第145話 【七夕】鍛冶師、最強に会いに行く。
俺、梶誠一は『妖怪仙人大戦』というタイトルのVRMMORPGをプレイしている所謂ネットゲーマーだ。舞台となる〝妖仙世界〟で鍛冶師をしている〝村井マサ〟というキャラクターを操作するプレイヤーでもある。
「てぇーへんだー! 親方! 空から小倉ミコが!!!」
「はぁ? 何言って……なんだとーーー!?」
俺の工房があるのはこの世界で18番目に高いと言われる米困山で、木々が生い茂る山だが8合目付近は見晴らしの良い踊り場となっており、小川が近く、薪を集めるのも楽な便利な位置に構えていた。
「―――あっ! そうか、きょうは七夕か!!!」
空から降りてくる見覚えのあるプレイヤーには狐耳は生えており弟子のいう通り小倉ミコ、その人だと俺にもわかった。去年からサービスが始まったGFOというゲームから、七夕限定でコンバート機能とは違った方法で世界渡りが七夕限定で行われていたことを思い出したのだ。
「……で、どうします?」
「何がだ?」
「《《アレ》》、ミコさんのために作ってた装備じゃないですか」
弟子である〝宮本ハンサム〟が武器貯蔵庫を指して何かを言っている。……まぁ、言いたいことなんて百も承知だがな。
「行かなくていいんですか? 親方、ずっとあまり需要のない槍ばかり作ってるのってミコさんのためなんでしょ?」
「……ちげーよ。アレはアイツが世界最強になると言っていたのを信じて、不人気である槍装備の需要がミコの活躍で出るのを見越してスキルポイントを振って鍛えてきた、俺の欲望と未練だ。槍ばかり作っていたのは大儲けするためだといつも言ってるだろ」
アイツとの思い出はもう随分前でほとんど覚えていないが、それでも別れ際に交わした約束を、俺が守れなかったあの約束だけを覚えている。
――――――
「戦闘狂のお前らしくていいんじゃねーの? 目指すは【世界最強】か、いつか最強の槍をお前のために作ってやるよ。―――約束だ」
「―――期待して待っておるのじゃ。お主の武器で必ずやプレイヤーの頂点を極めるとわっちも約束しよう」
ロマンティックな別れではなかった。町にある茶屋でありふれたいつもの会話のノリで約束をし、そのまま俺は熟練度強化のために武器制作の拠点に今の場所を構えてひたすらに槍を作り続けた。
――――――
見上げる空には天の川、といっても昼から一日中出ているらしいが。今日は七夕だし勝手に消えちまったアイツとの約束を果たすのもいいかもしれない。
ピコン。
〈 【七夕決戦】 織姫と彦星の願いを叶えに来た時季外れのサンタクロース。しかし、馴鹿は夏の暑さにより狂気に取り付かれた! 暴走する鹿の群れ、それを治めたのは鹿王〝ヌンヌン〟だった。しかし、酷使される鹿たちを憂いたヌンヌンは自分たちが人間を支配しようと企み、鹿の角で作られた〝バベルの角〟の頂でプレイヤーを待つ。鹿との共存か、戦争か。見届けろ、最強の激突を! 〉
届いたお知らせを開くと現在開催中の『しかの子』コラボイベントの告知が来ていた。現在、プレイヤーたちはこのバベルの角を攻略するために鹿モンスターを倒してイベントアイテム〝鹿の角〟を集めている。プレイヤー〝鹿の角〟保有数でヌンヌンの戦闘力が下がるからだ。
「煽り文句がなかなか言うじゃねーか、最強とは面白いな。これにアイツが興味持たないわけがない。―――いくぞ、《《宮本》》」
「りょうかいです! 《《マサさん》》!」
ミコと出会い最前線で攻略に参加していた俺は〝槍雨のマサ〟と呼ばれていた。
「待っていろよ、鹿王。―――槍の貯蔵は十分だ」
鍛冶師の戦闘スキルは〝武器投げ〟だけを育てており、本来はスキル使用時に生成されるレプリカで攻撃するところを、自作の槍を消耗品として武器を投げることで威力を底上げする散財型プレイヤーとしてミコと共に名を馳せた。
「対人最強になるための武器を作ってやれなかったが、人類最強と鹿最強の戦いには俺の武器を使いやがれ。てか、ぜってーに使わせる」
生産職ながらも戦闘ができる俺は自作の槍がどっさりと積まれた荷車を牽いて、イベント参加のための〝鹿の角〟を集めるながら弟子の宮本と共にバベルの角を目指した。
「待ってろよ。―――最強共」
知らぬ間に小倉ミコは最強になっていた。武器が間に合わなかったのを後悔した。だから、今度は間に合わせる!
『俺の作った最強の槍をアイツに渡せますように』
自信作の槍に願いを込めた短冊を吊るして……。




