第146話 【七夕】奈津美、将来の夢を七夕の夜に願う。
私たちのやってきた妖仙世界はレトロな和風と中華風が混じったような世界観で、桃源郷というものがあるならこんな感じなのだろうなと思えるような山々の自然が豊かな世界でした。
「―――火炎斬ッ! はぁっ! やぁっ! ―――エアショックッ! アユちゃんお願いします!」
「おっけーっ! ―――舞え、水飛沫っ! 散弾水ッ! からの~、ホーリーアドオンッ!」
『シキャァァァァア~~~……』
『シカシカァッ!』
山の中で私たちは鹿の群れを相手に戦い続けます。幸い勝手に襲ってこないのモンスターのようで、私はHPを見ながら余裕があればタゲ取りを遠当てで行い、戦う匹数を2~3匹になるように調整しながら休まずに〝鹿の角〟を集め続けます。
「ミナツちゃんもういいよ~、全員分の必要数揃ったから。おつかれさま、―――ヒールっ!」
「ありがとうございます。ラピスちゃんもお疲れ様です」
「二人とも私にも~!」
「私も! 私も労って欲しい! ラピスちゃんっ! いっぱい労ってっ!」
アユちゃんに続いてプリアちゃんもめんどくさい感じに絡んでいきます。
「はいはい。二人ともお疲れ様。ラピスちゃんにお願いするならあなた達からラピスちゃんを労ってあげてね」
「あっ! そうだね! ラピスちゃんにミナツちゃん、おつかれさま!」
「プリアちゃ~ん! 私には―?」
「アユちゃんもおつかれさまだよっ!」
……なるほど。こういう風に子どもを導くのが教師の仕事なのかもしれません。プリアちゃんは私より年上で働き始めてますけど、突然親元を離れて一人暮らしをされていますし、甘えたい時期なのかもしれないなと冷静に分析できている自分に恵美が零れます。
「―――『立派な教師になれますように。』私の願い事に一歩近づけたようで嬉しいですね」
「なれるよ。ミナツちゃんならきっとなれる。だって私の友達だもん。みんな凄い人たちばかりで頑張り屋さんだからね」
「そうですね。ふふっ、ラピスちゃんにそう言ってもらえたならなりますね。―――必ず」
そういえば森永先生が教師になる前からラピスちゃんは知り合いで、先生の夢を叶えるところを見てきたんでしたっけ。そんな子が背中を押してくれるなら―――、絶対に叶えるしかないじゃないですか。
「ほう。ヤスナガ殿は東の隠れ里で遊んでられたのか。織田家に仕えておったとは忍者の中でもかなりの実力者じゃのぅ」
「はっはっは! ミコ殿のお噂はこちらの地方まで届いていらしたのでな! あちらでお会いできた時は感動でしたぞ!」
「あーしもっす! ミコさんに憧れて呪術師になったっす。状態異常は使いこなせなかったっすけどいつかお会いしたかったっす」
みんなせっかくなのでイベントを楽しみたいと、急な鹿狩りとなって時間に追われていて落ち着いて話もできませんでしたが、最低限のノルマがクリアできたことで和気藹々とした雰囲気で思い思いに話に花を咲かせます。
ピコン。
〈 鹿王ヌンヌンのHPが50%を切りました。鹿の角を装備することでフィールドのプレイヤーも専用マップへと移動可能になりました。 〉
届いた通知を開くと目の前に現れたシステムウインドウにはイベントボス戦への参加券が緩和されたと書いてありました。
「ミコさん、もちろんいかれますよね?」
「どうしてわっちに聞くのじゃ。ギルドマスターのラピスに聞かぬか」
私はミコさんがうずうずしているので聞いたのですがラピスちゃんに聞けと言われ、どうするか尋ねたところ即答で行こうと応えてくれました。みんなミコさんの行きたそうな感じが伝わっていたので苦笑するしかないのも可笑しかくて心の中で私も笑えました。
「「「しかのこのこのこなんとやら、しかのこのこのこなんとやら♪」」」
〝鹿の角〟装備を手に入れてご機嫌なラピスちゃん、アユちゃん、プリアちゃんは町中で踊り遊びます。私も誘われたのですが、さすがに恥ずかしくて遠慮しました。
「のぅ、ミナツよ。セピアから聞いたがお主は教師を目指しておるのじゃろ?」
「はい。先生やエミルさんのような生徒に寄り添える教師になりたいと、先生の生徒として一緒に一年を過ごして思い、夢をすることに決めました」
「……夢は否定せん。頑張れとしかわっちは言えんからのぅ」
大人組と共に三人を見守る私にミコさんはゆっくりとした口調で話しかけてくれます。その口調の変化だけで真剣なんだと思わせるのが大人だとも思え、私も落ち着いた口調で誠意をもって返します。
「じゃが、一緒に過ごしてわかったじゃろ。あやつは一緒に寄り添っているようで、それでも教師としての責任から同時に一歩引いてお主らと接しているという事にも」
「……そうですね。ゲーム内で友人だったラピスちゃんはともかく、私たちにはそうだと思います」
「大人はというのは自身の行動に対して誰も責任を取ってはくれぬ。それ故に全力で楽しんでいようが己自身を客観的に見て問題が起きないように配慮をしておる。……まぁ、一部でそれが出来ぬ馬鹿がおってマナーやルール、法律を無視して問題になるのじゃが」
ミコさんの言いたいことは理解できる。私たちは高校生という自分で判断できるような歳になっても未だに保護者という両親たちの存在に守られているのだと。
「じゃからな、大人になってしまえば無意識に心にブレーキをかけているんじゃ。―――今を、子どもっぽいと言われような若者である今をお主はもっと大切にするとよいぞ。ああやってネット上ではしゃいでいるプリアもリアルじゃともう少し……、本人以外に現実の話をするのは無粋じゃな。忘れてほしいのじゃ」
ミコさんの言葉を胸に深く刻み込んで残りの学生時代を後悔しないように過ごそうと、これまで以上に思うことにしました。
「ミコさん、ありがとうございました。今すぐは無理でも少しでも子どものうちは子どもらしくあろうと思います」
「よい。ただの老婆心からのお節介じゃ。ほれ、コータもお主同様に踊っておらんしな」
言われてみてそういえばと思いました。コータの場合は私とはまた違った思春期特有の恥ずかしさからなのでしょうけど……。
「ほれ、お主たちはいつまで踊っとるのじゃ! 鹿の角が手に入ったのなら早くヌンヌンの元へと行かぬか!」
「えー、けっきょくミコさんが仕切ってるじゃん」
「アユよ、ここで決闘でもするかや?」
「魔法職にサシを挑むってちょっと大人げなくない!? ほらラピスちゃん早く早く! ミコさんがお年寄り特有の……」
「それ以上は禁句じゃ!」
「あははっ! それじゃ、鹿王ヌンヌンの元へ行こっか。みんな準備はいい?」
全員が鹿の角を装備してラピスちゃんの合図を待ちます。
「それじゃ、転送スキル発動っ! 行先はバベルの角」
ラピスちゃんが消え、1秒を置かぬうちに全員が転送を発動させて視界暗転後に目的地へと移動しました。
『ぬんっ! ぬんっ! ぬぅーーーんっ!』
辿り着いたそこでは巨大な鹿が角を振り回してプレイヤーを蹂躙している光景が広がっていました。




