第142話 茉実、小説家になる。
暖色系の天井照明に照らされて、私は部屋でパソコンに向き合う。カタカタとタイピング音がよく止まるが、それでも一文字づつ……少しづつでも文章になるように文字を打ち続けた。
「はぁー。小説を書くって大変だ~~~」
キリの良いところまで打ち終えて出伸びをしながら少し休憩する。時計を見ると0時45分と表示されていた。
「今日も楽しかったし、今日のことは今日のうちに書かないとね」
今、文字に起こしたのはラピスちゃんたちと遊んだ今日の冒険のワンシーンだ。私は私たちの思い出を、ラピスちゃんの活躍をみんなに知ってもらいたい。その一心で面白おかしく脚色しながら小説投稿サイトへ投稿を続けていた。
「学業、遊び、仕事、全部やらなきゃいけないのが学生作家の辛いところだぜぇ……なんてね。さ、あと13分頑張りますか!」
ラピスちゃんと別れてから寝るまでの間、具体的には両親とゲームを終了すると約束した23時から25時までの2時間が私が自由に活動できる時間だ。それ以上の夜更かしは眠たくて体調も崩しそうなのでしないことにしているし、なんだったらもっと早くに寝ることもある。身体は資本、この考え方が私は好きだった。
「えっと、マヤさんがまた属性耐性でダメージを与えられなくって、って、待って。マヤさんって実はポンコツ!?」
こうして冒険を振り返ると様々な気付きが得られて面白いなと書き始めてから思う。たぶん日記を付けている人はこういう気持ちなのだろう。……いや、これも日記のようなものか。フィクションを交えて面白おかしくしているだけで。
「なんかそこらにあるドラマやゲームのキャラたちよりも、私の周りの人たちの方が濃くないかな……」
自分を棚上げにしてそんなことを呟いてみるが、存分にゲームを遊んで、冒険して、いろんな人と交流して……、圧倒的にドラマとかよりもドラマティックな人間模様と自由度の高いゲームを持つネットゲームという媒体に私はどっぷり嵌っているのを自覚した。
「よしっ! 今日の作業は終わりっと」
書いた小説を保存してパソコンのシャットダウンを選択する。面白かった場面だけ書いて、あとはあらすじのようなもので補完しておく。続きは休日などの時間のある時に書けばいいのだ。これは思い出で、フィクションで、リアルタイムの投稿ではない。そのため毎日の出来事を一話ごとにまとめなくてもいいのだから。
「さ、ちゃちゃっと寝ちゃいますかー」
自由な2時間のうち小説を書くのに使える時間は自分でノルマを決めた勉強が終わったあと。だからなのかはわからないけど、この小説を書き始めてから集中力が一段と増しているのを感じていた。
――――――
高校2年生にあがった時、放課後の教室で森永先生に私は夢を語った。
「私は先生やラピスちゃんが大切にしてきたネットゲームをもっともっとみんなに遊んでほしい。―――だからさ、無茶でも無謀でも、私はGOD・F・オンラインの運営会社『|C.Gレヴォリューション』への入社を目指すよ」
「……はぁ。バカだバカだとは思っていたが、大バカ者だな。宮木の教師になりたいという夢よりも馬鹿げてるぞ」
森永先生が呆れるのも無理はないと思う。私の学力はラピスちゃんや美奈津ちゃんと勉強を一緒にするようになってから順調に上がり、今では学年で上から数えた方が早いまでになった。それでも一流大学を出て一流企業に就職するには普通に考えたら遅すぎる。
「美奈津ちゃんの場合は教師になったあとの心配でしょ? 教師は激務、よほどの理由がなければなるもんじゃない。一年間も一緒にいて、先生が生徒一人ひとりに寄り添って色々と考えて、行動して、休みもないような生活してたのはみんな知ってるし、あの子には無理なんじゃないかって意味だよね」
美奈津ちゃんの学力なら教師になるという夢は叶えられると思う。それこそ優等生、模範となるように不義理を許せない性格だ。立派な教師になれると思う。その教師としての自分に美奈津ちゃんが潰されないかは私も心配だけど、先輩である森永先生ならストレス発散やら効率の良い方法などを教えてくれたりとなんとかしてくれるんじゃないかとも思っている。
