第141話 康永、孫の成長を見守る。
儂の名は大和康永、最新技術と伝統を愛する老人である。時代と共に進化していったMMORPGと共に年齢を重ね、今は自慢の日本庭園を一望できる縁側に腰掛けて孫が紙風船で遊んでいるのを見守っている。
「康光よ、儂にもその紙風船を貸してはくれんか?」
「えー、ヤだよー。じっちゃんすぐに割っちゃうじゃん。―――けどお年玉いっぱいくれるし、はい」
「はっはっは、子どもの力加減は難しゅうてな。ありがとうのぅ、康光は優しくて聡い子じゃけん」
康光には伝えていないが、儂は発達性協調運動障害を患っており、大ぶりな動きになりがちで握力も弱く紙風船のような軽い玩具でなければ子どもの遊びにも付き合えない身体だった。
「やすみつー。お爺ちゃんにそんなこと言っちゃダメよー」
「あ、おかーさん! おかえりなさいー」
「陽菜さん、いいんじゃよ。儂があの子の玩具をよく壊すのは事実じゃしのぅ」
「ですがそれはお義父さんの―――」
儂は陽菜さんの言葉を手で遮って近寄ってきた孫の頭にそっと手を置く。
「お、そうじゃ。康光よ、儂の贈ったVRゲーム機はどうじゃ? 楽しんどるか?」
「うん! 正直、子ども騙しだと思ってたけど凄いね!」
「やすみつは子どもでしょ? この子は何を自分が子どもじゃないみたいに言ってるのよ」
「おれ子どもじゃねーし! 剣とかぶんぶん振り回してお姫様を助けた勇者さまになったし!」
はいはいと母親にあしらわれている様子はまさに子どもそのものだったが、口を出さずに康光のプレイしたゲームの話に耳を傾ける。儂は高価なハードこそ買いはしたもののソフトは親から贈られた方が嬉しいと思い与えなんだ。それ故に康光がどんなゲームを買ってもらったのかを聞くのも一興となっていた。
「はっはっは、そうかそうか! あの『最終ドラゴンファンタジー弐拾』をクリアできたのか! 凄いでござるな!」
「お義父さん、ござるですか?」
「すまんすまん、ついゲームでの喋り方が出てしまったわ! はっはっは! それにしてもあのゲームを選んだのは光彦かのぅ?」
「ええ。なんでも昔にお義父さんと一緒に遊んだゲームだとかで懐かしいなっと―――」
陽菜さんが語る旦那としての息子が話してくれた思い出は随分と脚色されており聞いているこちらが恥ずかしくなるようなものだった。―――それに光彦と遊んだと言ってもあの子が遊んでいる横であーだこーだーと儂が口を出していただけじゃろうに……。覚えててくれたことに涙が出るのぅ……。
「あっ、もうこんな時間ですか。そろそろ光彦さんが帰ってくるので失礼させていただきますね」
「えー、ござるって何! じっちゃん、それだけでも教えてよ~!」
「こらっ! お義父さんを困らせるんじゃありません!」
孫も随分と大きくなった。VRゲーム機で遊ぶのにも慣れてきておるし、儂もそろそろ老い先短いじゃろうし、誘ってみるのも一興かのぅ。そうじゃ、光彦も誘ってみるのも面白いのぅ。この身体でもゲームの中なら息子や孫と存分に遊べる。本当に良い時代まで儂は生き永らえたわいな。
「……そうじゃのぅ、康光も儂と一緒にネットゲームをプレイしてはみんか? GFOというゲームを儂は遊んでおるのじゃ」
「え! それってあのいっぱいCMやってるヤツ!?」
「お義父さん?! この子がネット犯罪にでも巻き込まれたらどうするんですか!」
「光彦もいればネット上の危険も防げるじゃろ。……老い先短い儂の頼みじゃ、聞き入れてはくれんか」
母親として心配なのは分かるが、ふいに湧いて出たこの願いを儂は諦めたくないと思ったのじゃ。ここまでストレートに言うのは卑怯かも知れぬが、それでも通してほしいと陽菜さんの目を見て真剣に訴えた。
「……はぁ。お義父さんにはよくしてもらってますからね。帰ったら光彦さんと相談してみます」
「もう一台のゲーム機は儂が―――」
「いえ、結構です。光彦さんは《《自分で買ったゲーム機》》でお義父さんと遊びたいでしょうから。―――あの人も、もう子どもじゃないとあなたに認めてほしいんですよ」
「……そうか。―――なら楽しみにしておると、そう伝えておいてもらえると助かるのぅ」
陽菜さんは微笑みで返事をし、自宅へと帰っていった。
「さて、今日はラピス殿たちはログイン出来ぬといっておったのぅ。ギルドの暇な御仁を誘ってクエストでも受けてみるか……、あるいは誰かと野良パーティーを募集して少し足を延ばしてみるか……」
ご飯を炊いて、仏壇へと足を運びながらゲームで今日は何をしようかと色々考える。
「お登代さ、儂もお前さ失ってから時間を多く無駄にしたのぅ。……けれど、人との繋がりを大切にしておる優しい子に出会ってのぅ。……あの子らと遊べるだけでも幸せなのに、ラピス殿たちと触れ合って何かを感じてほしいと思うのは贅沢かのぅ」
半生以上を共に過ごした人生の伴侶に対して、今日の出来事と一緒にゲーム内の友達のことも話す。ラピス殿もリョウ殿もみんな日々成長されておる。もうあの子たちは儂の人生の一部で孫みたいなものだと思っておる。
「さて。そろそろご飯も炊けたかのぅ。あの子たちとも遊んでくるでな。それじゃあ、また」
儂は様々なプレイヤーとゲームを遊んできた。その中でも、あのラピスという子とその周りに集まる子らはこれまで一期一会で関わってきた子らよりもゲームを現実として捉え、人付き合いを大切にしているのがわかり好感を持っておる。
「袖触れ合うも他生の縁、あちらの孫らも見守っていきたいでござるな」
できうる限りの助言をしよう。手を貸そう。それが先人であり無力な儂にできる、この先を生きる光彦や陽菜さん、康光たちも含めた未来を生きる者たちに縁が繋がる、儂の生きた証になるやもしれぬのだから。




