃんと振れよなー」
「ちょ、ちょっと待て! コータはともかくなんでバリィまで!?」
サービスエースを決めたコータの煽りにペアを組んでいるバリィくんも乗って来て涙目になる木蓮くんの姿見えて、少しだけ同情してしまいました。
「ちょっと可哀そうだね……」
「そう思うなら敵チームだけど応援してあげたら? ラピスちゃんが応援したら喜ぶと思うよ。―――その後は大変だろうけど」
ちょっと最後の方が聞き取れませんでしたけどアユちゃんに言われて、理不尽にいじられている木蓮くんを見ていられなくて私はすぐさま行動に移します。
「よしっ―――、木蓮くんがんばってーーー!!!」
「え、ラピスちゃん!? 嬉しいけど火に油ぁぁああああ!!!」
「《《木蓮》》、てめぇ覚悟はできてんだろなぁ!!!」
「ラピスちゃんは何をやってるんですか……、いえ、これはきっとアユちゃんが炊きつけた結果でしょうね」
大きく手を振ってくれる木蓮くんと、なぜか試合開始前よりやる気に満ちたコータ、それを面白がるバリィと呆れるミナツちゃんと、どういうわけかそれからはいじられることもなく真剣な試合がそこからは展開されていきました。
「ゲームセットッ! マッチウォンバイ、リトリ・ア・ポコ!」
「やったぁー! コータもミナツちゃんもお疲れ様!」
「ありがとうございます。コータさんがコートを駆け回ってとても頑張ってくださったおかげです」
ミナツちゃんが謙遜していますけどそんなことはなく、コータが動きやすい様に位置取りをしながらボールを誘導して甘い球を誘っていました。ポイントを決めるだけが活躍ではなくそういう気配り的な動きを実践できるミナツちゃんも凄い技術を持っていると思いました。
「純粋なステータスによる身体強化のみで魔法が禁止のこのルールでなければ、ラピスちゃんの方が私よりサポートとしての動きはきっと上ですよ」
「そうかなー? ターゲット機能が使えないから純粋なテニスの側面があるし私にはちょっと無理だと思うよ」
なんでゲームにそんなリアリティーを再現してきたのか本当のところはわかりませんけど、運営にテニスの好きな人がいて、本気でテニスというものを遊んでほしかったのかもしれませんね。
「二人ともおめでとうございます! 次はいよいよ決勝戦ですね!」
「リョウも応援ありがと、せっかくだしボクたちがあの二人に勝てるかどうか占ってもらっていいかな?」
決勝戦の対戦相手をコータが見ると知り合い、……というかアレスさんとハナさんでした。
「占いで未来が見えませんね。勝てるのを信じていますが手強い相手だと思います」
「うーん、というよりもスキルが使えないルールで魔法職のハナさんが決勝までくるってどうなんだろ……」
私の疑問は試合が開始されて少しして解消されます。私たちの目に映ったのは―――棒立ちのハナさんでした。