「そうだ。そして狐島、お前に足りないのは学力、単純な就職活動での争いにおける優位点がないことだ。俺はお前らの良さをわかってる。けれど、大企業で働いている採用担当たちは違う。何十人、何百人を比べてより成果をあげられそうな人材を採用するんだ」
「その比べるベースが卒業大学や採用試験での点数、面接時の印象だよね」
教師らしく、というか教師だけど。黒板に私が理解できるように図に直して書いてくれる森永先生はやっぱりすごい教師だと思う。そんな先生が憧れる教師の恵美さんもきっと凄い教師なのだろう。―――そして、それを目指す美奈津ちゃんも。
「たしかに今の私じゃそこそこの大学しかいけないと思う。内申点だって低いと思うし。けど、だったら私にしかできない私を表現して世間に認めさせれば私を無視できないと思うんだよね」
「……今、何回『私』って使った? そういうところだぞ?」
「けど先生って私のこと好きだよね? 人間としても友人としても」
そう、これは教師としての森永先生へではなく、セピアさんというネットゲームの友達に対して私は夢を語ったのだ。―――いくら私でも公私で先生に対しての話し方はさすがに変える。そこも森永先生はわかって話を聞いてくれていた。
「私、ラピスちゃんと遊ぶようになって思うんだよね。楽しいを作るのに性別も年齢も学歴も何もかも関係ないって。だって人と人が出会う、それだけで物語になるんだもん」
「―――そうだな。なら狐島、お前の物語はお前ひとりで作るわけじゃないことはわかっているんだな?」
「うん。好きに生きていいと言われてもお父さんもお母さんも大事にしたいし、ラピスちゃんに奈津美ちゃん、それにプリアちゃんにリョウさんたち、もちろん先生もだし、あとアレスさんやハナさん、みんなみんな大切な人で私はみんなとの出会いを大切にして私の物語を紡いでいきたい。みんなとの思い出の詰まった場所を、集まれる大切なネットゲームを見守っていきたい」
そりゃあ私だって親や先生、友達に心配かけたくないしね。だから私は私なりの方法でアピールして採用してもらえるように頑張るんだ。
「私、ラピスちゃんとの冒険を面白おかしく直して小説にしようと思うんだ。私はこんなにもFGOを愛しているんだぞってアピールするの! そしてラピスちゃんの凄さを世間に知らしめるんだー!」
「……それ、ラピスは知ってるのか?」
「知らないし、言わないよ。その方がびっくりするだろうし、内容も分かる人だけ分かればいいからね」
勉強も頑張る。その上で私の小説がいっぱい読まれて有名になればアピールポイントになる。開発も知らなかったようなバグも私は見つけた。デバックチームにどうですかと押し売りもできるかもしれない。これらは遊びながら実行できることだ。ラピスちゃんと遊ぶことがネタ探しなのだから。
「ダメそうなら普通に働くよ。けどさ、夢くらい見てもいいじゃん。一度きりの人生だもん」
「……そうだな。確かに狐島は頑張ってるしな。ダメな時のことも考えているならもう何もいうことはない。―――頑張れよ」
「もちろんっ!」
私のお父さんはサラリーマンだ。子どもの頃の夢とは違う仕事をしているけど、今はやりがいを感じていると言っていた。たぶん大人になって働くってそういうものだろうと思う。だから、もし夢は叶わなくても新しい夢が出てきたり今の生活に満足できると思う。だって私はお父さんの娘だから。
「あ、そういえば先生、父の日のプレゼントって何がいいと思う?」
「おまっ!? 俺はまだ独身で子どももいねーし知らねーよ!」
今年の父の日はお礼も兼ねて、お父さんに贈ったちょっと高めのハンカチの色違いを森永先生にも贈った。ラピスちゃんも奈津美ちゃんも先生にそれぞれプレゼントしててみんなのお父さんって感じでなんか微笑ましくて笑えた。今度、小説のネタにしてやろうと思う。ありがとね、セピア先生。
小説のタイトルは『栗毛聖女の受難』だ。応羽さんとかならすぐに気付いてくれるだろう。ラピスちゃんが聖職者の魔法が使えなくて、それでも頑張ってきた道のりはそれだけで一大スペクタルなのだから。




