第144話 【七夕】結、妖仙世界へと向かう。
あーしは間宮結、しがない絵描きっす。イラストレーターなんて職業は映像技術がリアルになった今では不要という人もいるっすけど、2次元と3次元という次元の壁は永遠に越えられないのが現実だとあーしはみてるっす。
「納品完了っす。……それにしてもやたらと鹿のイラスト依頼が多いっすね」
世はまさに【しかのこのこのこなんとやら時代】と呼ばれるほどに鹿に侵食されていたっす。いや、さすがにバーチャルとはいえ自宅で鹿を飼う時代やら一家に一頭やらは侵食されすぎっすけど……。
「あ、もうこんな時間っすか。マリアよりも早くログインして集合場所にいかないとまたいじられるっすね」
あーしはギルドマスターであるラピスちゃんの決めた時間に〝フワマリンネの祭壇〟に集まるために急いでVRゲーム機を体に装着してGFOのゲームを起動した。
「ふふ、あーしがマリアにいっぱい妖仙世界を案内してあげるっすよ」
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・コンバートではないのでレベル、ステータス、スキル、職業などプレイヤーデータは引き継ぎ
・レベルアップと転職も可能で転移先の世界のスキルも習得可能
・通貨は共通だが、元の世界へのアイテムの持ち出しは不可
・転移先のゲームがインストール済みなら全マップ移動可能、されていなくてもパーティメンバーにインストールした人がいる場合は同マップ+ 1まで移動可能
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事前にラピスちゃんから聞いた世界転移に関する情報はこんなところっすね。あとは【七夕】というイベントでの移動ということでゲームの日にち切り替え時間である明朝5時まで滞在可能みたいっす。
「それだけあればマリアをいっぱい連れまわせるっすね。あの人、月曜休みのはずっすから朝まで付き合ってもらうっす」
「あははっ、マヤさんってマリアさんのこと好きだよねー」
「ラピスちゃんもアユちゃんのこと好きっすよね」
「うん! あっ、私たちってもしかしたら似たような感じなのかもー」
祭壇のある崖ダンジョンへ向かうためカザグルに着いたら丁度ラピスちゃんとアユちゃん、ミナツちゃんがいたので合流して向かうことにしたっす。この子たち、本当に仲がよくて羨ましいっすね。それにしても好きって素直に言えるのが羨ましいっす。あーしはそのまま返してはぐらかすことしかできないっすから。
「せっかくなんであーしがしっかりと妖仙世界を案内してあげるっすよ。どうせ明日は暇っすよね? 朝まで付き合ってもらうっす」
「ありがと~。マヤっち大好き~」
「マヤさん、結構マリアさんのこと好きですよね」
「リョウ、五月蠅いっす」
「最近の僕の扱い雑ぅー!!!」
祭壇につくとマリアたちがいたのでさっそくあーしはさっきラピスちゃんたちと話していて結果的に予行練習となった台詞をマリアに向かって宣言します。―――このノータイムでの返し、子どもじゃないのにあーしを信頼してくれているのが嬉しくもむず痒いっす。
「マヤ殿! ワシもその深夜の散歩に少しご一緒してもよろしいでござるか?」
「いいっすよ。別にマリアとデートってわけじゃないっすし」
「マヤっちのエっち~」
「同郷故、マヤ殿のオススメスポットなどに興味があるでござる。―――ワシらはこちらで会うまで顔も知らぬ関係であったということは、行動範囲も恐らくは被っておらぬでござる。ワシは今の気持ちであの世界で見てこなかった部分を見てみたいのでござるよ」
ヤスナガさんの気持ちもわかるっす。あーしも《《あの》》小倉 ミコが見てきた世界が興味あるっすから。同じ世界にいるのに、ミコさんが見てきた世界と表現するのは変かもしれないっすけど、それでもあーしの知らない世界はたしかにあるっす。幸い、そちらに関してはラピスちゃんたちとの団体行動で一緒に回る予定っす。
「みな、待たせたのじゃ!」
「あ、ミコさん! プリアちゃん!」
「ラピスちゃん! みんな! 久しぶり!」
七夕の日にのみ世界転移が行えるということでプレイヤーが入って来くるっす。みんなどこの世界に旅立ってくっすかね。そんなことを考えている間にミコさんとプリアちゃんもやってきて世界転移をするためにギルドメンバー全員が揃ったっす。
「貴重な休みにごめんね」
「ラピスちゃん! そこは〝貴重な休みをありがとう〟だよ!」
「うん、そうだね。プリアちゃん、ミコさん、貴重な休みに集まってくれてありがとう!」
このギルドマスターのラピスちゃんは本当に見ていて微笑ましいっすね。あーしもっすけど、人が集まってくるのも頷けるっす。さっそくということでパーティーリーダー権限をあーしが受け取りフワマリンネの転移先にある〝妖仙世界〟を選択したっす。
「本当に出てたっすね。あーしとミコさん、ヤスナガさんは里帰りっすけど、みんなも楽しんでほしいっす」
リーダーを引き受けたのは妖仙世界へ行くためにコンバート元が妖仙世界である必要があったこと、そしてあーしが一番最後までログインしているからということからっす。
「マヤっち~、いい景色だから一緒に見てみないかな~?」
「いやっす! あーしは見ないっすよ!」
フワマリンネに乗って世界を渡るのがまさかそのまま風船に捕まって移動するとは思わなかったっす。いつもの高いっすねーと言っていられる高さでなく雲を越えていくとは聞いてないっすよ!?
「ついたー!」
「いいね!」
「ラピスちゃん、アユちゃん、青い鳥がもういないのは置いておいても……これは鹿に侵食されていません?」
「「しかのこのこのこなんとやら、しかのこのこのこなんとやら……」」
ミナツちゃんが指摘した通り青い鳥がいなくなってもう一年っすか……。もう随分と遠い昔に感じるっすね。今度、みんなが思い出せるように青い鳥のイラストでも描いてネットに投稿してみるっすかね。
「お主たちも鹿になっておるのじゃな……」
「流行ってるからね!」
「アユはともかく……、ラピスまでとは思わなんだぞ。恥ずかしがり屋だと思っておったがテーマパークなどでは案外とはしゃぐタイプのようじゃのぅ」
それにしても鹿っすか。ここは『桃源京』っていう始まりの町っすけど、みんな鹿の角を付けているっすね……。あーしらの世界は鹿に陥落したっすか?
「あ、思い出しました。CMで見たのですけど、今はこの世界は『しかの子』とコラボ中みたいですよ」
「へー、リョウも『しかの子』知ってるんだー」
「あの曲の中毒性は異常ですからね……、実は24時間耐久ループで完走をしちゃいましたよ」
「……マジ? リョウさんって呼んだ方がいい? ちょっと見直したというか尊敬したんだけど」
……ちょっとガチの人がいたっす。けど、好きを誰も否定しないし馬鹿にしないのは良いっすね。せっかくなんであーしらもイベントも楽しむことにしたっす。夜明けまで時間はあるっすからいっぱい楽しむっすよ!




